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ミッドナイト・マイウェイ

誰もいなくなった夜の街で、1人の少年が自転車に乗っていた。彼は青年にも見え、中年にも見える。要は老け顔ってことだ。 
親戚の集まりで7歳離れてる兄の、兄になったことがある。まったくもって酷い話だ。
そんな彼でも夜の街に風情を感じるほどには情操教育がなされている。

普段は肩身の狭い路側帯も、今なら伸び伸びと走ることが出来る。

自然と速度が上がる。
夜風が頬を撫でる。
夜風が前髪をひっぱたいて、後退し始めた生え際前線があらわになる。
 
醜態を晒しながら彼がふと呟いた。
「そうだ…ハリウッド映画を撮ろう。」
「設定は…そうだなぁ…誰も居なくなった世界で1人愉快に生きる男。これで決まりだぁ!」

彼は鼻歌交じりにゴーストタウンを走り抜ける。自分以外の人間を探すというていで、この異常事態を楽しんでいるのだ。

…ちなみに彼は、かれこれ5年間は人と出会っていないので、いい感じに仕上がっちゃってる設定だ。

彼は、溢れ出る狂気に身を蝕まれながらも
律儀に信号を守り、左側通行を守っている。
根っからのバカ真面目なのだ。
そして彼自身それを認識してる。

「これだからBOY♪
          いまだにチェリーBOY♪」

…ほらね。
低俗な歌が、川のせせらぎ…もとい、用水路の水しぶきとマッチしている。
終末とはまさにこの事である。

彼は必要以上に端に寄りながら道を進んでいた。他人に迷惑をかけない一心でブロック塀に心をすり減らされながら生きていた。

今は彼の道だ。
彼だけの道だ。

「GO MY WAY!!!!」

声がでかいな。普段自転車で歌っていても
人が近づくと咳払いして誤魔化す分際で。

スピードがゆっくりになる。
彼の家が見えてきた。
彼は露骨に残念そうな顔をしている。

非日常にあてられた彼は日常へ帰ってゆく。
彼も、もう5年ほど家に帰らなかったら
心落ち着く場所のありがたみを知れるだろう。
それまでは子供でいいのさ。

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