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日本のIRをより良くするために: IR担当者へのアドバイス

いち通訳者風情が何をエラそうなことを、、、と自分でもちょっと思いますが、まあでもたくさんIRを見てきてますからね...

あと、経験件数が多いというだけでなく、我々通訳者の強みは横串(?)機能ではないでしょうか。
ある会社のIR担当者は自社のIRについて詳しく知っているわけですが、我々通訳者はある業界だけでなくたくさんの業界の、そして各業界内で無数の企業のIRを見てきています。自動車部品メーカーA社、B社、C社全部のIRを横串で見た上でそれぞれを比較・分析出来る希有な立場にあります。

さらに言うと、通訳者の立ち位置がおもしろいのは、企業(発行体)側についてIR通訳を行うこともあれば投資家側につくこともある、という点ではないでしょうか。今はコロナでアレですけど、平時であれば外国人投資家と一週間都内、あるいは日本各地を共に転々とし、一日5件とかのミーティングをこなし、1日6回一緒にタクシーに乗り、なんなら夜も一緒に飲みに行き、みたいなこともしています。自然、投資家サイドの本音を聞く機会も多く、そういう多面的な視点をIRご担当のみなさまと共有することには一定の価値があるのではないか、と思った次第です。

以下、順不同で。


正確なIRが「いいIR」とは限らない

投資家に何かを聞かれた際、「少々お待ちください」と言いながらドッチファイルを手繰ることもときには必要でしょうが、投資家は別に正確な数字なんか求めていないことも多いです。むしろディスカッションをしたがっている。なので、ドッチファイルはあくまでも気休め兼大きめのペーパーウェイトとして手元に置いておき、
「今の外国人株主比率は大体どれくらいですか?」 → 「そうですね、概ね3割ぐらいです。最近増えてるんですよ」
みたいなアバウトな回答もいいと思います。


自社に興味があれば当然知ってるはずだよね、という数字は押さえておこう。

ホントにエラそうですみません。
でも、IRミーティングで「そりゃ投資家は知りたがるよなぁ」と思えるようなことを投資家が質問した際に、「えーっと、少々お待ちください」みたいになってしまうことが多々あります。え、それ、即答じゃないの?みたいな。
その際、上記「正確な数字」を探りに行っていることが多いんですが、待っている間の投資家の悲しそうな顔といったら。イライラではないんです、悲しそうなんです。
だって、大事なお金を付託・負託している相手である企業の、そのIR担当者が、自分が勤めるその企業についてオーナーシップを持っていれば当然知っている、っていうか知りたがるであろうデータが頭の中に入っていない、となると投資家は意気消沈するわけです。

例えばメーカー等、研究開発(R&D)がとても大事になる業態の会社で「来年度のR&D予算は?」みたいな質問がそうです。そこだけは「2000億ぐらいです。去年よりも少し増やします。なぜならば・・・」と何も見ずに即答してほしいんです。
だからこそ、数字の正確性を多少犠牲にしてでもミーティングのライブ感、そして何よりも「自社に対し強いオーナーシップを持っている」ところを投資家に見せましょう。それこそが、投資家に対しWe are on the same boatという安心感を与えるキモになりますから。


IRミーティングはとてもいい研修の場

せっかくIRミーティングをたくさんやってるんだから、IR部門の方々はもちろん、IR以外の部門の方々もどんどん同席させたらいい。(へえ、ウチの社長ってこういう人なんだ〜)と座って聞いているだけでもいいし、もし技術屋さんなら技術の話になったときに一言言うとか、財務担当であれば最近の銀行との折衝状況をちょっと紹介するとか、そういうライブな飛び入り参加ってとてもいいと思います。発言内容が多少的外れでも、投資家に対し多面的な視点を提供することとなり、メインスピーカーである社長もほんのちょっとひと休み出来るし、プラス効果しか無い気がします。なんとなく、その会社の誠意(?)みたいなものも伝わるし。
何より大事なのは、普段機関投資家らと接する機会が無い社員に対し、投資家の視点を目の当たりにさせられることです。その後部署に戻り日常の仕事を進める上で、その視点はきっと役に立ちます。

