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中国赴任は2度目が危険?悪慣れする駐在員

大使館や弁護士などから「駐在員の悪慣れ」についての注意喚起を耳にする機会が増えました。実際、中国は再赴任や長期赴任のケースが他国より多いようです。今回は転ばぬ先の杖として注意喚起したいと思います。

このnoteは、毎週水曜に配信するYouTube動画のテキストバージョンです。
記事の末尾に動画リンクがあります。


中国駐在は再登板が多い

駐在定員が多い

中国駐在で再登板が多くなる理由の一つは、中国というマーケット、事業環境としてのインパクトの大きさです。

中国に拠点がたくさんある、拠点の規模が大きい、事業規模が大きいとなると、駐在員の定員が多くなります。駐在員を一人しか置かない国と100人近く置く中国では、当然人員のやりくりが違います。誰かに行ってもらわないと困るのに、人が足りなくなりやすいです。

また、中国ビジネスでは常駐が必要な拠点も多いです。他国だったら非常駐になるところが、中国は誰も置かないわけにいかない(いろいろな意味で)。結果的に駐在員の枠が大きくなり、巡ってくる頻度も上がってしまいます。

経験者の方が何かとやりやすい

中国駐在は、確かに経験者の方がうまくいく面もあります。

まずは言葉です。英語は基本的に通じませんし、製造拠点では日本語ができない従業員のほうがずっと多いですから、過去に行ったことがあり、多少しゃべれる人、耳が慣れている人がいいだろうとなりがちです。

そして、中国は人脈がないとなかなか進んでいかないお国柄。多少の経験と土地勘があり、社内や政府など社外の人脈ができている人にお鉢が回ってきやすいです。

実際、中国駐在は素人にはハードルが高いことは否めません。私もタイ、フィリピン、インドネシアといった国々の様子を見てきて、タイではずいぶん現地で仕事もしましたが、中国のビジネスはいろいろな意味で初心者には難しく、経験者の方がいいだろうと思います。そのためか、登板が3度目、4度目とか、中国国内でスライドを重ねて20年超という方も知っています。

本人の適応力が高く、長期赴任を嫌がるような事情もなければ、再登板、再々登板は有効な方法ではあると思います。

とはいえ、気になる傾向も。これはいまに始まったことではありませんが、特に最近は耳にする機会が増えたという印象を持っています。

再登板の留意点3つ

留意点を3つ、ざっと挙げると、適性の問題、悪慣れの問題、それから悪行の問題です。詳しくみていきましょう。

適性の問題

言葉もわかっているし経験も豊富だから適任だろうと言われて再赴任した結果、業績好調だった拠点を1年で大赤字にしてしまった人がいました。私は実際に何が起きたのか間近で見ていましたが、外部環境が悪かったとか、運がなかったわけではありません。本人の判断と指示によって一気に赤字に転落し、慌てた本社が強制帰任させました。

これは完全に適性の問題。再登板だから適性があるとは限らないということです。

例えば、現地社員との相性が悪い場合です。本人としてはやる気満々なのに、社員の士気低下を招いたり、問題行動が増加したりと、社内のマネジメントをおかしくしてしまうことがあります。

また、初回の赴任時に現地社員が駐在員を見切ったことによる影響もあります。問題社員たちは「やった!また小島が来た。おいしい目を見られるぞ」と喜んでズルを始める。真面目な社員たちは「やっと帰ったと思ったのに、また小島か…」と先行きを悲観して辞めてしまう。離職はしないまでも、次の代替わりまでやる気をなくしてしまいます。

特に日本側に言いたいのですが、表面上の業績だけで適性を判断するのは要注意です。前回赴任時は数字も悪くなく、無難に過ごしたように見えていたとしても、たまたま波がよかっただけかもしれません。適性については、帰任したら終わりにせず、現地や取引先にも確認して検証しておいた方がいいと思います。

悪慣れの問題

中国駐在の後、日本に戻って違う立場を経験し、それから再登板というケースでは、現地での社内管理が雑・手抜きになることがあります。

最初の赴任時は緊張感がありますが、2度目になると、周囲の人とも勝手知ったる仲ですし、誰がどんな感じかもだいたい把握しています。それはそれでいい面もあるものの、現地部下への指示が雑になったり、チェックが手抜きになりがちです。

また、役所への対応も要注意。経験者ほど不用意になることがあります。前回の経験から「この指示はスルーしていい」「ハイハイと言っておけば大丈夫」と簡単に考えてしまうためです。数年も経てば担当者は入れ替わっていますし、政策の風向きも変わっています。自分の経験だけを頼りに対応していると大問題になりかねません。

