所沢市母子殺害事件公判傍聴記・2023年3月2日(被告人:大谷竜次)

2023年3月2日
東京高裁第二刑事部
720号法廷
事件番号:令和4年(う)第740号
罪名:窃盗、殺人、死体遺棄
被告人:大谷竜次
裁判長:大善文男
右陪席裁判官:仁藤佳海
左陪席裁判官:白石篤史
書記官:高尾真司

10時20分、入廷が許される。当初、傍聴人は15人ほどだったが、途中から増え、20人を超えていた。
弁護人は、白髪を短く切った、神山啓史弁護士。書面を机の上に広げている。もう一人の弁護人は、髪を後ろで束ねた痩せた女性であり、こちらが三宅弁護士らしい。弁護人二人は話し合い、笑っていることもあった。
検察官は、髪を短く刈った中年男性。机の上には、資料が一綴り置かれている。
書記官は、眼鏡をかけた髪の短い中年男性。「原本の請求ですね」と、女性弁護人に話しかけていた。
被害者参加代理人の弁護士は、髪の短い中年女性。一審でも担当していた記憶がある。検察官と話し合っている。
そして、被告人が入廷する。被告人は、一審は車椅子だったが、今回は刑務官二人に挟まれ、歩いて入廷した。頭は丸坊主にしており、引き締まった体格をしている。黒とグレーの長袖のジャージの上下を身に着けている。顔のほとんどは白いマスクが覆っている。きょろきょろしながら入廷した。被告席に座ってから、三宅弁護士に話しかけられていた。手錠を外されるが、外されながらも、三宅弁護士に話しかけていた。被告席に座ってから、傍聴席の方を見たり、時計を見たりしていた。
裁判長たちは、10時30分の開始時刻よりやや早く入廷する。裁判長は、禿げあがった眼鏡をかけた初老の男性。左陪席裁判官は、眼鏡をかけた短髪の青年。右陪席裁判官は、中年女性だった。
裁判長『時間まで、もうしばらくお待ちください』
こうして、10時30分になり、大谷竜次の控訴審初公判は開廷した。

裁判長『それでは開廷します。被告人は前に出て。証言台の前へ立ってください』
被告人は、立ち上がる。
裁判長『最初に確認する、証言台の前に立って』
被告人『座っていいですか、苦しい』
裁判長『あ、座ってください』
裁判長の許可を受け、被告人は、証言台の椅子に座って人定質問を受けることとなった。
裁判長『名前は』
被告人『大谷竜次です』
裁判長『生年月日は』
被告人『昭和51年2月5日です』
裁判長『本籍は』
被告人『北海道札幌市東区(略)です』
裁判長『住居は』
被告人『今ですか』
裁判長『今は決まった住所地は』
被告人『ないです』
裁判長『仕事は何をしていますか』
被告人『無職です』
裁判長『それでは、被告人に対する、窃盗、殺人、死体遺棄事件の控訴審の審理を行います。審理に先立ち、注意をします』
被告人『はい』
裁判長『被告人には、黙秘権がある』
被告人『はい』
裁判長『不利なことは言わなくてもいい』
被告人『はい』
裁判長『黙っていても』
被告人『はい』
裁判長『答えたい質問だけ答えてもいい』
被告人『はい』
裁判長『質問に答えないでも』
被告人『はい』
裁判長『黙っていたからと言って』
被告人『はい』
裁判長『不利にはならない。しかし、話したことは有利不利を問わず全て証拠となる』
被告人『はい』
裁判長『そのことをはじめに注意しておきます』
被告人『はい』
裁判長『解りますか』
被告人『解ります』
裁判長『それでは手続きを進めていきます。元の席に戻って、座って聞いていて』
被告人は、被告席に、背を曲げ、よろよろとした足取りで戻る。
こうして、人定質問が終わり、証拠調べに入る。
弁護人は、令和4年9月5日付控訴趣意書、令和5年3月1日付控訴趣意補充書を提出している。論旨は、事実誤認と、量刑不当である。また、補充し、控訴趣意を口頭で述べることとなる。三宅弁護士が、証言台の前に立ち、口を開いた。