IRミーティングにいろいろな社員を同席させるもう一つの効果は、「社長、ヨーロッパ行って羽伸ばしてるんだろうなぁ〜、いいなー」と思っている社員に対し、必ずしもそうとは限らないんだよwということを示すことです。
海外IR。前の夜ホテル着が遅かったのに朝7時半、もうチェックアウトした上でホテルのロビー集合。大型のバンで1時間移動し1件目のミーティング。その日計4件のミーティングをこなし、昼食を取る時間が無いので車内でサンドイッチ。夕方、ヘトヘトになりながら空港にたどり着き、そこからフライト。夜10時に次の都市のホテルに着き、「では、明日は朝8時、チェックアウトの上集合ください」みたいなことをしているところを社員たちに見せることも出来ます(笑)。社長も結構がんばってるんだよ、と。


本当に複数人での参加が必要か

上記アドバイスと矛盾するように感じられるかもしれませんが。
IRミーティングにおいては、参加者全員が「生きて」いる必要があります。少なくとも、そういうIRミーティングの方が投資家に対し好意的な印象を与える。全員経営、みたいな。
だから、死んでいるというか、ゾンビ状態の人が会場にいると(しかもそれが複数いると)、例え黙っていてもノイズになります。っていうか、その人本人もつまらないでしょう。だから、若手とか、他部署の人とか、いろいろな人をどんどん参加させるのは大賛成ですが、一方で自他がゾンビ状態になってしまっていないかのチェックも常に必要だと思います。


うまく行かなかった、、、と落ち込みたくなるIRミーティングほど「うまく行った」可能性が高い

ある会社のPO(公募増資)のロードショーでシンガポールの投資家に会いに行ったときのこと。
投資家からは難しい、ツッコミめいた質問ばかりが飛びだし、企業の方はちょっとしどろもどろになってしまったシーンもあり、ミーティング後、ビルの外で一服しながらIR担当者が気落ちしていました。でも、そんなこと気にしなくてOKです。とその場で伝えました。むしろ逆です、と。
投資家は本気だからこそあれこれイヤなことを聞いてくるわけです。買いたいからこそ、です。みなさんだって、興味無い品のセールストークを受けているのであれば「へえ、すごいですね、良さげな製品ですね〜」ぐらいの対応にするでしょう。本当に買おうかなと思っているからこそ「壊れたときの対応は?保証は?」とか「高すぎる。もっとまけて」とか「競合の製品の方がいいのではないか。これの弱点は何か」みたいなことを根掘り葉掘り聞くわけです。
実際、そのシンガポールの投資家はフタを空けてみれば多額のオーダーを入れてくれていました。


IRは通訳者次第

特にIPOやPOといったディール案件がそうですが、結構通訳者次第だと思っています。どういう通訳者が入るかによって、会社の印象もガラッと変わり、初値が数円上がり下がりするぐらいの影響はあると思います。だからいい通訳者を使いましょう(笑)。

IRはIR担当者次第

もちろん、通訳にも増して重要なのがIR担当者ご本人ですよね。どなたが担当するか次第で貴社への印象→信頼が大きく左右されます。それだけ大事なお仕事をされている、ということだと思います。


投資家の意向は、質問の「逆」であることも

「なんであまり儲かっていないのに○○事業を続けているんだ」
という質問(っていうか、コメントですねw)を受けた場合。
IR担当者としては、当然(この投資家はウチが○○事業を続けていることに反対なんだな・・・)と思いますよね。実際その通りのこともありますが、意外と真逆だったりすることもあります。ただ単に圧迫面接をしているだけというか、こう質問したらどう答えるんだろう、という観点でそう聞いているだけで、実際は(ぜひこれからも○○事業を続けてほしい)と思っているかもしれません、その投資家は。その可能性は十分あります。


