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飯豊町一家三人殺傷事件公判傍聴記・2012年7月17日(被告人:伊藤嘉信)

2012年7月17日

仙台高裁

404号法廷

事件番号:平成19年(う)第118号

罪名:殺人、殺人未遂(変更後の訴因、住居侵入、殺人、殺人未遂)、銃刀法違反

被告人:伊藤嘉信

裁判長:飯渕進


この日は、傍聴券の抽選が行われた。27枚の傍聴券に12時40分の締め切りまでに来たのは、15人ほどだった。無抽選で入れた。うち二人は記者らしい。

法廷は狭い404号法廷となっており、一杯となった。

記者席は12席指定されており、8人が座る。

遺族席は、検察側最後列に三席指定されていた。

被告人関係者、弁護人側最後列に二つ指定され、すべて埋まる。被告人の両親だろうか。

弁護人は全員で四名ついており、白髪をオールバックにした眼鏡をかけた老人、柔らかい髪の眼鏡をかけた中年男性、髪を七三分けにした痩せた眼鏡の中年男性、短髪の眼鏡をかけた青年という顔ぶれである。開廷前、中年の弁護士はしきりに何か話をしていた、

検察官は、二名。四角い顔で頬のこけた、色白の、眼鏡をかけた中年男性。もう一人は、白髪交じりの赤ら顔の初老の男性。

開廷前、二分間のビデオカメラによる撮影が行われた。

裁判長は、髪の後退した、眼鏡をかけた小役人的な風貌の初老の男性。裁判官は、浅黒い痩せた40代ぐらいの男性と、色白で丸顔の頬のこけた目の細い中年男性。

遺族とその関係者は、7人が傍聴に訪れていた。被害者の弟は、なぜか松葉杖をついていた。

被告人である伊藤嘉信が、入廷する。彼の顔を見るのは、2年数か月ぶりである。被告用出入り口の所で、少し頭を下げ、入廷。痩せており、日に長い間あたっていないためか、ものすごく色が白い。不安そうに顔をしかめている。丸坊主に、眼鏡をかけている。ノーネクタイの白いワイシャツ、黒長ズボン、茶色いサンダル、白い靴下という出で立ちである。

こうして、伊藤嘉信の審理は、13時より開始された。


裁判官の一人が交代した。検察官、弁護人とも、主張は従前どおり。被告人も頷く。

鑑定書調べ、文献調べ、証人尋問をどうするか、打ち合わせを行う。鑑定人は二名であり、共同鑑定であるとのことだ。

証人は二人入廷する。髪の短い中年女性と、眼鏡をかけた痩せたスーツ姿の中年男性。女性は武蔵野大学の小西聖子教授。男性は、国際医療福祉大学の小畠秀吾准教授。

二人とも、促され、宣誓を行う。裁判長は、証人二人に偽証罪についての説明を行う。

被告人は、不安なのか、眉間にしわを寄せている。

まず、小畠証人への証人尋問が行われる。


<川口検察官の、小畠証人への証人尋問>

検察官『川口から。正面向いて答えて。証人には、被告人、伊藤嘉信の鑑定を依頼した。ありがとう。学歴、研究分野、あらかじめ書面作成して、弁護人に開示している。その書面を示す』

証言台上に置く。

検察官『略歴、鑑定件数、この通り』

証人『はい』

検察官『略歴の質問やめる。書面、速記に添付する』

弁護人は、了承。

検察官『本鑑定は、小西と小畠の共同鑑定。役割分担は?』

証人『はい、被告人、PTSDと診断され、それがどうなのか、鑑定、小西が行った。PTSDの診断可能性、小西がやった。その他、診断可能性、障害と犯行の関係、私が担当した』

