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妖怪と魔酢苦/私小説③/ストレスジャンププール

はぁ…

嫌になることばかり

授業はオンラインで、大学の施設は利用できない

友人や異性との出会いもない

大学生活や、どのサークルに入るか、楽しみにしてたのにな…

実家の両親から、学費だけでなく、生活費まで仕送りをして貰っているけど…

共働きの両親が働く職場では、まず派遣の人の契約が、一方的に打ち切られた

パートやアルバイトでもシフトが削られたり、勤務時間を減らされ減収…

両親の状況は教えて貰えず、

「私達のことは気にしなくて、いいから」

と言って貰ったけど、自分の生活費は稼ぎたいと、飲食店でバイトをしているが、、、

報道と法令で、お店が苦しめられ、経営が厳しい…

シフトに入れて貰うだけでも、ありがたいと思える状況だ…

はぁ…

駅のホームで、ため息がこぼれる

あー、もう嫌になる

ふと足元に目が付くと、魔酢苦が落ちていた

時々、落ちているのは目にするけど…

荒んだ気持ちから、踏んづけてしまおうと、足を近づけたら…

「汚い足、どけろやボケ!」

突然の怒声に驚き、足を引っ込める

が、声の主は見つからず、一体どこから…

ま、ま、ま、まさか!?

魔酢苦から?