ミーティングを何語で行うか

社長、あるいはIR担当者がある程度英語堪能なとき、通訳者を使わず自身で英語で対応されることがあります。
基本、とってもいいことだと思いますが、中には優秀なIR通訳者を使った方がいいケースもあります。実際、ここだけの話、投資家に一日同行していて「次の会社は、きっと英語でミーティングをやろうとすると思うんだよね。でも、気持ちはとてもありがたいんだけど、いつも「通訳者を使ってくれないかな、、、」って思うんだよ(苦笑)」みたいに投資家から言われたことが、それほど多くはありませんが何度かあります。

IRではありませんが、昨年行われたホリエモンとゴーンさんの対談なんかはまさにそうだと感じました。通訳入れた方が良かった。
ま、一長一短あるので難しいところですけどね。多少たどたどしくても自身で英語でやった方がいいときも確かにあります。

フィラーを入れない

もしミーティングを自身で英語でされる場合、余計なフィラーを入れたくなりがちですが、そこはぐっとこらえるといいと思います。

投資家の質問に答えてあげたいんだけど、答えられないとき

アドバイスではなくただの感想なんですが、
以前、結構寡占化が進んでいて大手数社が業界を独占というか寡占しているConsolidatedな業界のIR通訳をしたときのこと。
投資家から、例えば「業界におけるプライシングは今後どうなっていくと思うか」みたいな、業界全体に関することを聞かれた時に、ずいぶん歯切れの悪い答えを企業が連発していました。なんでだろ、と考えて思ったのが、それって結局ウチ次第のところが大きいからではないか、と思い当たりました。つまり、自社が業界のプライスリーダー(の1社)だと、「業界におけるプライシングが今後どうなっていくか」にちゃんと答えようとすると、(それって結局自社次第なので)自社の今後のプライシング戦略を開示することになっちゃうわけです。
その投資家だけに知られる分にはいいかもしれませんが、投資家ってA社と面談したすぐ後にB社に行き「A社はこう言っていたが、御社はどう思うか」みたいな質問を平気でしたりすることがあって、それで自社の機密情報がB社に丸わかりになってしまうので、聞かれているのは自社のことではなく業界全体のことなんだけれども、それに対し歯切れの悪い答えしか出来ない、ということがあるんですね。リーダー企業の苦悩、お察しします。


ミーティングのなるべく序盤で投資家の仮説を洗い出し、それを元にIRを組み立てよう

詳細についてはこちら:

*過去に一度、ある程度気合いを入れて記事を書いておくと、こうやってRefer出来るので便利ですね。。


投資家の質問の後半部分に引っ張られるな

例えば投資家が
「今後のM&Aについての考え方を教えてください。
例えば(世界の)どの地域の会社を買いたい、とか、競合他社を買収するのか、あるいは御社が今お持ちではない技術や強みを持つ会社を買いたいのか。あと、規模的にはどれくらいになりそうでしょうか」
という質問をしたとしましょう。
それに対し、「そうですね、規模的には〜」と回答を始めるのはやめましょう。
投資家が聞きたいことはあくまでも「今後のM&Aについての考え方」であって、その後に尾ひれとして付けている「どの地域?」とか「どういう会社を買いたい?」とか「規模感は?」といった情報は、あなたが答えやすいよう、切り口や例をいくつか示してくれているだけです。だからそこに飛びつく必要はありません。
それらの尾ひれについては頭の中で、あるいは手元の紙にメモし、まずは「今後のM&Aについての考え方」についてじっくり語った上で、(あ、そうだ、規模感ね)みたいな感じで規模感について補足すればいいわけです。

この件については、我々通訳者が大きな役割を果たせます。
上記投資家の質問をそのまま訳出すると企業は後半部分に引っ張られる可能性があるので、例えば上記質問を一通り訳した上で、訳の最後に「ということで、今後のM&Aについて、お願いします」みたいに、ミクロからマクロに話を戻してあげればいいわけです。企業の方が「質問の後半部分に引っ張られる」という傾向を逆手に取るわけです。


もっとメモを取ろう

上記の点にも関連しますが、メモを取った方がいいケースが散見されます。
注文内容を間違えるウェイターがえてしてメモを取っていないのと同様、投資家の質問にちゃんと答えていないIRはえてしてメモ無しのIRです。


