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3-15. 諦めた(?)二人

2017年3月

富士山辺りはまだまだ冬でした。

日本で一番早くオープンするスキー場で有名な

富士山二合目のスキー場「イエティ」

青空に真っ白の世界がとても綺麗な風景。

「はあ~」

ドライバーさんと僕

同時に深いため息をしました。

その理由は寒さなのか嘆息なのか。

……

添乗員になってから3年目で

初めて外国団体のアシストを任せました。

アシスト?

一体、何をアシストする?

……

春を迎える3月なのに

ここにまだ冬を逃したくない人々がいました。

冬を満喫したい人々がいました。

タイからの団体です。

あるグローバル企業のタイ支社の社員旅行で

日本に来たわけです。

初めての方も多くてワクワクするのは

言うまでもないです。

初日ミーティングのため、

成田国際空港へついてバスを見つけました。

「初めまして!」

ドライバーさんに挨拶したら…

「君、うちの惑星の人?」

「いいえ、あちの惑星の人です。」

「ああ、そうか。。。でも、とにかく日本語が通じてよかったよ。」

ドライバーさんは本気でホッとした様子。

「??」

「あのさ、ガイドさんが日本語が通じなくてさ…」

「……」

ここで中々珍しいというか

とても面白い珍風景が広がります。


お客様の団体はタイ人の方々です。

ガイド兼添乗員として日本駐在タイ人の仲間(同じ派遣会社所属)が付きます。

とても愉快な彼女ですが、同じタイからの観光客専門なので

ただ日本語が足りないです。

僕がアシストとして付いたわけです。

(自分の日本語もまあまあですが…)( 一一)

タイ語→(少し英語)→日本語

日本語→(少し英語)→タイ語

お客様、ガイド、ドライバーの間に僕が入ります。

きゃ~!!!!

オーマイガー!

生まれてから初めて「雪」という物をみたお客様たちの反応は

思った以上でした。

もう説明や案内コメントなんて要りません。

「えーと、集合時間は…」

バスの扉が開けた途端殺到!

……

集合時間に近づいてバスに戻ったら、

ドライバーさん一人で寂しそうに座っていました。

時間になっても、

時間が過ぎても、

一人も戻る気がありません。

ひんやりとした冬風が吹いて

日差しに反射した「イエティ」の雪の風景が

まぶしく光ります。

さらに、ガイドさんも戻って来ないです。

「積もった雪がもう汚れて汚いのに……」

人々の足跡で黒くなった雪をみて僕がいいました。

このままだったら次のスケジュールに支障があるはず…

職員としての圧迫感が押し寄せてきます。

「はあ~」

ドライバーさんと僕

同時に深いため息をしました。

その理由は寒さなのか嘆息なのか。

「オーさん、もういいよ」

「え?」

「初めて雪の風景を見るからさあ、

時間を忘れるほどうれしい事だね。」

「まあ、そりゃそうですけど…」

「お客様が満足したらそれでいいじゃない?

せっかくこの惑星に来たからさあ、日本の自然を

一杯満喫させよう」

優しいドライバーさんは笑いながらいいました。

本気なのか諦めたか

良く分からないけどさ、

時間を守る事が団体ツアーの

一番だけどさ、

たまには例外にするのは

こういう場合ではないかと。

ようこそ、皆さん!

日本の冬の

あの思い出、

まだまだ残っていますでしょうか?

忘れないでね~

この世、良くなったらまた来てね。

そのおかげ(?)で熱海の宿到着が遅くなりましたが、

その夜は疲れたお客様も、

ガイドさんも、

ドライバーさんも、

僕も、

そして、バスも

良く眠れました。

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