恐る恐る、手を近づけると、魔酢苦が手に絡みついてきて、辺り一面がプールに変わった…

~~~~~~~~~~

気が付くと、大量の汚れた魔酢苦が、山積みされた空間にいる…

一体ここは、どこ?

「お前さんに言いたいことがあって、ウチらの世界に来てもらった」

声のする方を見ると、先程の魔酢苦に切り込みが入り、人の口の動きをしている

「あと、変な漢字を当てるなや。

魔酢苦って、なんなん!?」

「摩訶不思議な効果を謳われ、酢っごく蒸し暑くて、息が苦しいから、魔酢苦」

「あほか。無理矢理すぎやろう。」

「考えるの、すっごく大変だったんだから。

それで魔酢苦が、何の用なの?」

「はぁ…

お前さん、ウチのこと踏んづけようとしたやろう?

物を粗末にしたら、あかんで。」

「だって、忌々しいし、ムシャクシャしてたから、、、」

「そうか。お前さんのような人間が、ウチらを、生み出しているんや。

昨年から、ウチらを身に付けるように強要する人間や、ウチらを身に付けていると、馬鹿にする人間が現れたんや。

お前さんのように、息苦しさや肌荒れ、蒸し暑さの辛さから、、、

ウチらを怒り憎む気持ちが、新種の妖怪になって生まれたんや…」

「そんなこと、言われても…」

「あと、運動時や高温下でも、ウチらを身に付けさせて、拷問や虐待しとるんか?

熱中症で倒れる人や、子どもさんが命を落とされたりしとるのに…」

「それは、変だと思うけど…」

「不本意という言葉を、知っとるか?

ウチらはな、粉塵作業や身体の具合が悪い人のためとか、本来の役目や役割があるんや。

それを、人間同士が苦しめ合う道具に使われるなんて、悲しくて、やるせなくて、虚しくなるわ…」

「ちょ、ちょと待ってよ。

わたし1人の責任でないし、加害者でもないでしょ?」

「ここに呼べる人間の条件の1つが、ウチらを粗末に扱う人間や。

なあ、あの踏んづけようとした魔酢苦が、お前さんの、おとんやおかんの魔酢苦やったら、どう思う?

失くしたことに気付いて戻ったら、悪意が込められた足跡を見て、どんな気持ちになるやろな?

ウチらも傷ついて悲しいけど、心が痛むな…」

「それは…」

ちくしょう…

耳が痛くなることを言われたな…

確かに、人が大切にしているものを、わたしが気に入らないからって、、、

土足で踏みにじっても、いい理由にはならない…

「あ、あ、あの…

踏んづけようとしたことは、わたしが間違ってました。

ごめんなさい…」

「ええで。わかってもらえたんなら。

ここに呼べる条件の1つに、見込みがある人間や。

人間だれしも、間違いや傷つけてしまう時があるが、そこで自身を省みたり、考えるやろう?

欲と利己にまみれとる人間には、ウチらの声は届かん。

不快に感じ、煙たがられ、無視されるだけや。」

「そうだったんだ。

じゃあ、そろそろ、ここか…」

「まだ、話は終わってないで。

ウチらの仲間の有り様や。

なんやの人間って?

昔は、物を大切にしたり、長く使うもんが、ぎょうさんおったけどな。

たった1日や数時間使ったら、不要なんか?

洗って貰ったり、大切に扱って貰えれば、まだまだ、ウチら働けるで。」

「それは、わたしも変だとは思うの。

なんかね、最初は魔酢苦を身に付けなさいだったのがね。

際限なく、要求が増えたの!

・ウレタン魔酢苦は、ダメだの

・二重に魔酢苦を、身に付けなさいだの

・不織布の魔酢苦しか、認めないだの

・汚れが目に付く魔酢苦はダメで、常に新しい魔酢苦を、身に付けなさいだの…」

「二重って、下の魔酢苦しか仕事してへんやんか…

はぁ…

悲しいな、ひどいな…

なぁ、人間以外の生き物かて、小さい物や目に見えない物もおるやろう?」

「うん。動物や植物に、虫や微生物や菌だよね。」

「お前さん達の中に、理解不能な言葉を次々に生み出し、広める人間がおるやろう?

エコだの
地球を守ろうだの
サスティナブルだの
SDGSだの

ウチらからしたら、詭弁や欺瞞でしかないわ。

人間中心に都合よく物事を考えて、物ができる過程で命をもらった、すべての生命に対して、粗末に扱っていないか?」

「う~ん…

そういう視点や角度で、考えることは、ひさしぶりかな。

自由や人権が、制限され続けているから…」

「さすが、ウチらが見込んだ人間やな。

お前さんのように、心の痛みが分かったり、想像力を働かせたり、 物事の本質を考えられる。

つまり、良心や良識のある人間は、人の心に届く言葉を持っている。

こうしてな、伝言を頼んでるんや。」

口の悪かった魔酢苦から、急に認められたりして、くすぐったい気持ちだ

比較と評価を下し合い、競争させられる現状のわたし達では、常に何かが不足していると言われる…

際限のない努力と頑張り、前向きに考えろと要求される…

お上や宣伝屋の言うことは、聞き分けがよく、大人しく従う人間になれと…

「で、で、でも…

わたし1人変わったり、がんばった所で、どうなるの?

社会や世の中を変えられるわけじゃ…」

「ふふふ。

それは考えても仕方のないことやろう。

肝心なのは、お前さんが、理不尽や不条理まみれの世界の中で、どう生きるか?どんな人間でありたいか?を考え模索することじゃないか?

お前さんのような人間の行動や発言は影響力があるが、世の中や社会を変えることを目的にしたら、アカンで。

お前さんが、日々、ちいさな幸せを感じたり、丁寧に心地よく生活が出来るだけで十分じゃないか?

それで、満足できへんか?

人間は、まねっこが大好きな生き物や。

お前さんが幸せに、楽しく生きているだけで、まねするもんが現れる。

誤魔化しや上辺だけの、考えや情報に振り回されるもんが、結果的に減るんや。

そしたら昔の様に、ウチら妖怪と良好な関係を築けるもんが、戻ってくるやろう。」

「そ、そ、そうなんだ…

理解できることもあるし、言葉にできない感覚もあるの…

ただ 、頭の中が、すごく混乱してるの…」

「そりゃ、そうや。焦らんでええ。

ゆっくり、じっくり 、休みながらで、大丈夫や。」

最初は、ヘンテコな世界迷い込んで戸惑ったけど、こんなに頭を使って、考えることになるなんて、思いもしなかった

「ねぇ、もっと…」

と言いかけると、

「アカン。時間や。お前さんと話しができて、よかったわ。

ウチらの話しを聞いてくれたり、考えてくれ、ありがとな。

お前さんは、いつもよう、がんばっとる。

ゆっくり休んでな。

ほな、またな。」

「ちょ、まだ…」

魔酢苦が手に絡みついて、辺り一面がプールに変わった…

~~~~~~~~~~

気が付くと、わたしはホームに戻っていた

すご~く、頭は疲れているけど、心地いい疲労を感じる

足元には、さっきまで話していた魔酢苦が、口を閉じている

ふぅ~と、一息を付く

もう会えないのかな?

とりあえず、踏まれたら可哀想だし、持ち主さんの為にと思い、公衆電話の受話器に引っ掛けた

これなら、強風でも飛ばないだろうし、目にも付くだろう

空を見上げると、真っ暗な空に、星が見える

昔は 、電気もないし、便利でもないけど、目に見えない世界を信じたり、妖怪さんと仲良しの人も、多かったのかな?

とりあえず、ウチに帰って布団に入って眠ろう

また、妖怪さんと会えるのかな?

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3作目、お読み頂いて、ありがとうございます。

関西弁が好きで、本家でないので、ぎこちない部分もあるかと思いますが。

もしよかったら、感想など頂けたら幸いです。

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