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〇〇からの自由、〇〇への自由

エーリッヒ・フロム「自由からの逃走」を読み終わりました。前回の続きで、第五章から第七章について要約していきます。

マゾヒスト化する個人

前回、自由を手に入れた私たちは孤独にさいなまれて、自らを縛ってくれる共同体を求めてしまう、といったこと話をしました。自らを苦しめ、悩ませることで満足感を得る、マゾヒズム的倒錯がそこにはあります。そしてこのマゾヒズムが目指すゴールは「個人的自己からのがれること、自分自身を失うこと、いいかえれば、自由の重荷からのがれることである」と筆者は言います。
これは、「カリスマ」のなかで紹介した「自己喪失の欲求」そのものじゃないですか。

マゾヒズム的人間は、自分の運命に最終的な責任をもつということから、どのような決定をなすべきかという疑惑から、解放されます。

権威に従い、権威と同一化する

マゾヒズム的人間の特徴は、権威にたいする態度にあらわれる。かれは権威をたたえ、それに服従しようとする。しかし同時にかれはみずから権威であろうと願い、他のものを服従させたいと願っている。

P182

私たちは権威と同一化して、そして権力をふるいたいと思っているんですね。それも自分の意志で何かを決めるのではなく、何の責任もなく、ただそこに振るわれるべき権力を振りかざしたいだけ、ということです。正義の名のもとに暴力をふるうSNSの炎上騒ぎを見ていると、確かにその通りだなぁと思ってしまいます。

現代において、この権威というのは、「常識」「科学」「健康」「正常性」「世論」などが当てはまるそうです。一昔前の権威とは違って、それらは非常におだやかなものに見えます。しかし、これらの権威に反するものがどれだけ徹底的に叩きのめされるか、皆さんもご存じでしょう。

私たちは、マゾヒズムと同じくらいのサディズムも持っていて、自分の生命が抑圧されていくと、破壊を求める衝動が強くなっていくのです。

こうして自分の価値の無意味さに打ちひしがれ、大きな権威と同一化し、弱い他者を破壊することで、現代社会における安心感を取り戻すのです。近代化によって自由を手に入れた私たちは、そうやって敷かれたレールの上に自ら乗ることを選んでいるんですね。社会の歯車になるのも自由だ!

自己を手放すとき

筆者としては、そんなのよくないと思っています。みんな、もっとしっかり自由に前向きに生きてほしいと思っています。それができている人の例として、芸術家と子供が挙げられていました。

芸術家も、お金を稼ぐために大衆に迎合するタイプもいるので一概には言えませんが、誰にも理解されなくても自分の信じる世界を表現するタイプの芸術家は、きちんと自分の自由意志を行使して生きていると言えます。

子供は、やっぱり自分のやりたいことを好き勝手やっているはずです。しかし様々な教育を受けていくうちに、自分の意志が通らないことを知り、反抗するより従順になる方がいいと分かり、少しずつ自分の感情を放棄して社会に迎合していくようになります。

大人になった私たちは、自分が何をしたいのかも分からないまま生きています。お金を稼ぎたい、いい家んで美味しいものを食べたい、みたいな欲望があると思っていますが、だいたいは幻想です。それが幸せな暮らしだと社会的に思われているから、それを追い求めることが正しい姿だから、社会という権威と一体化したあなたは、社会の求める正しい欲望を発露しているに過ぎません。あなたの自我なんて、とうの昔に失われているんです。

自由は不可避的に循環して、必ずや新しい依存に導く。

P283

豊かになり、自由が与えられた現代社会において、私たちは生活に意味と秩序を与えてくれるどんなイデオロギーでも喜んで受け入れてしまうのです。誰だって陰謀論にハマる素地を持っているのです。

成長と幸福

ではどうすればいいのか。筆者は、自分の成長と幸福を追い求めるのが大事だと言っています。社会によって与えられた目標ではなく、自分のための能動的自発的な活動の実現。それこそが積極的な自由、子供や芸術家と同じような、真の自由を謳歌する人なのだそうです。

この辺の考え方は功利主義っぽいですね。やっぱり自分が幸せになることが一番大事。でも、カリスマに乗っ取られるリンドホルムの幸せではなく、能動的なフロー状態を目指すチクセントミハイの幸せを推奨してるようです。

自由というのは能動的であるべきで。嫌なことがいっぱいで、早く〇〇から自由になりたいな、と思っているのは何も自由じゃない。〇〇がやりたい、〇〇のために自由が欲しい、〇〇への自由こそが重要だというのが本書の結論です。

いろんな本を読んできたおかげで、だんだん結論が重複してくるようになりました。これまでの知見が重層的に説明されて、納得度が上がっていきますね。あなたはどんな幸福を目指したいですか?

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