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恩師の形見、その継承。

ペンタはいいよ〜

手に持ったコンパクトながらも存在感たっぷりのPENTAXを撫でながら、先生はそう呟き、ちょっとだけドヤ顔で私を見て微笑んでおられました。今、先生のアドバイスでNikonからPENTAXに乗り換えて38年。PENTAXが誇る名器中の名器LXの手入れをしながら、その時の先生の優しいお顔を思い出しています。

家族の思い出を28年間記録して来たペンタ

京都市立芸術大学でご指導賜りました平田自一教授がお亡くなりになって、もう9年が経とうとしています。おかげさまで、先生のお手を煩わせた学生であった不肖私も、鈴木先生と一緒にお越しいただいた結婚式からなんと28年。二人の子どもは東京に巣立って行きましたが、幸せだった家族との記録は全てこのLXで残して来ました。

ペンタは先生の忘れ形見

今日は七夕なので、東京にいる我が子たちの健康を祈りながら、家族の記録を懐かしんで見たり、私にとって先生の忘れ形見であります愛機LXの手入れをしたりしておりますと無性に先生のお顔とお声が聞きたくなりましたので、結婚式の記録ビデオを引っ張り出して来まして、主賓として頂戴いたしましたスピーチを再生しました。

「あ〜、え〜、こしおくんという人はですね、かなり変わった学生でして…。卒業制作の進行が遅れていて、もう搬入日まで一週間ぐらいは徹夜を続けても間に合うかどうか、なので一時たりとも身体が倒れてはいかんということで、制作室にどこから拾って来たのか畳を持ち込んで来まして〜、それを胴体の形に丸くくりぬきまして、そこに自分の胴体をはめ込みまして、気を失っても身体が倒れないようにして徹夜で制作をしていたという、まあ、何ともはや一種異様な学生だったわけですが。まあ、他にも色々、とにかくおよそ尋常ではない。そのような人間と結婚しようというのは、まあ新婦もよほど変わった趣味というのでしょうか…」

会場を爆笑の渦に巻き込まれた、若く元気で楽しい先生が、そこにはいました。写真は、15年前に亡くなりました私の義父が、披露宴会場で先生にビールをおつぎしている写真です。

先生から私へ、私から息子へ。

実は、いま手入れをしておりますLXは、息子が小学生の高学年ごろから写真に興味を持ちまして、当然カメラと言えばデジタルの時代であるにも関わらず、フイルムカメラなどもいじり始めましたので、先生の訃報に接した機会に息子に託しておりました。息子が大学生になり東京に行く際には流石に持っては行きませんでしたので、今は誰もいない息子の部屋で、カメラ専用の保管庫の中に大切に置いてあります。

おそらく、先生の忘れ形見であるこのカメラ、今度は息子にとって私の忘れ形見となり、ずっと大切にしてもらえれば。本当の名器というものは、そうして受け継がれるだけのものを持っているということでしょう、だから先生をして「ペンタはいいよ〜」と言わしめた。

ちなみに息子は写真好きが高じて、中学生時代は自分で新聞を発行したり、高校になるといくつかの写真コンテストで表彰されるようになりました(笑)。先生から私へ、そして私から息子へ。一台のカメラを通して、先生から教わった「ビジュアル情報伝達」というものが、これも受け継がれて行くのかもしれません。




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