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実践コミュニティの育て方

前回、実践コミュニティとはどのようなものかを紹介しました。今回は第4章~第5章で、実際にどうやったら実践コミュニティを作り、発展させられるかについて考えていきます。なんて実用的な本なんでしょう。

コミュニティの発展には五つの段階があることを発見した。潜在、結託、成熟、維持・向上、変容である。実践コミュニティは、将来的に結びつきを強め、組織のより重要な一部になる可能性を秘めた、緩やかなネットワークとして始まることが多い。メンバーはコネクションを築くうちに、一つのコミュニティとしてまとまるようになる。コミュニティは一旦成立すると、通常はメンバーの人数とメンバーが共有する知識の深さの両面で、成長していく。成熟したコミュニティは、他の生き物と同様、活動レベルが周期的に上下する。この段階のコミュニティは、共有する知識や実践を積極的に世話し、意識的に作り出すことが多い。

P116
コミュニティの発展段階

①潜在

□領域:メンバーの心からの関心を引き出し、組織全体にとって重要な問題と整合性が取れるような方法で、領域の範囲を定義すること。
□コミュニティ:そのテーマを基にすでにネットワークを築いている人たちを見つけ出し、彼らにネットワークを拡張して知識共有を進めることの意義を気付かせること。
□実践:メンバーがどんな知識を必要としているかを割り出すこと。

P120

実践コミュニティの最初、立ち上げ段階についてです。本書では、会社のような目標がしっかりした組織のなかで、技術者たちの集まりのような横のつながりからなる実践コミュニティを作る、ということを念頭においているので、組織(会社)のなかでいかに人を集めるか、といった話になっています。

領域を明確に定め、魅力的なテーマを特定する。コミュニティは発展するにつれて、領域の境界を変えたり完全に定義し直すことによって、領域の範囲を頻繁に変えることになる。したがって、領域の最終的な形をまず決めてしまうのではなく、潜在的メンバーを引きつけるような方法で領域を定義することが第一の狙いになる。

P126

まずはとにかくみんなの関心のあるテーマを設定すること。このテーマについて話したいと思う人が多いほど、自発的に人が集まってきます。そのテーマは永続的なものではなく、メンバーの関心に合わせてころころ変わっても大丈夫。だからとにかく話題性の高い話をするのがいいのでしょう。

コーディネーターと思考リーダーの候補者を割り出す。コミュニティではコーディネーターと思考リーダーが、成功の鍵を握る。何もしなくてもコミュニティのコーディネーターが自発的に現れることがある一方、経営陣やコミュニティのスポンサーが、尊敬を集めているコミュニティ・メンバーに「公式の」コーディネーターの役割を引き受けるよう要請することも多い。

P128

どんなテーマでもいいですが、ちゃんとみんなの話をまとめて誘導できるコーディネーターとかファシリテーターみたいな人が重要になります。みんなが好き勝手に話しているだけでは有意義な情報が引き出せるとは限らないんですね。誰がどんな情報を持っているか引き出したり、さらに、コミュニティの外から有識者を引っ張ってきたり、そういった作業をする人が、初期のコミュニティでは特に重要なようです。

②結託

□領域:領域に関する知識の共有が役に立つことを立証する。
□コミュニティ:実践にまつわる厄介な問題について話し合うために必要な、強い結びつきと信頼関係を築くこと。この段階で最も重要なのは、信頼関係である。メンバーは信頼し合っていなければ、領域のどの部分が重要かを判断したり、コミュニティの真価を見極めたりすることはできない。
□実践:どの知識をどのように共有すべきかを、具体的に特定する。

P135

さて、コミュニティが立ち上がったら、ここを育てて、強い個人の結びつき、信頼関係を作ることが次のステップになります。実践コミュニティは個人と個人の信頼関係がとても重要なようです。

一般的には、メンバーがお互いの仕事やジレンマ、思考方式、問題の取り組み方などを理解するようになって、初めて本当に有益な助言を与え合うことができるようになる。この境地に到達するということは、メンバー同士が懇意になって理解し合うようになるにしたがい、ちょっとしたヒントや秘訣を分かち合い、それについて考え、適用するようになるということだ。こうした「ちょっと役立つ」秘訣を分かち合ううちに、互いの仕事がよく理解できるようになり、自分たちの取り組みの欠点に気付き、より有用な洞察を共有できる機会を見出せるようになる。

P137

信頼関係を築くというのは、つまり「心理的安全性」を確保することにつながるんだと思います。そのうえで、メンバー同士の対話で新しい気付きなり課題解決などが得られると、ああ、このコミュニティにいて良かった、と思えるようになります。こうしてメンバー同士が強くつながっていくステップが大事です。

なぜ加入すべきかという根拠を二つの面から示すことが必要である。それはコミュニティに貢献することの価値と、他の人々の経験から学ぶことの価値だ。コミュニティのリーダーやコア・メンバーの中には、他のメンバーの洞察を得たいがために、貢献を行うという人もいる。

P138

もちろん、いろんなことを学ぶことができる、というのはコミュニティの重要な価値ですが、同時に「教える側」にとっても有意義であるひつようがあります。ただ一方的に教える、教わるの関係ではいけません。相互に教えあうことができるのが理想的ですね。

共有する価値のあるアイデア、洞察、実践を見つける。この段階にあるコミュニティにとって一番大切な活動は、どのような知識が最も重要で価値があるかを探りながら、アイデアや洞察や実践を共有することである。これには色々なやり方がある。技術的基準や手順を作り上げる作業をチームに委託するコミュニティもあれば、メンバーの個人的なファイルにある資料を公共空間に掲示するコミュニティもある。