検察官『犯行当日の経緯、状況について、被告人から聞き取りしたのは、貴方』

証人『はい』

検察官『鑑定書23,26Pを示す。23~26まで見ると、前日の様子、犯行時、犯行後の行動、詳細に書いている。貴方自身、被告人から聞いた』

証人『はい』

検察官『どの質問に、述べた?』

証人『基本的に時間を追って、感情、方法について、聞いた』

検察官『質問と答え、逐語的には書いてない。それ、記録は』

証人『ノートに一問一答として記録してあります』

検察官『質問しているけど、いちいちは書かず、被告人の説明部分に、質問内容放り込むやり方はしてない?』

証人は聞き返し、検察官は、再び問う。解るように書いているとのこと。

検察官『分量は』

証人『大学ノート二冊分です』

検察官『面接時、被告人は』

証人『基本的に質問の内容を理解している。言葉を選ぶ傾向がある。説明長くなることがある。細部に至るまで、正しく質問する傾向、顕著です。しかし、理解している』

検察官『23P~26Pまでの記載、ノートの記録から整理?』

証人『はい、特に、被告人の感じたこと、問診、元にしています』

検察官『詳細だが、それでも一部』

証人『はい』

検察官『面接時、もっと被告人は、詳しく述べている』

証人『はい』

検察官『24P、9行目を見て。犯行当日、被害者の家に向かう時の説明なんですが、被告人は、ペットボトルを持ち出したと述べている。入っていたのは』

証人『灯油と書いてあったと記憶しています』

検察官『灯油入ったペットボトル、持って行った』

証人『はい』

検察官『26P目を見てください。犯行後、被告人は、ペットボトルの中身と、ペットボトルを捨てた。これ、中身同様に灯油と』

証人『確認してないが、恐らくそうだと』

検察官『なぜ灯油持ち出したと?』

証人『すみません・・・』

検察官『ノートに記録は』

証人『もしここで見ていいなら』

弁護人は、結局、ノートを示すことを了承する。

検察官『ノートの、一冊目の、かなり終わりから、二枚目ぐらいの所を示す。それを見て、何か思い出したことは』

証人『ノートには、空想の中で、Aさんの手足の一部を燃やしてやりたいと書いています』

検察官『それも、被告人が当時、面接の際述べた内容なんでしょうか』

証人『はい』

検察官『犯行当時に、灯油持って行ったこと、被告人、これまで捜査段階でも公判段階でも、全く述べていない。面接時に初めて述べたということになると思う。そのことに、証人は気付きましたか』

証人『いえ、すみません、気付いていません』

検察官『解りました。次、PTSDの診断。基本、小西先生が担当。しかし、最終的に、被告人がPTSDに当たるという結論について、協議して、結論したと』

証人『はい』

検察官『PTSDに当たるという、精神医学上の診断と、責任能力の有無という法律判断、別物』

証人『はい』

検察官『この犯行、一面では、被害者に対する、被害者に性的暴行を受けたことへの怒り積もり積もって、復讐した、と見える。犯行そのものは、そういう経緯で行われたということでよろしいでしょうか』

証人『はい、大筋においては、そう考えてます』

検察官『本件犯行時、被告人は、フラッシュバックを体験したという認定のようですが、フラッシュバックを体験した時の選択肢ですが、逃げる、という選択肢と、攻撃的な行動に出るという行動、両方あった』

証人『犯行前の時点ですか?』

検察官『はい』

証人『風呂に入っている時に、突然思い出されて』

検察官『はい』

証人『フラッシュバックと書いているが、狭義のフラッシュバックではない。しかし、被害者の事を思い出し、すごい怒り出てきたというの、その通りと思う。その時、被害体験から逃げる、攻撃的になる、両方の選択肢がある』

検察官『攻撃は、PTSDの問題ではなく、選択の問題?』

証人『PTSD,一次的には言えない。それ以前から、被害者を殺傷するという空想をもっていた。ある程度、連続性はある。ただ、それまで実行していないのに、今回やったかがわからない。被告人が語ったのは、突実は恐怖、躊躇なく、ただ強い怒り、噴き出した。これは、離人症。広い意味の乖離がある。これ、PTSDに随伴しているなら、PTSDとまったく無関係とは言えない』

検察官『犯行前後、ある程度合理的、合目的的な行動をとっており、認識できていないとは言えないと。状況を正しく認識していた』

証人『はい』

検察官『主文(2)、犯行時、被告人は乖離状態にあったと。重い症状か?』

証人『乖離というの、強い心理的ショック故、その人の思考、行動バラバラになり、行動しているのに記憶ない。甚だしい場合、多重人格になる。日常生活でも体験する、軽い乖離もある。また、乖離起きやすい性格ある。犯行と乖離、乖離によって起こされたのか、検証が必要』

検察官『カッとなって人に暴力を振るう場合、通常は乖離が起きるか』

証人『カッとなって人を殴っただけだと、乖離とは言えない』

検察官『本件時の乖離は、程度は?』

証人『被告人は、乖離状態にあった。二つの面で。一つ、離人症。外界を認識するが、それは現実感がなかったり、スクリーンに映っている感じ。あと、自分の考えや感情はあるけど、それが自分の物とは感じられない。模造刀持った手が見えた、実感できない、という感じ。犯行時、行動はあやふや』

