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業界インタビュー8 オンライン学習塾の仕事

身近で働いている人にインタビューして、どんな仕事をしているのか、どんな課題を抱えているのか、といった話を蓄積していく企画の第8弾。今回はオンライン学習塾です。いろんな業界のことが分かれば、きっと何か新しい発見があるはず!

オンライン学習塾って何?

オンライン学習塾というと、先生と1対1の通話で個別指導してくれるタイプのものがいっぱい見つかりますが、今回お話を聞いたのはそうではなく、東進ハイスクールや河合塾マナビスなどに代表される、VOD(ビデオ・オンデマンド)という方式の塾です。

昔は、塾の実際の講義をビデオ撮影して、地方でも見られるようにしただけだった。このころはまだ画面越しに授業を見ている感じであまり臨場感がなくて微妙だったらしい。

PCが普及するようになって、生授業の録画だけでなく、録画専用の授業ビデオも作成されるようになった。これに目をつけた投資ファンドが東進ハイスクールを作り、一気にシェアを獲得したとのこと。有名な塾講師を金で引き抜いてCMをバンバンうって知名度を高めた。流行語大賞までとった林先生の「いつやるか?今でしょ!」は東進の成長に大きく貢献した。

東進や河合塾はフランチャイズをやっていて、日本各地のローカル学習塾やってるところが東進の看板を掲げて生徒を呼べるようになる。高校受験の勉強を教えられる先生は世の中にあんまりいないので、そうした地方塾でも高校生を顧客に加えられるのは大きなメリットらしい。

先生は何をするの?

オンライン学習塾の先生は、授業をしません。生徒たちは塾校舎まで来て、そこで授業ビデオを閲覧したり、自習したりテストを受けたりするだけです。だから先生たちは、生徒に教える必要がない。では何をするのが仕事なのか、聞いてみた。

一番大事なのは、生徒たちのビデオ学習の進捗管理だそうです。進みが遅い生徒に声をかけて勉強させたり、質問や相談を受けたりするそうです。とにかくどうやって生徒にやる気を出してもらうか、その声かけが重要らしい。

生徒の成績が上がらないと先生の責任問題になるらしく、どうしてこれしか授業が進んでいないのか、普段どんな声かけをしているのか、もっとやる気を出させるのが仕事だろ、と上司に怒られるらしい。

しかし、そもそも他人を動かす、モチベーションを出させるなんて無理な話だ。結局、塾としてはこれだけやりました、尽くしました、というのを親に見せることで言い訳をいっぱい作って、受験に失敗したとしても納得してもらえるよう備えるのが仕事になっている。あんまり幸せな構図ではない。

声かけでやる気が出てくれる子はいいけれど、そうもいかない子は理詰めで説明して、しぶしぶ納得させるしかできない。幸いなことに、しぶしぶ勉強してもきちんと身につくありがたい講座になっているので、全然やる気なくても成績が伸びる子もいる。でも逆にガツガツ積極的に取り組んでいるのに1ミリも頭に入っていない子もいる。見ていて切なくなる、とのこと。

結局、努力量よりも才能の差が大きいと感じるそうだ。教育は、才能のない子にも無理やり知識を押し込む感じがして、果たしてそれでいいのか、という葛藤を感じるらしい。

そういう「生徒に勉強をさせる」ことがメインの仕事ですが、他にも、生徒を増やすためにビラ配りをしたり、学校に挨拶まわりしたり、グッズを作ったり、内部の生徒に友達を紹介してもらったり、といった営業活動もしているらしい。

お客さんはどんな人が多い?

そもそもお客さんは誰なのか。大人の習い事なら、自分が価値を感じてお金を出すからシンプルだけど、塾の場合、お金を出す人とサービスを受ける人が違う。親と生徒のどっちも満足させないといけない。勉強をする、サービスの価値を享受するのは生徒だけど、それを親が評価してお金を出すので難しい。

塾にくる高校生はどんな感じかというと、周りのみんな塾に行ってるから自分も行かないとまずいよな、という動機が一番多いボリュームゾーン。たまにやる気のある子もいるが、割合は少ない。

あとは、中学生が高校受験のために塾に通ってたら、高校に入ってからもそのまま塾続けてもらうパターンとか。みんななんとなく塾に通っているから、雰囲気に流されるらしい。家で勉強しても集中できなくてだれちゃいますよね、だから塾に通いましょう、で納得してくれる。

塾に行かせる親の方も、周りが塾に行かせてるからウチもとりあえずどこか行かせた方がいいかな、って感じが多いそうです。全体的に主体性がないね。だからみんな、本気じゃなく、しぶしぶ勉強してるんだ。

そんな親たちのウケをよくするために、オンライン授業を受けてる回数・時間などの勉強履歴を見れるようにしたり、成績上昇をグラフ化して報告書を送ったりしている。これは受験に失敗したときの言い訳のためのアリバイ作り。本当は子供の将来のためにもっと時間を割きたいのに、どうして成績に関与しない親へのアピールをしなきゃいけないのか、と感じる先生は多いようだ。しかし、出資者の理解を得ることが重要なのも事実。

受験が終わって、こんなに頑張ったけど成績が伸びませんでした、となったとき、飲み込みのいい親は「先生ありがとうございます、うちの子がご迷惑おかけしてすみません」となるけれど、そうではない親もいる。直接怒ったりはしないけど、不機嫌そうだったり、あからさまに無視したり、嫌な感じで後味悪く卒業していくらしい。

塾は儲かるの?