逆もしかりです。昔だったら、会食をセッティングするとか、ご挨拶を兼ねて手土産を持っていくみたいなことは喜ばれたかもしれませんが、いまは御法度という場合も少なくないです。

客先への対応も同様です。前から知っている客だし、前回はこんな感じで大丈夫だったからと手を抜いていると危ないです。客先にも当然、いろいろな変化が起きています。現実を直視せずに、経験や感覚だけで進めていると、想定外の非難・批判を浴びたり、失注したりします。

こういったことはすべて悪慣れの問題です。2回目、3回目と、どんどん緊張感や工夫や謙虚さがなくなってしまう駐在員はいます。これは中国に限らず、どこに行ってもまずい。回を重ねれば慣れてくるのは当たり前ですが、再赴任であっても、緊張感・工夫・謙虚さは持ち続けるべきだし、持ち続けていないと危ないと私は思います。

経験や前知識があると、目の前の現実が以前とは違っていたとしても、自分の過去の経験や知識を上書きできずに見たいものだけ見てしまうことはあります。これは当然ながら現実と乖離してますので、ひどい目に遭う確率も上がります。

悪行の問題

きつい言葉を使いましたが、これも慣れの問題です。別に1度目ならやらないというわけでもないし、2度目の人が全員やるというわけでもないですが、駐在員の悪行の話を各地で見聞きする機会が増えました。

「社内でセクハラ」「社外で夜遊び」などで有名になっていて、社内では鼻つまみ者、若手の駐在員からも敬意どころか軽蔑あるいは嫌悪の眼差しで見られているのに、ぜんぜん気づかない人がいます。

それから、部下や業者と結託して不正を主導したり、「オレにも分け前を寄越せ」と要求したりする人もいます。

話を聞く限りでは、駐在員の不正は増えていると言わざるを得ません。10年前と比べると悪事に手を染める日本人が多いとか、少なくとも自分の周囲では増えたという嘆きを耳にします。

こうした不正は、単独で行う場合と、部下や業者と結託する場合があります。外部に自分の会社を設立して赴任先と取引させている人さえいます。これなど十分に犯罪行為ですが、駐在員・元駐在員の立場の日本人がやっていることがあります。

また、夜の世界には、SNSで「目が勃起」と言われてしまう駐在員、捕まったら完全にアウトな行為をしている人たちもいます。中国では反スパイ法が導入され、処理水の問題もあり、政治的には緊張感が高まっています。庶民の間でも、日本あるいは日本政府に対する風向きが厳しくなっている中で、10年前はOKだったからという感覚で現地の法律に触れるような遊び方をしていると、本人がお縄になるだけではなくて、会社も危険です。

社名が出てしまえば会社のレピュテーションリスクにつながりますし、取引を失ったりしたら大損害です。過去の感覚で遊ばれては会社が大迷惑を被ります。

本人だけでなく、送り出す日本側も気をつけてほしいと思います。2度目、3度目だからといって目を離さず、「もしかしたら」という気持ちを心のどこかに持ちながら、赴任者が誰であれ、ちゃんとフォローしチェックすることを怠らないようにしてください。

駐在員さん全員ご立腹の回

ここまでの話で、駐在員の皆さんは全員腹を立てていると思いますが、その理由は真っ二つに分かれます。

一つは身に覚えのある人。「この野郎、鬱陶しいこと言いやがって」「安月給なんだから、それぐらいやってもいいんだよ」「きれいごと語ってるんじゃねーよ」と怒る人です。

もう一つは「こんなアホと同類にしないでほしい」と腹を立てる人です。いま紹介したようなことをやっている駐在員とひとくくりにされるのは勘弁してほしいという人たちですね。

どちらにせよ、こういう話は聞いていて楽しいものではないです。腹も立つでしょうが、会社と現地社員の正当な利益を守るためにも、「ダメなものはダメ」という公正公平な環境づくりを徹底していただきたいと思います。

今日のひと言

消去法の再任より若手の挑戦機会

私は、「経験者だったら素人よりはいいだろう」という消去法の再登板なら、未経験でもやる気のある若手の挑戦機会にした方がずっといいと思います。結果が一緒だったとしてもです。

若手がどこまでできるかわかりませんが、適性があれば、本人も現地の組織も伸びます。適性がなくても「この人に中国は難しい」ということが判断でき、将来の育成の方向性が定まります。これが再任者だと、ダメでも元に戻ってくるという結果しか得られない。それぐらいなら、未経験または未知数な若手に任せてみた方が、組織の未来にとってずっと建設的です。

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【中国編|変化への適応さもなくば健全な撤退】シリーズは、中国/海外事業で経営を担う・組織を率いる皆さま向けに「現地組織を鍛え、事業の持続的発展を図る」をテーマとしてお送りしています。

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