検察官『しかし、36Pの、7行目を中心に乖離状態にあったことを指摘されるが、刑責の減免を認めるほどではないと』

証人『はい』

検察官『次、同じページの36Pの9行目を示す。情状面の酌量認める余地、ありうると。認めるべきかの判断は?』

証人『それは司法の判断です』

検察官『ありがとう』

続いて、痩せた中年男性の、サバ弁護士が小畠証人への尋問を行う。


<サバ弁護士の小畠証人への証人尋問>

弁護人『鑑定書35Pの一番下の方、こう書いている。本件、Aのみならず家族にまで危害を加えているの、奇妙な点と』

証人『はい』

弁護人『奇妙と』

証人『Aが対象のはずなのに、家族巻き添えにしている。怒りの強さといえる、と』

弁護人『強烈な怒りと』

証人『はい』

弁護人『外傷体験に由来は』

証人『部分的には影響しているかもと』

弁護人『被告人の発達上の偏りも影響と』

証人『はい』

弁護人『外傷は、どう影響?』

証人『PTSDの症状といえるか不明だが、あるかもしれない』

弁護人『それ、外傷体験に由来すると思われる、という意味ですか』

証人『はい』

弁護人『怒りの爆発、PTSD状と考えられる』

証人『はい』

弁護人『離人状態と』

証人『はい』

弁護人『事理弁別能力、影響は』

証人『一般的に影響しない』

弁護人『法的判断という意味でなく、スペクトラムで考えた場合は?』

証人『その意味でも、影響を与えないと』

弁護人『自分のやっていることに現実感ないというの、どう影響?』

証人『現実感ないというの、離人症、現実感なくても、認識正しくできてると』

弁護人『PTSDと犯行の関係、説明すると』

証人『私は、被告人は、PTSDのことで、本件、一義的に理解できるものではない。離人症へ影響ありうる。しかし基本的に、性的虐待した相手を襲ったもの。PTSDと考えなきゃ、動機説明できない訳ではない』

弁護人『PTSD,あることで、情状酌量の余地あるというの、意味は』

証人『一つ、これは、PTSD,情状酌量の余地ある、という考え方、ありうる。これは、司法判断。そのうえで、先程の離人症的、怒りの制御困難、これ、PTSDが原因か否かですが、本人、きれる傾向あった。しかし、一部、PTSDの影響ある。犯意の形成について、PTSD,全く無関係ではないとは言える』


<色白な裁判官の、小畠証人への証人尋問>

裁判官『減免認めるほど大きくはないと。影響の程度は?』

証人『基本的に、被害者へ向けた怒り、了解可能。抵抗、離人的なものあるが、それは本質的ではない』


<裁判長の、小畠証人への証人尋問>

裁判長『今の、共同鑑定、主文の二項というのありまして、被告人、怒り、顕著と。性的虐待の影響、顕著とある。これは、どういう関係?』

証人『前の鑑定書の主文に、解釈の余地、幅がある。性的被害体験、それは当然、犯行への影響高いわけですね。しかし、PTSDが犯行への影響強いか、というのは、解釈に幅がある』

裁判長『?』

証人『PTSDの症状、全く無関係かといえば、ある程度はあったと思う。しかし、その症状、動機つくる上で大きいかといえば、違うと』

裁判長『前の、オダカ証人の証言内容見ている』

証人『はい』

証人『PTSDある。しかし、犯行にどれくらい影響したかは違う』

裁判長『31Pで、PTSDに関する、責任能力の見解、アメリカでは、ここに書いた状況なんでしょうか』

証人『はい』

裁判長『日本において、岡田医師の論文について、それ以外、PTSDの責任能力について、ないのでしょうか』

証人『PTSDの責任能力、ほとんど議論ありません』

岡田医師の論文に、全体的に依拠しているわけではない、と述べる。

裁判長『酌量の余地認める余地ありうる、というの、小西先生との一致した見解ですか?』

証人『岡田先生の論文を前提にしていますので、小西先生も、そう理解していると』

裁判長『鑑定、長く慎重にやったと思う。一番判断困難なところは?』

証人『小西先生と私、感じていること違うかもしれないが、被告人は、供述にかなり綿密さを求めるあまり、供述があいまいになったり、少し変わったり、被告人自身の情報、どう受け取るか悩んだ。また、被告人は、質問の意図が解っているが、正しく答えようとするあまり、文脈が読めない。発達障害の可能性というところ、少し考えさせられた』

