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055 カレンダー考6完

6)結言

 安井家は江戸時代の囲碁名家の一つであり、安井算哲は江戸時代初期を代表する囲碁棋士である。別名渋川春海。彼は暦法にも興味を抱いて、天文学や数学を学んでいる。当時使われていた暦は「宣命暦」と言い、中国の唐から伝わったものである。すでに800年以上の使用実績があった。暦は権力の象徴でもあるが、京都の朝廷がこれを管轄しており、江戸幕府は口を挟むことができなかった。
 宣命暦は日食や月食の予測も含んでいたが、実際とのずれが大きくなっていたことが問題であった。江戸幕府はこれを改暦のチャンスとみていた。春海は独自の研究を続け、何回かの失敗を経て、大和暦を完成させた。成果は江戸幕府から朝廷に上表、ついに採用されて貞享暦となった。この話は、冲方丁の小説「天地明察」に詳しい。同時代には和算の関孝和がいる。彼の業績は近年高く評価されている。江戸時代の暦法、天文学、数学などは恐らく世界トップレベルにあったことは間違いない。
 しかしながら、明治政府によってこれらの学問だけでなく、神仏習合という日本独自の宗教観、漢方を中心にした世界最先端の医療体制などが、ことごとく破壊されてしまった。それまでの太陰太陽暦に基づいた暦が廃止されて、太陽暦のグレゴリオ暦が採用された。一方、古来からの伝統行事との整合性は置き去りにされて、混乱したまま現在に至っている。
 残念ながら、私達が使っているカレンダーが見直される可能性は限りなくゼロに近い。和暦は廃止されても何らの支障は無いが、せめて旧暦併用カレンダーの普及はあっても良いのではないかと考える。1月1日については、相手が世界の国々なので如何ともし難いが、蟻の一穴として、冬至の日を1月1日とすることを提案したい。そうすれば、春分の日は4月1日、夏至は7月1日、秋分の日は10月1日となり、何ともスッキリする。どうだろうか。完
(「とびらの会」より転載)

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