大学受験は科目数によるけれど、レベル高い国公立を目指すと100万円くらいかかる。そうでもない大学だと50万円くらい。オンライン教材なので、1ヶ月いくらみたいな月謝制ではなく、このコースは全○○回分の動画があって○○円です、といったシステムになっているらしい。

小学生の塾だったら週1~2回で月謝が2~4万円、夏季講習が別途何万円、とか学年上がるほど高くなるけど、小6の方が料金が高い理由はよく分からない。たぶん足元みてつけ込んでるのではないかと。表向きは手厚いサポートとか言うけど、それなら優秀な大学生家庭教師を雇った方が、学年関係なく時給で教えてくれるからいいのではないか、という考えもあるようだ。

小学生より、中学生、高校生と学年が上がるほど金額もあがるので、塾としての売り上げは高校部門がかなり大きいらしい。今回話を聞いた塾は、もともと地方の小中学生向けの対面授業の塾をしていたけれど、少子化で収入が減ってきたから、高校向けにフランチャイズのオンライン塾を始めたという。小中学生の方がメインだったはずなのに、高校の方が儲かってるというんだからすごい。

それだけ、日本社会は大学受験を神聖で重要な儀式として崇めているのだろう。

改善したい課題は何か?

フランチャイズなので、なかなか本部に要望が通らない。たとえばスマホアプリで学習管理が連動してできるようになったけど、操作しづらい、見にくい、この画面からこっちに遷移したい、とか要望をいろいろ出してもなかなかアップデートされない。他にも、○○大学対策講座はあるけど、こっちはない、こういう授業も欲しいけどないから指導しにくい、とか。例を挙げてもらったらキリがなくなってしまった。

授業ビデオに出る先生たちもどれだけビデオ教材に本気か個人差があって、真剣に作りこんでる先生、動画向きの先生もいるけど、そうじゃない先生もいる。カメラ目線でYouTuberみたいな授業をする先生もいれば、淡々と黒板に書きながら喋っていて眠い先生もいる。対面授業と違って、動画だと、いかにカメラの向こうの生徒を惹きつけて寝かさないか、語り口とかが重要になってくるので、その辺も改善してほしいポイントとのこと。

少子化が一番の課題

塾にくる生徒数がどんどん減っている。ここ数年の減り方はヤバい。首都圏はそこまででもないけれど、地方の子供の数は減る一方で、完全に少子化。さらにコロナの影響で塾にくる生徒の減少率が大変なことになっている。

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厚生労働省の統計を見ても、子供は減り続けているのがよく分かる。塾業界も先行きはとても暗いとのこと。昔は、もっと生徒を呼び込むために営業を頑張れと経営陣に怒られていたが、今はそんな元気もなくお通夜状態になっているとか。

そのうち地方の塾なんかは全部なくなって、オンライン通信授業に集約されてしまうかもしれない。

ということで、今までは儲かっていたけれど先行きは不安な塾業界のお話でした。最後におまけパートとして、大学受験に向けたオススメの勉強プランとモチベーションのあげ方について、先生秘伝のテクニックを聞いたので紹介します!

おまけ:勉強のモチベーションのあげ方

まぁ本文中に、モチベーションをあげるのは無理と書いた通り、最終的には本人の問題になるのですが、それでも先生たちが考えたベターなセオリーというものは存在するようです。

フランチャイズなので、本部から「こういう指導をしましょう、こういう声かけをしましょう」という指針が出ているのですが、これが万人向けというか、無味乾燥としたお役所的マニュアルで、全然役に立たない。

伝え方は相手にもよるけれど、自分の性格にも大きく依存する。まずは自分のキャラクターにあった伝え方をするのが大事で、自分の心が、情熱が、最も伝えられるキャラクターを見極める必要がある。

実際、塾の先生たちはみんなキャラが濃い。熱血漢で「絶対にここに受かろう、一生に頑張ろう!」と励ますタイプや、データ重視で「ここに受かりたいなら、このときまでに、ここまで進めないとまずいよね」と理詰めで説明するタイプ、強面でヤクザみたいな先生が「諸君、夏休みというのはだな!」と語り掛けるタイプもいれば、優しいお兄さんが「みんなが胴上げされてるの見たいな、頑張って!」とほんわか後押しするタイプもいたり、本当に多種多様だ。そんな中から、自分のキャラにあった言い方を見つけて真似していくのがいい。

ただ、生徒によってどういう声かけが効くかも千差万別なので、難しい。親や先生がいくら声をかけても変わらない子は変わらない。だから、大切なのはいろんな人から声をかけることだ。

塾であれば、いろんなタイプの先生がいることが強みになる。親の場合、家の中では父と母の2タイプしか用意できないので、あとはいろんな人に会う機会を作ってあげるしかない。いろんな人生の先輩と会って、いろんな価値観に触れる中で、自分の目標となる人が見つかれば、その子はその日から大きく変わるだろう。

高3の過ごし方

大学受験の勉強プランとして、知識詰め込む系を3年生の春か夏くらいまでに終わらせたい。そこから、覚えているだけじゃダメで知識を組み合わせて使う演習問題をやって、冬までに一通り解けるようにする。最後は繰り返しの復習タイムやテストで本番慣れしておく、というのが一連の流れ。

授業のない日も毎日塾に通って自習する習慣を作るのが大事。歯磨きと一緒で、毎日やらないと気持ち悪い、という感覚を身につけたい。毎日勉強する、というのは継続が難しくても、塾へ行くという行動なら毎日継続できるはずなので、まずは行動から変えていこう。

まぁ、塾の先生としては、そうやって勉強しようとしか言えないんだけど、本当はもっと自分のやりたいことを見つけて、それに取り組んでほしいという気持ちもある。マンガ家になりたいならいっぱい絵を描いてほしいし、大学に進むだけが人生じゃない、もっといろんな可能性を捨てずに追い求めてほしい、と仕事じゃなければ応援したいと思っている先生がいっぱいいる、ということも発見の一つでした。ありがとうございます。

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