裁判長『小西先生とは』

証人『見解はおおむね一致している』

小畠証人への尋問は終わる。そして、小西証人が入れ違いで入廷する。


<川口検察官の、小西証人への証人尋問>

検察官『長いこと、被告人の鑑定に取り組んでくれて、ありがとう。略歴、この通り』

証人『はい』

検察官『鑑定件数は』

証人『刑事鑑定では、すみません、はっきり覚えていないが、10件くらい。民事、数は数えられないくらいやっていると思ってます』

検察官『解りました、結論のみ、端的に。理由必要あれば、重ねて述べたいと思います。役割分担は』

証人『私は、本件、PTSDか否か。責任能力は、小畠先生』

検察官『PTSD、外傷的、症状認定するにしても、主たる供述、被告人の供述。診断の信用性確保は』

証人『最初は、自由に、症状を聞いている。その後、PTSDとするに一番正確な診断基準使っている』

検察官『構造化面接』

証人『ストラクチャー、構造、決まった形の質問をして、そこから症状について、見ていくというものです』

検察官『主として、オープンクエスチョン。様子は』

証人『先ほど小畠先生も言ったが、被告人、過度に正確であること、こだわる。滑り台から落ちたという話をするとき、裏山か否か気にする。前に言ったことの正確さも、気にする。時間かかりました』

検察官『CAPSという診断基準を用いた。これ、有益と』

証人『はい、もちいている』

検察官『確認は、どうした?』

証人『意味は』

検察官『CAPS、質問すべき内容、得点の仕方、決まっている。それ、厳格に、そのCAPSでも決められている通りにやった』

証人『原則的にはそうしました。しかし、他の所で確認されていること、別の質問に使ってもいい。本人の疑わしい答えあれば、それ特にチェックするということです』

検察官『CAPSのそのままの数字と、鑑定内容、一致している?』

証人『いいえ、してない』

検察官『なぜ』

証人『PTSDの回避症状ありまして、症状あるため、ここについて試したくないというのあった。試したことないかと聞くと、ないと答えた。そして、すでに、そのこと思い出すの、つらいと言っている事解った。そして、のちにそこ、前に聞いたことで判断すると。相手に主体性任せて判断するのではない。CAPSそのままの数字とはなっていないです』

検察官『質問』

証人『全て録音いたしました。備忘録作っている』

検察官『A基準、鑑定書15P6行目示す。外傷的出来事、性的暴行、述べた部分。被害者に、肛門への射精された、と述べている。これ、原審、控訴審でも、全く述べていない。なぜ、証人との面接で、新たに述べたか』

証人『直には尋ねていない』

検察官『なぜ』

証人『大変具合悪く、尋ねられる状況ではなかったからです』

検察官『怒り覚え、動悸、を募らせ、怨恨、報復感情とのらせたと。正常心理の範囲内で、考えられる』

証人『はい』

検察官『B基準、被害について話すこと、恐慌状態になり、被害者の声聞こえると、話したと言っている精神的に、動揺・・・』

弁護人『異議!精神的に動揺したか、文字で記録に出ていない!』

検察官『省く。被害体験、その都度、供述を繰り返している。これまでなかったような情状、現れたと。詐病、拘禁反応の、可能性は?』

証人『はい、過呼吸伴う症状出てきたの、一回ではありません。途中から、非常に苦しいと泣き崩れ、そういう状況で本人の記憶語ったからと思う』

検察官『被害者の家の前を通らないようにしていた。これ、回避と。しかし、被告人は普通に生活しており、この程度で回避とは言えない』

証人『これ、被告人の言ったこと、書いている。大変苦しい状況で言ったこと、知っていただきたい。ごく簡単な派遣の作業覚えられないなど、いろいろ述べている。普通の反応というレベルを超えている』

検察官『被告、専門学校を出て、就職先ないと、親に説得され、隣家が被害者の家である、実家に帰ってきている。性的暴行受けた相手に近づくの、嫌では、と聞かれ、考えませんでした、と答えている。被害の回避、あまり深刻に考えてなかったのではというのは』

証人『PTSD,なかなか理解困難なところ。一問一答式で、感情、なかなか出てこない。しかし、先行きへの無気力な感じ、高校進学からある。虐待受けた人、自分にとってつらい事、自分で回避する力なく、そちらに行ってしまうこと、よくある』

検察官『回避と逆に、被害者の車の写真撮ったり、被害者を傷つける空想を抱いたり、している。これ、回避を否定するのでは』

証人『PTSD以外の感情を持っているか?ありうる。しかし、被告だけではなく、性的被害受けた人、援助交際、性関係に積極的になること、ある。それするの、復讐の気持ち。復讐の気持ちありながら、一方では、強く文句言えないことも、よくある』

検察官『C基準、(4)、(5)、ゲームやプラモづくりに熱中し、友人と会うこと多い。重要な行動への著しい意欲減退、孤立無援など、否定できないか』

証人『それはちょっと違う。プラモ作ること、回避の手段として行われている。(5)の他人から孤立しているというの、性被害受けた人に、大変強い。被告も、誰も信用できない思い、繰り返し述べている。外傷体験離せない。自分の周りにいる人も何となく信用できないと。はっきりしている』