P143

①潜在のときには、話題はなんでもいいと言いましたが、②結託のフェーズでは、そろそろコミュニティにとって中核となる話題・価値を見定める必要が出てきます。メンバーみんなの知識・関心からして、この辺の話題が一番盛り上がるし、解決して力になるよな、という範疇を見極めましょう。

③成熟

□領域:領域が組織で果たす役割や、他の領域との関係を明らかにすること。
□コミュニティ:もはや単なる専門家の友人ネットワークではないコミュニティの境界を管理すること。新しい境界を以前よりも広げる場合、コミュニティの中核的な目的から関心が逸れないよう気をつけなくてはならない。
□実践:実践における課題は、アイデアや洞察を共有することから、コミュニティの知識を体系化し、知識の世話人としての役割を真剣に受け止めることへと変わっていく。メンバーがコミュニティについての理解を深めるにつれ、コア・メンバーはコミュニティ内部にある知識の格差に気付き、知識の最前線がどこにあるかを知るようになり、より体系的なやり方でコミュニティの中核的な実践を定義する必要を感じ始めることが多い。

P153

最初は仲のいい友達が集まって好きな話をする、楽しい実践コミュニティだったものが、役に立つという評判とともに加入者が増え、だんだん公式コミュニティみたいな様相を呈するようになります。人が増えるともめごとも増えるし、ルールが厳しくなったりして、昔のような自由な議論ができなくなってしまい、魅力がなくなって人が離れてしまったりします。

メンバーが増えても関係や刺激や信頼を失わないようにする方法を学び、また実践を体系化しつつも助け合うための相互交流を維持することができれば、集中と成長との間のせめぎ合いを解決することができる。一般的にコミュニティはこの緊張を解消することを通じて、一体感を深め、領域の価値について自信を深めていくのである。

P155

コミュニティが拡大すると、焦点が最先端の問題からより基本的な問題へと移ってしまうことがある。コーディネーターはコア・メンバーと緊密なつながりを保ち、彼らの必要が常に満たされるように気を配らなければならない。この段階、新参者たちを引きつけるのは、コア・メンバーの名声や活動であることが多い。彼らが時間と労力をコミュニティから引き上げてしまえば、コミュニティ自体の魅力も低下してしまう。

P160

コミュニティは生きものと一緒なので、必ずこのような変化のフェーズが訪れます。昔のコミュニティは良かったのになぁと嘆いても仕方ありません、成長したコミュニティには成長した良さがありますので、適切に対処していきましょう。

④維持・向上

□領域:領域の有用性を保ち、組織での影響力を高める。
□コミュニティ:コミュニティの雰囲気と知的焦点を、活気に満ちた魅力的なものにする。
□実践:コミュニティを常に最先端の状態にとどめておく。

P163

成熟したコミュニティをいかに維持・向上させていくか。あまり私もこのようなフェーズにいたことがないので実感はあまりないですが、とにかく保守的にならず新しいものを取り込むことが大事なようです。

積極的に知識体系の世話を行うためには、所有者意識と開放性との間のバランスを保たなければならない。コミュニティ・コーディネーターとコア・グループのメンバーにとって大事なことは、この新しい挑戦を受けて立ち、コミュニティの焦点を広げ、新しいものの見方を取り入れる機会を見つけ出すことだ。コーディネーターは、コミュニティの活力の満ち引きを意識し、コミュニティの自分自身に対する理解(自己認識)を壊さないような、またはそれを生み出しさえもするような方法で、変化する環境の要求に応えていかねばならない。

P164

⑤変容

そして最後は、コミュニティの死です。さまざまな変化の末、コミュニティはその役目を終えます。その終わり方はいろいろありますが、ここでは4種類が例示されています。

□衰弱する。多くのコミュニティは単に衰えていく。メンバーも活力も失われ、ついにはコミュニティのイベントに参加したりウェブサイトに書き込んだりする人がだれもいなくなる。あるプロジェクト工学者のコミュニティは、会社のプロジェクト工学の取り組みでいくつかの緊急課題を解決した後、徐々に勢いを失っていった。
□社交クラブとなる。コミュニティは社交クラブと化して衰えることもある。かつて勢力を誇っていたあるITマネジャーのコミュニティは、組織の新しいアイデアや新興勢力から取り残されてしまった。コア・グループは個人的に強く結びついていたので、会合を続けてはいたが、焦点はやがてITの問題から組織に関する問題へ、そして私生活へと移っていった。彼らは緊密に結びついてはいたが、実践の世話人としての意識を失ってしまったのだ。
□分裂や合併。コミュニティは別個のコミュニティに分裂したり、他のコミュニティと合併することもある。あるグローバルなコミュニティは、自分たちのテーマが別の小さなコミュニティとかなり重複していることに気付いた。そこで二つのコミュニティは合併した。
□制度化。コミュニティの中にはあまりにも多くの資源を必要とするために、制度化されるものもある。たとえば中核的研究拠点に形を変えて、少数のスタッフが特定の能力を維持し、コミュニティの元メンバーを通じて他の部署とのつながりを保つなどのケースがある。または、公式のユニットの構造や機能(指揮命令関係、資源配分の責任、求人、採用、個人の業績査定など)をすべて備えた、本物の部署になることもある。もちろん機能別のユニットであっても、同僚同士の非公式な知識共有のための手段となり得るが、制度的な枠組を与えられれば、コミュニティ自体と組織との関係が劇的に変わってしまう。

P170

読んでみると、どれもありそうな末路だなぁと感じます。まぁ、それも悪いことではないと思います。役割を終えたコミュニティに固執するのではなく、その役割を変容させながら、新しい実践コミュニティを立ち上げて、そちらに重心を移動させるのも大事なことでしょう。

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