見出し画像

社会学的想像力:歴史の利用

第八章です。

前章では政治学、経済学、心理学、人類学などいろいろな分野の社会科学が協力する必要があるね、といった話をしましたが、その中でも「歴史学」はすごく大事だよね、というのがこの章の趣旨です。

関心のポイントと、その記録が作られるときに流行っていた枠組が変化することでも、歴史は変わる。

P207

いま目の前にある事実を比較して理解・説明するためには、歴史的諸段階を知らなければならないし、様々な速度と方向の開発や未開発の歴史的理由を知らなければならない。

P215

この社会のあり方を考察しようと思ったとき、いま目の前にある政治とか宗教とか社会の仕組みを念入りに調べたところで、歴史的な背景から現在にいたるまでの経緯などを知らないと正しく評価はできません。

たとえば「育児をしない男性」の社会的立場みたいなのを考えたとき、現在と昔とでは全く違う評価がくだされるのは想像できるでしょう。男性と育児の理想的なかかわり方を考えようと思った時も、その時代によって出てくる答えはまるっきり違うものになります。

現代の社会構造のダイナミックな変動を理解したければ、社会構造の長期的展開を認識しようとしなければならない。そしてその観点で、これらの趨勢が生じ、この社会の構造が変化しているメカニズムは何かを問わねばならない。

P216

あるものを「過去から続いていること」として「説明」するよりも、「それはなぜ続いてきたのか?」と問うべきである。研究しているものが何であれ、それが経由した段階によって、答えはたいてい変化することがわかるだろう。

P220

このあたりから、筆者が社会科学に求める「公分母」としての役割がこの辺なんだなぁということが感じられます。みんな社会についての考えが狭すぎる、もっと歴史的経緯をみて長期スパンでの変化について問うていこう、というのが社会科学者のとるべき態度だと主張しています。

人間の多様性と歴史

第八章の後半では人間の多様性について触れています。

個人を、個人史的な存在として様々な個人間の生活圏のなかに位置づけるだけでなく、生活圏を、それを形成する社会構造のなかに位置づける必要がある。

P228

たとえば今でははっきりしていることだが、「父親」がパーソナリティ形成において役割を果たすのは特定の家族類型だけのことであって、それは家族を含む社会構造のなかで家族がもっている影響力がどのくらいかによって決まるのである。

P231

社会と歴史の関係は前半で述べましたが、個人の性格だって同様に歴史的背景・社会構造との関連のなかで形作られるものです。だから心理学の分野だって歴史は大事なんです。

最近の若者は結婚願望がない、草食系男子だ、みたいな傾向も、当然それを生み出す社会構造があるわけです。草食系男子個人の過去を振り返って、個人のどこに問題があったのかを探してもダメなんです。

だから、すべての社会科学はとにかく歴史をしっかり踏まえて議論しようね、というお話でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?