検察官『D基準。(1)に該当すると。入眠困難、中途覚醒。他方3P、下から4行目あたり見ると、中学から不眠ある。専門学校、深夜に筋力トレーニングやり、明け方に寝ている』

証人『不眠起きていたの、中学から。被害の意味に気付いた時からと一致している。夜に起きていたの、サンドバッグ殴ったり、トレーニング、夜になってからやったと述べている』

検察官『仕事のミス増えるというの、集中困難と。他方、5Pの真ん中辺見ると、被告人、作業手順、何度も確認する癖があると。強迫性障害、関係では』

証人『強迫性障害、PTSD、関係ある。性的被害の人も、多い。他の理由あるという推論、可能だが、PTSDによると考えるの、自然』

検察官『被告人は子供のころ、いじめ体験がある。スキー教室で数人に囲まれて、殴られている。これの影響は』

証人『PTSD、体験と一対一の関係で、出てくるわけではない。勿論、限界必要。しかし、PTSDになりやすい要素はある。女の方が起きやすい、精神障害あったら起きやすい。一番苦痛だったこと、性的虐待だったと答えている。』

14時42分から、14時55分まで休廷となる。

被告人は、硬い表情で、尋問を聞いていた。傍聴席の方に頭を下げることなく、退廷した。

遺族たちは、被告人が被害者により肛門を犯されたこと、PTSDが確実、という尋問内容を聞いても、睨みつけるような、冷たい表情を保っていた。少しは思う所はないのだろうか。

公判再会時、すでに小西証人は証言台の椅子に座っていた。


<川口検察官の、小西証人への証人尋問>

検察官『PTSDに当てはまるか否か、責任能力の存否、別物』

証人『はい、責任能力判断、司法に』

検察官『PTSD,責任能力に影響与える?』

証人『大多数、認識に影響与えない』

検察官『本件も?』

証人『アメリカの判例になりますが、対象誰であるか、見誤る。戦場と誤解し、人を傷つける。日本では、実例あまりたくさんない』

検察官『36Pの2行目、4行目について、示す。合目的行動、とっているとある。正しい状況認識していた』

証人『はい、概ねそうです』

検察官『36P8行目ないし9行目、情状面の酌量の余地とみることありうる、とある。しかし、この役割、誰のものか』

証人『司法です』

検察官『外傷的出来事体験し、PTSD発症するか否か、違い出てくるのは』

証人『01で決まるわけではない。主観的、持続時間、違ってくる。一つの名前付いたからと言って、それで体験変わるというわけではない』

検察官『以上、どうもありがとう』

検察官は、証人に礼をする。

続いて、弁護人の反対尋問である。眼鏡をかけた痩せた中年男性の弁護人が、証人尋問に立つ。


<弁護人の小西証人への証人尋問>

弁護人『詐病か否か、見分ける工夫をしている。どうしている?』

証人『性器を咥えさせられたという記載のみで、(被告人は、この時、眉間に皺を寄せていた)・・・すみません、詐病ね、最初は生活史、聞いた。ダイレクティブなこと、聞かないようにした。誘導にならないようにもした』

弁護人『CAPSから入ると、誘導的になる?』

証人『それぞれのPTSD症状について、月に一ぺんか二へんか、どんな風か、聞いた。インパクトの強さフリーハンドで聞いて、そういうこと、やること可能です』

弁護人『他には』

証人『態度に注意払ったり、被告人に身体症状結構出るんで、それも考慮しました』

弁護人『被害者に肛門に射精されたというエピソード、どう具合悪い?』

証人『この回、まず、話出すこと、難しい。「今回は話す覚悟できた」と言ったが、話出せず。私から、これもあったでしょう、と一切質問ない。言葉途切れること多かった。今、何見える、と聞いた。誘導ない範囲で、PTSDについて持っているテクニック使った(被告人はこの時、苦しそうに、顔をしかめていた)。全体緑色に見えると話出した時から、涙いっぱい出てきて、肛門に精液つける形で射精されたと。その時、過呼吸になり、体、全く動かなくなり、このままだったら看守に運んでもらわないとならない。私、閉じる技術あり、閉じていった。被告人は、喋れる状態ではありませんでした』

