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第6章 合理性の認知限界

オーガニゼーションズ 第6章 P174~214の要約です。これまでのまとめは以下を参照。

本章の位置づけ

人間は受動的機械だと考える古典的組織論に対し、本当は欲求や動機を持って行動するのが人間だよ、という話を5章までしてきた。

6章ではさらに人間の知識や学習、問題解決能力に限界があることを認め、その限界の中でいかに合理的に複雑な意思決定をしていくか、その仕組みについて概説する。

合理的な判断とは何か

選択肢の中から最も好ましいものを選ぶのが合理的な判断である。しかし選択肢がいつでも白黒はっきりしているわけではなく、不確実性を伴うことも多い。

選択肢の不確実性が大きい場合、一般にリスクの最少化を図ることが多い。各選択肢の最悪の結果を比較して、一番マシなものを選択する。

ただ、そもそも現実の問題では、どれが最もマシに見えるかという主観での合理的判断しかできない。客観的合理性を得るためには、各選択肢の真の効用やリスクが全て分かっていなければいけないが、そんなことは現実的にあり得ない。

そのため合理的な選択というのは、最適な選択をするというよりも、満足いく選択をする、という方が主となる。満足の水準を上げると代替案を探すのが大変になるので、この改善にかけるコストと満足のつりあったところを選択する、というのが最も合理的となる。

意思決定のルーチン化(プログラム化)

同じような合理的選択を繰り返していると、その作業はルーチン化する。そしてルーチン作業が組み合わさっていくとプログラムになる。

たとえば在庫管理業務を例に説明する。新しい注文という外部刺激が入ると、ルーチンに従って在庫を出荷する。さらに在庫数が一定以下になった場合は追加の製造指示を出す、といった条件分岐も存在する。こうした一連の作業を「標準作業手順」などと称してプログラム化し、組織は従業員を制御する。

従業員を受動的機械と考える組織では、プログラムは明確な判断基準で決められるかもしれないが、もっと自由裁量を認めるプログラムもある。

プログラムが手段ではなく目的を指定するようになると、自由裁量が増す。たとえば在庫管理業務において、販売量予測から、今後必要となる在庫量を計算して製造指示を出せ、のように規定されると、在庫管理者の判断に委ねられる部分が大きくなる。

プログラムこそ組織の財産

どんな組織でも、持っているプログラムのレパートリー全体で仕事を処理していこうとする。新しい状況に直面しても、たいていは既存のプログラムを組み替えて対応する。比較的少数の要素プログラムの組み換えで処理可能な範囲をできるだけ広げることが重要である。

特に階層が上位になればなるほど、扱うべき状況が複雑になり、判断が難しくなる。個人では全体が把握しきれず、判断できなくなる。そこで考える範囲をプログラムで限定するのだ。たとえば在庫管理の例でいえば、社長は毎月の販売予測など気にせず、総在庫額だけを決めて、細かい個数や発注の管理は部下に任せる。それでうまく回るようにプログラムを作っておくのだ。そうしたら、社長は売り上げと利益から次年度の総在庫額のことだけ考えればいい、となる。

プログラムが形成する認知

会社・個人を取り巻く状況というのは本来とても複雑なものだ、それは社長に限ったことじゃない。個人が一度に注意できることは限りがあるので、合理的な行動をとるためには、複雑な現実を単純化して、一人の知力に収まる簡単なモデルにまで落とし込む必要がある。

こうして作りだされた簡単なモデルとそれを解決するプログラムが、その個人の達成すべき仕事と認知されるようになる。本来の大きな上位目標ではなく、簡易化された下位目標をいかにこなすかが目的となり、社内外の状況もこの下位目標に沿って認知するようになる。

在庫管理が目標となった人にとって、売り上げも利益もお客様満足度も関係ない。販売量の予測と製造の日程調整によっていかに在庫量を一定に保つかが全てであり、他の情報は認知されなくなる。

分業と伝達・調整こそが組織

さて、人間は受動的機械ではない、という古典的組織論の否定から始まったはずなのに、欲求や動機、認知や学習について考えた結果、人間は所与のプログラム通りに動くロボットだ、みたいな感じになってきました。

組織が複雑で高度な活動を達成するためには、複数のプログラムをうまく調整して連動させることが重要になります。そこで有効な工夫ポイントが3つあります。

①精製すること。不純物の多い天然素材をそのまま使うのではなく、生成して不純物をなくし、純度の高い原材料を使うことで副反応が起きにくく安定した結果が得られるようになる。

②公差(許容誤差)を決めること。製造上多少の誤差は生じるけど、必ずこの範囲内に収めますと決めておくことで、後工程も調整がしやすくなる。プログラムでいうと、モジュール間のインターフェースだけは最初に決めて死守する感じです。

③緩衝在庫を持つこと。ある程度在庫にゆとりがあれば、ちょっとイレギュラーが発生しても待って耐えることができます。在庫を持たないジャストインタイム生産で製品回転率を上げるのが最近の製造業では主流ですが、そのせいで部門間調整コストが爆上がりしてるのは当然の結果なわけです。

これだけ配慮してもプログラム間での調整はなくなりません。でも、その調整だっていかにパターン化してルーチンに落とし込んでプログラム化するかが腕の見せ所。そのためには、部門間で共通の認識を持っていることが大事です。つまりは会社の上位方針がどれだけ浸透しているか、上位方針と各部門の下位目的がなるべく一致した組織であれば、みんなが同じような認知をするので、調整がしやすくなります。

いかに多様性のない均一集団を作るかが、組織を効率的に運営する上で重要だということが分かりますね。

事件は会議室で起こってるんじゃない、現場で起こってるんだ

さて、組織全体がプログラム化されてくると、一番大事なのは組織の外から情報を入手するところになる。お客さんから注文が入りさえすれば、あとは社内のプログラムがひたすら連携して商品が出荷される。この組織がどう動くかは営業の受注力次第となる。

このように一番不確実な情報と接する人が大きな自由裁量と影響力を持つようになり、そうでない人は会議室でロボットのように決められた判断を繰り返すだけになる。特に意思決定が短期間に急いで行われるときは、手近な情報だけで判断することになるので、なるべく変化のない、安定で保守的な結論をひたすら続けようという方向に行きやすい。

なるべく早く新規事業を起こせ、売り上げを立てろ、収益化しろ、といくら叫んでも、出力される結果は変わらない。もし大きな変革を成し遂げたいならもっと長期的な視野を持つ必要がある。それは、組織の中でどのようにプログラムされていくのか? それが次回、最終章である7章の焦点です。

課題

・何回か繰り返すことでルーチン化した行動の例を挙げてみよう。   
・下位目的に一体化することで、意思決定が楽になる身近な例を挙げてみよう。
・コミュニケーションが失敗した例を挙げて、原因を分析してみよう。

今回は本編で疲れたので課題はやりません。とても分かりやすい課題なので、みんな考えてみてね!

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