回答準備は、投資家の質問をじっくり聞き終えてから

これ、ある意味デキるIR担当者ほどそうなのかもしれませんが、投資家が質問しているその途中から既に頭の中で回答を準備し始めてしまっていることがあります。それはうなずき方、相づちの打ち方や目線に出ます。まだ質問が続いているのに、もうドッチファイルをワシャワシャ始めちゃってる、とかね。
投資家のために早く回答を準備しなきゃ、というのは分かるんですよ。相手のためにやってるわけですよね、分かります。
でも、これはクイズ番組で、回答者が質問の途中に答えちゃうのと一緒です。「日本の首都は・・・」 → 「東京!!!」 → 「・・東京ですが、その東京の人口は?」みたいなことにならないように(笑)。
実際にはまだ答えていなくても、回答を頭の中で準備しているということは、実質もう答えているのと一緒。投資家は、自身が知りたいことについて(上記尾ひれの例のように)せっかくいろいろな貴重な情報・ヒントをくれているのに、それを最後まで聞かないのはもったいない。
投資家の質問を聞き終えてから、数秒の間があってもいいんです。それで答えが熟成されるなら、よっぽどそっちの方がいい。いい投資家はみな忍耐強いですから(笑)、その間合いの持つポジティブな意味をよく分かってくれるはずです。
投資家の質問の意味が分からなかったら、苦し紛れの回答をするのではなく、聞き返す・確認する
ということも大事だと思います。
通訳者の訳がいまいちだからそうなっていることもあります。それに対し、苦し紛れに回答するよりは、ちょっと回り道をしてでも質問内容を正しく理解し、その上で回答した方が結局時間のセーブになります。


IRプレゼン資料に関して思うこと

これについては、以前結構渾身系の記事を書いたので、そちらに譲ります。今も強く思っていることばかりです。

打たせて取るIRをしよう

投資家による質問・ツッコミを全部あらかじめ想定し、それを防ぐかのような完璧な話をするのではなく、あえて穴だらけの話をするのもオツです。
企業 「○○である」
投資家 「なんで?」
企業 「なぜかというと■■」
という流れにした方が、最初から理由を説明してしまうよりもはるかに強く■■が投資家の脳裏に刻まれます。


相手の発言(質問)を遮らない

通訳者を介したミーティングの場合そもそもあまり無いかもしれませんが、相手の発言を遮るのは百害あって百害あり。絶対にやめた方がいい。これはもちろんIRミーティングに限りません。
(この人の言いたいこと/質問したいこと、もう分かった)と思って遮ることもあるでしょうが、どうですかね、えてして相手が実際に言おうと/聞こうとしていることはあなたが先回りして推測した内容と多少ずれていることがあって、セーブ(?)した数秒の割りに合いません。こちらにまったくそのつもりが無くても、相手は(自分を軽視された)と誤解する可能性だってあるし。
これは投資家にも言いたいこと。投資家と企業がお互いを遮り合うIRミーティングがごく稀にあって、(これって何のためにミーティングしてるんだっけ?)と思うことがあります(笑)。ま、ほとんど無いですけどね。

この通訳者、あまり上手じゃないな、、、と思ったとき

まず、すみません(笑)。
おっしゃる通り、恐らく我々通訳者サイドの問題なんでしょうが、あなたサイドの問題であることもあります。何を言っているのかが分かりにくいと、通訳者も訳しにくい。で、話し手に気をつかう通訳者、あるいはそういうシーンであれば、「すみません、○○のところがよく分かりませんでした」と聞き返せず、しょうがないからそのまま訳出する、ということもままあります。なので、そういう可能性についてもちょっと想いを馳せていただけるとありがたいです。
まあ、冒頭に書いた通り、訳の内容がイマイチなとき、大抵は我々通訳者サイドの問題だと思うので、すみません、引き続き精進します。
会議のボトルネックは通訳者の理解度なんです
これはIRというよりはいろいろな会社の社内会議を通訳しているときに感じることですが、
「あの件だけどさ(通訳者:どの件?)、あれって田中さん(通訳者:誰??)のとこに行ってるんだっけ(通訳者:何が?話が?モノが?書類が?)」
みたいな発言を英語に訳す際、もはや英語力・通訳力の問題ではないんですよね。で、話し手も聴き手も「田中さん」がどういう立場の人か、といった背景情報を全部分かっていても、その間に入る肝心要の通訳者がその辺をまったく理解していないと、その話の成果は、結局我々通訳者サイドの理解度に引っ張られる(Drag down)されるわけです。
必ずしも「話のレベルを下げる」必要はありませんが、聴き手の立場に、、いや、間に入る通訳者の立場に立ち、それに分かるように話していただくとミーティングがより有意義なものになります。なんで俺が通訳者のためにそこまでしてやらないといけないんだ!ですって?それは我々があなたの分身だからです。