弁護人『次、すべて話してもらう、と予告していた』

証人『段取りは言うことありました』

弁護人『交通事故やいじめの外傷体験語るとき、恐慌状態は?』

証人『なっていません。ただ、この時点、性的被害について簡単にしか語っていない』

弁護人『その時点では』

証人『性的被害、大変そうとは思うが、確定的なことは考えていない』

弁護人『被告人、離人症と』

証人『はい』

弁護人『離人体験語る人』

証人『はい、(PTSDの人で)多いです』

弁護人『離人症の程度は』

証人『視野狭窄の時に起こる乖離として、非常によく見られる。ただ、一般のPTSDの症状として、それ沢山起こるかというと、違う』

弁護人『症状は』

証人『PTSDの乖離ではなく、犯行時の体験、乖離もたらす原因の主たるもの。PTSD,乖離に関与している可能性、ありうる』

弁護人『どう関与した?』

証人『二つのこと、考えてる。怒り、主な動機。怒り、PTSDに主に随伴している。感情のコントロール悪くなること、起こりうる。怒りコントロール困難、犯行に関与している。また、元々この人持っている脆弱さに、PTSD合わさり、関与している』

弁護人『間接的な関与あると?』

証人『怒り、持つこと、よくあること。しかし、犯行に及ぶのは稀と。行動に出ない方が多い』

弁護人『しかし、それまで、行動に出ていない』

証人『そうですね』

弁護人『しかし、この時出て、加害者だけでなく、家族にまで加害している。何故』

証人『この犯行、情動犯罪に分類できる』

弁護人『それに、怒り、乖離影響』

証人『怒りの爆発、大きいと思う。しかし、この人の怒り、非常に幼少期の頃から、観察されている。癇癪持ち、一人っ子のように反応する。それにPTSD加わり、怒りのレギレーション悪くなっている事ありうる。しかし、それが原因かというと』

弁護人『怒りと』

証人『はい、この怒り、どんな人でも抱くものと思う』

弁護人『激しい怒り、PTSDの症状として起こっている?』

証人『いえ、怒り、正当な感情。ただ、本人持っている爆発性も、ある程度あると考えた方が』

証人『フラッシュバックと強い感情、原因とも、責任能力に影響あるとも言っていない』

弁護人『情状酌量の余地認めることもありうる、というのは、専門家として、言ったこと?』

証人『いえ、日本で認められている意見。私、一般的に同意します』


<老人弁護士の小西証人への証人尋問>

弁護人『鑑定書36P、小畠の意見参照にすれば、とある。本件について書いてある』

証人『性的被害体験のフラッシュバックに続く、激しい怒りの爆発、非常に強い要素になっていると。原因、性被害体験あると』

証人『はい、うまく回避しようと思ってもできていない』

被告人は、目をきつく閉じ、非常に具合が悪そうだった。顔を強くしかめ、かすかに体を揺らしている。

弁護人『フラッシュバックを起こし、怒りの爆発に転じた?』

証人『はい、何もない所からPTSD,怒りを作るというより、怒り恨みずっと被告人は持っていて、その調整、被告人の場合、悪かったと』

弁護人『通常、怒りを制御できてた。しかし、シャワー浴びていた時、いつもと違うこと起きたと』

証人『PTSD=暴力を振るうという訳ではない。その他の要因によっても、変わる』

証人『フラッシュバック起きたことと、乖離あること、全くの別物です』

弁護人『被告人、家族にまで危害咥加えている事、怒りの爆発の激越としている。もう少し解りやすく説明を』

証人『ここ、小畠さんにきいて』

弁護人『もう一点、35Pの、真ん中辺当たり、PTSDの随伴症状とすることが可能である、としている』

証人『犯行そのもの、齎したショックも大きく影響している。しかし、PTSD症状からも関与受けている』

弁護人『犯行そのものの影響、という記載ないが・・・』

裁判長『いや、35Pの真ん中にある』

弁護人『撤回する。35P,36P(2)、発達上の何らかの不均衡、偏り、という記載ある。(1)の主文、発達上の偏り示唆されるが、発達障害は示唆はないと』

証人『はい、ある条件満たさないと、障害にならない。しかし、いくつかの部分で、障害の要素らしきもの見られた』


続いて、痩せた眼鏡をかけた中年男性の弁護人が、証人尋問に立つ。


<弁護人の、小西証人への証人尋問>

弁護人『乖離状態、判断、制御に影響与える?』

証人『あの、乖離状態は、ふつうは与えない。乖離というの、外からは見守れず、内から変えて守るとされている。その意味で、間違った判断、見かけほど(聞き取れず)』

弁護人『現実感覚のなさ、行動に影響は』

証人『例えば、震災時、足に痛み感じていたら逃げられない。だから締め出す。乖離、正常から重篤まで、一連につながった、人がもともと持っている機構であると』

弁護人『重度なら、限定責任能力、責任無能力』

証人『現実認知力に障害出た場合。それ、個々の事例で変わってくる』


<オカノ裁判官の小西証人への証人尋問>

裁判官『30P見てください。性的意味合い、認識してから』

証人『被害者に近寄らないようにしていて、勉強にも影響出たと思う。確度低いけど、こう考えたと。十分恐怖あり、そういう症状、いくつか出たと。しかし、これは詳しく調べておらず、これは、今の症状と比して、確度低いです』