<控訴趣意>
原判決の最大の誤りは、大谷さんが犯行時間帯にチェックシャツをきていたという推認に基づいて有罪認定をしてしまったことです。
確かに、チェックシャツは大谷さんのものです。ですが、大谷さんがそれを犯行時間帯に着ていたという直接的な証拠は何もありません。
Bさんの自宅には、S・Yさんがいました。S・Yさんが、大谷さんのシャツを着て、二人を殺すことも可能でした。現に、チェックシャツの襟周りの裏側部分には、大谷さんになくて、S・YさんにはあるDNA型が散在、検出されています。
襟周りの裏側部分、ここからは、血液反応が出ていませんでした。なので、このDNA型というのは、Aさんの血痕ではないと考えられます。加えて、AさんとBさんを浴室に連れて行く時、チェックシャツの襟周りの裏側の部分に、二人のDNA型が付くとは考えがたい。他方で、S・Yさんが黒色ジャンパーの上からシャツを着ていたとしても、襟周りの裏側には、S・Yさんの首に当たる可能性があります。
S・YさんのDNA型が散在していることは、S・Yさんが二人を殺害したことの証左です。加えて、仮に大谷さんがチェックシャツを着てAさんを殺害したのなら、チェックシャツの中のインナーシャツにもAさんの血痕が付いているはずです。しかし、Aさんの血痕が付いたインナーシャツは発見されておりません。
Bさんの殺害についても、原判決は不合理な認定をしています。仮に、Bさんを殺害した理由が口封じのためであったら、どうしてBさんは全裸になっていたのでしょうか。どうして温度が最高温度になっていたのでしょうか。Bさんは事件前、同じように失禁をして、Bさんの服を脱がせ、おむつを外し、そうであれば、Bさんが全裸であった事の説明がつきます。そして、Bさんを殺害しようとS・Yさんが決意して、日頃の強い恨みから、湯量を最大にして、温度を最大にした。そう考えれば湯量も説明が付きます。
S・Yさんは、Aさん、Bさん二人に対して強い強い動機を持っています。Aさんが何度も何度も刺されているのも、Bさんが最高温度、最高湯量で沈められてしまっているのも、これはまさに、強い殺意を示しています。大谷さんには、そんな動機はありません。
S・Yさんが大谷さんのチェックシャツを着て、二人を殺害したことについて、合理的な疑いを拭い去ることはできません。大谷さんは無罪です。
原判決は、・・・破棄されるべきです。

裁判長『令和4年12月27日付、検察官答弁書。その通りに陳述する』
検察官『答弁書の通り陳述します』
裁判長『控訴に理由はなく、棄却されるべきという陳述ですね』
令和4年9月5日付、令和5年3月1日付で弁護人から証拠調べ請求書が提出されている。弁1は実況見分調書。立証趣旨は補充書のとおり。Bさんに失禁等あったという事実。弁1、弁2、いずれも実況見分調書。弁3はS・Yの尋問。立証趣旨は、S・Yが被告人を使った偽装工作をしていることを考えれば、S・Y自身が二人を殺し、自分の犯罪を隠すために偽装工作をしたことが認められる。そして、被告人質問。立証趣旨は、S・Yの指示で、偽装工作をしたこと。かかる事実からすれば、S・Y自身が、二人を殺害し犯行を隠す偽装工作をしたこと、事件後、S・Yから、俺が大谷の服を着て二人を殺した、と告げられたこと。
裁判長『検察官は』
検察官『書証二点は、信用性は争いませんが、控訴審では不必要。S・Yは原審で取り調べ済み。被告人質問は控訴審では不必要』
弁1、弁2は、同意するとのことだった。
裁判長『協議します』
裁判長は、裁判官と話し合う。
裁判長『証拠の採否について、決定します。弁1、弁2の実況見分調書はいずれも採用します。証人S・Y、被告人質問、必要性はなく、いずれも却下します』
三宅弁護人『裁判長、却下決定について異議を申し上げます。339条1項の逸脱乱用、異議を申し上げます』
検察官『異議には理由ない』
裁判長は、裁判官と話し合う。
裁判長『異議申し立て、いずれも棄却します』
この間、被告人は、裁判長の方を見ていた。証拠採用が却下された時、胸にはどのような思いが去来したのだろうか。あるいは、話を聞いていても理解できていなかったのか。
弁1と弁2を証拠調べする。
弁1は、平成30年2月23日付、マエカワ巡査部長作成の実況見分調書。おむつからアンモニア臭がし、尿反応。黄色の尿が付いており、吸水部分にも盛り上がりがみられる。弁2は平成30年2月23日付、マエカワ巡査部長の実況見分調書。Bさんが着用していたズボンにも尿様のシミが存在している事。ズボンの上から着用しているものに、ティッシュの塊が付着している事。ズボンのシミとおおむね一致している。
提出される。
裁判長『これで結審します。被告人、一審の証拠調べと、弁護人提出の控訴の理由がかかれた控訴趣意書、控訴趣意補充書、証拠調べの内容を十分に精査して、次回判決宣告』
4月20日15時30~16時30分に、判決となる。場所は720号法廷である。
裁判長『終わります』
10時45分に、閉廷となる。
被告人は、閉廷後、三宅弁護士と少し話し、傍聴席に礼をして、退廷した。


よろしければ、サポートお願いします! サポートは、交通費などの、活動費として使わせていただきます!