「あの通訳者は、業界のこと、当社のことをよく分かっていて、私の分かりにくい説明をうまく訳してくれる」と感心するのもいいんですが、毎回その優秀な通訳者がアサインされるとはかぎりません。あなたのその「分かりにくい説明」を分かりやすくする方が近道です。すみません、出過ぎたことを言いましたが、でも本音です。業界関係者じゃないと理解できない発言をすることに伴うUpsideは特にないし、時間の節約もごくわずかです。

通訳者が訳しやすい雰囲気を作ってあげるとミーティングがうまく行く

決して甘えたいのではなくてですね、タクシーの運転手もそうですが、落ち着いて業務に当たれた方がそうでない場合よりもいい結果になるので、恐い雰囲気を作って通訳者を萎縮させるのではなく、その逆を行ったらいいと思います。情けは通訳者のためならず。


回答をブロック化せず、常にカスタマイズしよう

投資家の質問の中に「設備投資」というキーワードが入っていれば、(ああ、設備投資について答えればいいのね)と言わんばかりに、事前に用意した「設備投資に関する回答」をする方もいます。
でも、投資家の質問(あるいは通訳者の訳)を細かい所まで聞いていただければ分かるはずですが、実際には、質問の切り口や温度、そしてその裏にある仮説は一つ一つ異なります。いい通訳者であれば、そうした細かい所まで訳で再現しているはずです。だから、回答もワンパターンにせず、設備投資がどうなのか、設備投資の何を知りたいのか、と、キーワードに惑わされず本質を回答されるといいと思います。


投資家のタイプを見抜き、臨機応変に対応

エクセルのモデルに入れる数字を入手したがっているのか → その場合、対応するのは社長ではなくIR担当者でいいし、Face to faceでなくZoomでもいいかもしれませんね。
情報を聞き出したいのか、あるいはディスカッションをしたがっているのか → ディスカッション型の投資家の場合、投資家が質問で使ったキーワードや細かいディテールにあまりこだわらず、大きな回答をされるといいと思います。
実は貴社ではなく他社に興味があり、貴社は周辺取材なのか → その場合、こちらもあまり気乗りがしないものですが、でもその投資家を自社のファンにしてしまうチャンスだとも言えます。


回答前のディスクレーマーは(ほぼ)不要

・まだ先のことなので何とも言えませんが
・個人的な見解ですが
・物件毎に違うのでなんとも言えませんが
・他社さんのことをコメントする立場にありませんが
・正確な数字は持ち合わせていないんですが
などなど、IR担当者が回答の前置きとして入れたがるディスクレーマーが全部で10通りぐらいありますが、あれってほぼ意味ありません。っていうのも、我々通訳者はそれをちゃんと訳していますが、投資家が取っているメモを見ていると、そのディスクレーマー部分を我々が訳している間、ペンは宙を泳いでいます。
「ハッキリしたことは言えませんが、まあ例えば1-2割程度でしょうか」という回答であれば、投資家のメモに残るのは「10-20%」の6文字だけです。