裁判官『心的障害の被害受けた後に、興味変わったのではなく、大人になってから格ゲーしかやらなくなったと』

証人『ロールプレイングとアクションの違い、まとまったことできない可能性がある』

裁判官『18Pの所、現在症のB基準。フラッシュバックとある』

証人『本人否定したが、フラッシュバックそのもののこと、私の目の前で起こっています』

裁判官『今もあったら、当時もあったと推測せず、質問に該当するか見た』

証人『はい』

裁判官『32P、本件、トラウマ体験に含まれるとしていると』

証人『性被害体験が?』

裁判官『あ、本件というの、性被害体験のこと?』

証人『はい、書き間違い』

裁判官『32P9行目、鑑定結果、普段と比較すると、より重い結果になっている可能性ある、とある』

証人『トラウマ体験、詳しく話すこと、一時的に悪化させる。被害についてCAPS前に詳細に語ってもらい、具合悪くなっている事あるかもしれない』

裁判官『PTSDで、程度異なってくると?』

証人『事前に自由に話してもらっているし、一切にPTSDになったと考えられぬ』

証人『定義からPTSDと判断できれば、ここでテストする必要ない』

裁判官『トラウマ関連症状、屑籠診断とは違う?』

証人『PTSD,不安障害に位置付けられている。不安、鬱起きてくることもある。親からの繰り返しの性的虐待、うまく取れないこと、子供のケースについての診断基準で十分でない、という指摘、PTSDについてされている』

小西証人は、診断基準などについて説明した

裁判官『あえて、デスマス、検討する必要ない』

証人『この件、繰り返し虐待ある。しかし、家族は、安定した関係作っていた。PTSDと考えた方が、症状うまく説明できる』

裁判官『以上』


<裁判長の小西証人への証人尋問>

裁判長『今回の鑑定でお願いしたもの、検察が、反社会性人格障害と主張していること、知っている?』

証人『書いてあったかも』

裁判長『PTSD以外の精神障害、診断していない。反社会性人格障害、否定されている』

証人『そうです』

裁判長『爆発性、怒りの抑制困難、被告人の発達上の偏りによる、とある。これと同じか』

小西証人は、答える。

裁判長『小野医師、制御能力超えてしまったというの正しいと言っているが』

証人『超えるという言葉、イメージしているの、何か超えさせるということ。その点について、どうかなと』

裁判長『小畠先生と小野医師、鑑定した中で、爆発性、面にあると指摘している。それは、小畠、小野鑑定で、前提に?』

証人『生きづらい子、という表現あり、脆弱性指摘している。しかし、障害というのはないと』

裁判長『怒りの制御困難性、経験している?』

証人『小畠鑑定?』

裁判長『前提としてないように思える』

弁護人『小畠鑑定の23~24Pにかけ、書いている』

証人『そうですね、ただ、現状のことで答えている。本人に何らかのコミュニケーション、感情の問題、あることを感じていると思う。しかし、ここにないことについて、私は何も言えない』

小西証人は、席の方に戻る。弁護人と裁判長、小畠証人に再び質問を行うことがある。小畠証人、再入廷する。


<裁判長の、小畠証人への証人尋問>

裁判長『反社会性人格障害について、検察官主張しているが』

証人『特定のパーソナリティ障害、反社会性人格障害を含め、該当しません』

裁判長『爆発性、怒り制御困難とある。認識能力、特段障害ないと。認識能力、制御能力の関係では』

証人『検討能力、責任能力に関するもので、影響はない』


<弁護人の小西証人への証人尋問>

弁護人『限定責任能力と言えるほど影響しているか、という意味の質問ではなかった。解っているか』

証人『はい』

弁護人『やっていいか否か判断し、それに従って行動する能力、弱める方に働かない?』

証人『すごく怒りっぽい人、すぐ手が出てしまう人、性格強める要因あるかもしれないが、行動、制御できないというように考えない』

弁護人『いえ、PTSDとして、怒りの制御能力悪かったことについて』

証人『全く無関係ではない。しかし、責任能力には・・・』

裁判長『ありがとうございました』

他に質問はなかった。証人二人は、退廷する。


6月3日付、6月11日付の請求証拠について、整理を行う。132,137は同意。あとは留保。

4月2日付、弁護人は、情状鑑定を請求する。いずれも、検察官は同意する。

他にも、他の証拠について、同意、不同意、撤回、と意見を述べられる。

被告人は、証人尋問中には、かなり具合悪そうなことが多く、きつく目を閉じ、顔をしかめ、口を結んで体を揺らしていることが多い。証人が退廷し、少し落ち着いた感じである。

