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実録経済小説 FTX破産 #3 〜非拘束〜

顧客資産引出の停止…。これが意味する所は、FTXが相次ぐ引出要請に即時に対応できなくなったということだけではない。これは良くある取引所破綻の前のシグナルなのだ。ダンは身震いした。

詐欺師が跋扈する仮想通貨業界では、取引所が応答しなくなったまま顧客資産を持ち逃げしたり、CEOが行方不明になり秘密鍵も行方不明になる、遂には、CEOが死亡したと発表したが根拠不明で詐欺を疑われる事件があるなど、幾つも類似事件が発生してきた。

ダンは慎重にそのような取引所は避けて難を逃れてきた。

今回の顧客資産の引出停止は、明らかに悪いシグナルだ。しかしFTXは業界最大手の一つだ。それも裏には巨大ファンドAlamedaを擁しトレードで稼い続けている、そういった先なのだ。一体FTXに何が起きているのか?

SBFからのTweetが入ってくる。

「顧客資産は安全だ。引出要請には順次対応するから何も問題ないよ」

引出停止となってしまった以上、ダンにできることは最早祈ることしか無くなってしまった。脳死状態でSBF,サムを応援するしかない立場になってしまったのだ。このような無力状態を避けるために2015年の仮想通貨参入以来、予防線を張って来たはずが、まさかこの資産集約の一瞬に…。

胸がムカムカする。重い重石がずっと取れない。一体、俺の集約した仮想通貨たちはどうなってしまうのか。ずっと引き出せないのは困るが、無くなる訳ではないのだから、事が収まって引出し要請が減れば元通りになるのだろうか。。。

不安が脳内に渦巻き、それを追い払うために仕事に、作業に没頭するしかない。同僚と話すと逆に落ち着かない。仕事中でもTwitterが見たい。見たところで自分にできる事はない、それでもCZがアジア時間に何か発信するかもしれない。。。

しかし、その夜に「頂上決戦」の終わりは突如としてやってきた。

SBFがバイナンスとの「提携」を発表。自分はBinanceの1トレーダーになる、とツイートしたのだ。

BinanceがFTXを合併??既にBinanceはマーケットシェア50%を持っているのに更にFTXを飲み込めば誰も挑戦できない巨大企業が出来上がる。しかし、この過程に公正取引委員会のような当局が介入する手段はない。当事者同士が合意すればそれが全てなのだ。

SBFがCZに完全屈服した形なのは残念だが、FTXがBinanceに救済されるのであればそれは朗報と言える。何より今FTXに必要なのは信用なのだから。

やっと今晩は少し晴れた気持ちで寝られそうだ…、、ん???

寝る前に見たCZのツイートにある一つの単語がダンの目に止まった。

Non -binding

CZのツイートにはこう書いてあった。FTXとBinanceの合意はNon-bindingであると。つまりCZはこの合意内容に拘束されずフリーハンドを持った状態だという事なのだ。合意破棄だってする事はできる。。。

FTX USが譲渡対象でないことを交渉するつもりなのだろうか?一抹の不安を抱えながら今日も寝床に入る。サラリーマンとしてもプレッシャーの多い仕事を選んで来たダンだが、何故か寝付けなくなることが無いのが救いだ。

今日は今日、明日は明日なのだ。コントロールできないことを気に病んでも仕方ない。そうやってマインドを保つことで俺は仕事で成果を出してきたのだ。。。Zzz

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