もっと極端な例を挙げましょうか?
投資家 「御社は今後海外事業を伸ばしていきたい、とのことだが、今後中期的に、例えば5年先に、海外売上比率をどれくらいまで高めたいのか?」
みたいな質問があったとします。で、それに対する回答が、
IR担当者 「そうですねぇ、まあ先のことなので何とも言えませんが、希望も含めて申し上げますと、概ね30%程度、というところでしょうか。もちろん、実際にそこまで引き上げられるかは分かりませんし、今後のマクロ経済や米中関係次第でもありますが」
みたいに回答したとしましょう。で、通訳者がそれを丹念に、全部正確に訳しました。
さて、肝心の投資家のメモを見てみると、
30%
(涙)。これが、これだけが今後の記録に残るわけです。前後のディスクレーマーはもちろん、「30%」の直前直後の「概ね」とか「程度」も要らない。記録に残らないから。悲しいけど、これが現実です。
だからディスクレーマーってあまり意味が無い。紙の資料に入れるのであればまあ意味がありますけどね。

未来志向のIR

ディスクレーマーの中でもちょっと異質なのが
将来のことは分かりませんが
的な、未来についてのもの。これ、紙ベースのディスクレーマーに多いですよね。
投資家がなんでIRミーティングをしているかというと、ひと言で言ってしまえば「過去に起きたことに基づき、未来がどうなるのかを知りたい」わけです。で、もっと下世話な言い方をすると株価が上がるのか下がるのかを知りたいわけです。なので、未来って確かに誰にも分からないんですが、それを口に出して言ってもしょうがないというか、なんだかちょっとIRミーティングの趣旨とズレてくるんですよね。
投資家はIR担当者の個人的な見解を聞きたいわけでもありません。会社として、どのようなビジョンの元、どう予測を立て、どのような前提を置き、「未来のことは分からない」なりにどう考え、準備し、戦うつもりなのか、を説明されるといいと思います。


海外の企業のIRテレカンとかを聴いてみる

例えばJPMorganとか、Shellとか、どこでもいいですけど、外国の会社のIRを聴くんです。
特に英語がある程度お分かりになる場合。へえ、そういうふうに答えるんだ・・みたいな発見があるかもしれません。
我々IR通訳者はよくトレーニングのネタとして使っています、外国企業のIR会見。


投資家たちだってビビっている

アホな質問をしてアホだと思われたらどうしよう・・。
やばい、この会社(のIRミーティングに向け)、全然予習出来てない、どうしよう。。
という不安を抱えています、投資家だって。だからあまり心配はいりません。


投資家に対し、あまり恐縮しなくていい

ときにはぶっきらぼうでいい。
恐縮すればするほどつけあがる投資家も(笑)。
立場が対等であることを常に忘れずに。なんなら買ってもらわなくても大いに結構、でOKです。


投資家に対し、もっといろいろ聞いちゃってOK

投資家は質問する一方なので、たまに逆質問されると喜びます(多分)。
さんざん突っ込んでくる投資家に対し、「じゃあ、あなたが社長だったらどうしますか?」とキレ気味に質問するの、とてもいいと思います(笑)。なんでウチの株を買わないの?どうしたら買うの?も大いに結構。
で、そこで投資家から出た意見を次の取締役会で共有したらいいんです。社外取締役のおじいさんやおばさんたちも興味津々ですよ。おもしろいじゃないですか。
投資家をまるでクレーマー扱いするIRもありますが、せっかく貴社に興味があり、かつアウトサイダーとして新鮮な視点を持った投資家なわけですから、彼ら・彼女らの視点もどんどん吸い上げ経営に反映したらいいと思います。投資家も喜び、株価も上がるし(笑)。


(最後に)

いい通訳者だな、、と思ったら褒める

我々通訳者にとって、金銭的な報酬と同じぐらい、そして人によっては/場合によってはそれ以上に大事なのが会議参加者に喜んでもらうことです。
ラーメンが美味しいと思ったら店のオヤジにひと言その旨を伝えるのと同様、いい通訳だな、と思ったらエレベーターホールに向かいながら、あるいは回線を落とす前にひと言言う。それだけでどれほど我々がMake our dayされ、明日に向けたやり甲斐になるか。あ、出来れば他の関係者全員の前で。ぜひよろしくお願いします!