次回は、遺族の証人尋問と、被告人質問を行う。被告人質問が先行し、その後、遺族二人への証人尋問を行う。計3時間行うとのこと。被告人質問は、弁護人は15~30分。検察官は10分程度。証人尋問、検察官は45分と30分。弁護人は基本的には反対尋問は行わないと。

9月18日13時30分に、期日を指定する。

弁論、双方ともに行うこととなる。弁護人は1時間30分。検察官は1時間。10月15日13時30分から16時。

裁判長『解った?』

被告人は、うなづく。

裁判長『次回、出頭命じる』

被告人『はい』

また少し弁護人らと話し合い、16時28分に終わる。17時まで予定されていた。

裁判長ら、期日を確認し、被告人はうなづく。

被告人は、うつむいて、退廷した。

遺族らは閉廷後、笑いながら、何か話をしていた。凄惨な性被害によるPTSDが、そこまでおかしかったのだろうか。


閉廷後、弁護人は、マスコミを裁判所近くの植え込みに誘導する。そこで、質問に答えている。ビデオカメラの撮影がなされている。弁護人は、何か書面を読み上げている。そして、以下のように質疑応答に答えていた。

弁護人「性被害体験のフラッシュバック」

弁護人「犯行時、乖離状態にあった」

弁護人「怒りの爆発、乖離の要因として、PTSDがあったとしている」

と、鑑定内容を説明していた。鑑定書をオープンにしていいか最後に裁判長に質問していたが、このためだったらしい。

弁護人「PTSDにり患しており、それ、犯行の前提。しかし、責任能力で分かれている」

弁護人「遺族側に、解体費用など600万円を支払っている。慰謝料として受け取れないと言われた」

遺族は、慰謝料でもないのに、どのような理由で大金を支払わせられると思っているのだろうか。

記者「鑑定結果、有利か」

弁護人「PTSD,二回にわたって認定されている。検察官は反社会性人格障害と主張したが、明確に鑑定により否定された」

検察官は、被告人が武器を集めていた、性犯罪被害を恨んでいたことをもって、反社会性人格障害と主張したのであった。しかし、検察官の主張では、性犯罪被害者は誰でも反社会性人格障害となってしまうのではないか。

弁護人「検察官より死刑求刑されており、二人の命、奪われている。重大だが、生きて一生償わせるよう力を注ぐ」

記者「前回の精神鑑定から、PTSDの犯行への影響、関与弱まったように思える」

中年男性の弁護人「フラッシュバック、性被害への怒り、犯行原因となっている。フラッシュバックと強い感情、犯意に影響している。明確に、情状酌量の余地、ありうると書いている。PTSDと事件の関係、強く明らかにしている。前の鑑定より、後退したと思っていない。外傷体験、より明確に特定し、PTSD明確になっている。より補強しているのではと思う」

中年男性の弁護人「(医師二人は)酌量するか否か、司法の判断という意味で、二人の医師は酌量ありうると書いている」

老弁護人「(パーソナリティ障害について)違うと言われている(手を振って述べる)」

弁護人「なぜ時間をおいて、こんな残虐な行為を行えたか疑問。反社会性人格障害なくなったというの、満ランだ(笑)」

弁護人「複雑性PTSDに類するものの言い方をしている」

この後も、質疑応答は実施されていた。

私は、後の公判は傍聴できなかったので、この日が被告人を法廷で見た最後になった。有期懲役になってほしいと思っていたが、判決は双方の控訴棄却、つまり無期懲役であった。

Aによる残虐な性犯罪を考慮すれば、A殺害は、殺人罪の最も軽い部類に位置付けられるべきものであったと思う。また、両親殺傷も、性犯罪被害が原因となっていることを考慮すれば、通り魔などの殺人とは到底同等に見ることはできない。

なお、被害者遺族は、被告人の親にも賠償を求め、被告人の家族も殺してやりたい、などと言っていたようである。しかし、伊藤嘉信が事件を起こさなければ、彼らは本来、謝罪し、莫大な賠償を払わねばならなかった人間である。

控訴審判決にも全く納得は行かなかったが、被告人は、上告を取り下げ、無期懲役が確定してしまった。

伊藤嘉信の生涯は、理不尽に傷つけられ通しだった。それに反撃を試みたところ、絶対悪として処断され、終生刑務所で過ごすこととなった。彼の人生は、一体何だったのか。

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