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茅ヶ崎ノコギリ殺人事件公判傍聴記・2022年3月16日(被告人・M・Y)

2022年3月16日
東京高裁第11刑事部
622号法廷
事件番号・令和3年(う)第1762号
罪名・殺人
被告人・M・Y
裁判長・三浦透
右陪席裁判官・佐々木直人
左陪席裁判官・小泉満里子
書記官・阿部敏彦

13時45分に、入廷が許される。傍聴人は15人ほど来ていた。開廷中、徐々に傍聴人が増え、結局は満席となった。
書記官は、真面目そうな、柔らかい髪をした中年男性。
眼鏡をかけた高校生、茶髪の中年女性、白髪交じりの眼鏡をかけたがっしりした体格の中年男性が、書記官の許可を得て、着席不許可となっていた席に座っていた。被告人の家族だろうか。
検察官は、眼鏡をかけた短髪を七三分けにした、役人風の中年男性。
弁護人は、やや茶髪がかった長髪の、小柄な中年女性。座ってIPADを見ている。
被告人であるM・Yが、入廷する。しかし、一審とはその風貌は大きく変わっていた。よたよたした足取りは相変わらずだが、伸び放題だった白髪は、後ろでまとめられている。全体的に、一審と比較して小ざっぱりした身なりだった。刑務官はついていたが、通常通り、二人だけである。被告人を誘導し、被告席に座らせる。服装は、黒と灰色の中間の服と、同色の長ズボン。赤いサンダルに、灰色の靴下である。銀縁眼鏡をかけており、白いマスク。額にしわが寄っている、年齢よりやや老けて見える、小柄な老女である。被告席には、膝の間で手を組んで、座っている。
裁判長は、髪を七三分けにした中年男性。佐々木裁判官は、髪を七三分けにした痩せた中年男性。小泉裁判官は、丸顔のショートカットの中年女性である。
M・Y被告の控訴審初公判は、14時に開廷した。

裁判長『正面に座って』
被告人は、強く足踏みをし、証言台の椅子に座る。これからまた、一審のような足踏みが続くのか・・・と身構えたが、そんなことはなかった。
裁判長『名は』
被告人『M・Y』
一審と違い、はっきりした声だった。
裁判長『生年月日は』
被告人『昭和20年2月28日』
裁判長『本籍は』
被告人『茅ヶ崎市、菱沼、(略)ですね』
(略)
裁判長『住所は』
被告人『今、拘置所に入ってますね』
裁判長『拘置所は別に』
被告人『(略)』
裁判長『仕事は』
被告人『ないです』
裁判長『ないですね、それでは、殺人被告事件の控訴審を始めます。控訴趣意書のとおり』
弁護人『はい』
裁判長『検察官は』
検察官『弁護人の主張には理由なく、控訴棄却されるべき』
裁判長『書証二通と、被告人質問を請求』
検察官『書証二通同意。被告人質問は、原判決後の事情のみ、しかるべく』
裁判長『書証二通は』
弁護人『令和3年12月28日付の聴取書。私が被告人の話を伺って書いた。被告人と11月8日、26日、12月1日まで、三回にわたり話を伺った内容を書いた。控訴した理由として、うまく説明できないけれども、懲役8年は間違っている。解りませんでした。頭の中でわけわからなくなって、自分で自分の机叩いていた。計画的に主人を殺した。悪かったと思う。どうしたらいいのかわからなかった。財産主人の所に行かないようにと思っていない。適当に答えた。11月8日ですね。自分が何か叩くのは解る。やっていけないのは解っているけれども、何もわからず叩いてしまう。11月26日、今思ってみると、計画的に殺すべきじゃなく反省している。自分の事せめてばかり。12月1日、お墓参りをしたい。何も言わなかったの、あの人の優しさだったのかもしれない。どうして殺しちゃったのか解らない。自分の判断でしょといわれても、どうしてこうなったか解らない。3月1日、話伺った。以前作ってもらった聴取書、改めて読んでもらったけど、主人に食事作ってあげればよかったと思っている。食事作れないの仕方がないと思うが、カット野菜で作ってあげればいい。殺さなきゃよかったとだいぶ前から思っている。今は完全に思っています。物事、よく覚えていない。適当なこと言った。こんなこと言わなきゃよかった。布団奇麗にしてあげればいい。殺さなきゃよかった。自分悪かった。面倒見てあげればよかったと後悔している。解らないので、自分や机叩く。今も叩いてしまう。横浜の裁判官にも、話しもう一度聞いてほしい』
裁判長『続いて、被告人質問です。控訴審なので、原判決後の情状に限り。書証二通で、言いたかったこと出ている。短く答えるように』
被告人は、頷く。そして、被告人質問が始まる。一審に比して、はっきりとした、解りやすい声で答えていたが、少しぼんやりした印象のやり取りが続いた。

<弁護人の被告人質問>
弁護人『三つ尋ねます。一つは、どうして控訴したのか。もう一つ、捜査や裁判でどうしてほしかったか。最期に、今言いたいこと、考えてること。控訴理由は』
被告人は、弁護人の方に、よくわからないと言いたげに頭を寄せた。
弁護人『控訴理由は?』
被告人『理由?一回目の時、叩いちゃったとき?』
弁護人『じゃなくて、今回、控訴した理由』
被告人『したかったから』
弁護人『うん、さっき下で伺った話では、一審の裁判で、解らなかった』
被告人『そうですね、はい』
弁護人『もう一回聞いてほしい』
被告人『はい、はい』
弁護人『横浜の裁判では、バタバタしている』
被告人『はい』
弁護人『もし、もう一回聞いてもらえるなら、ちゃんと落ち着いて話しできますか』
被告人『聞けます』
弁護人『聞ける。そして、落ち着いて話せる』
被告人『はい』
弁護人『バタバタしない』
被告人『はい』
弁護人『落ち着いてる。次に、どうすれば良かったとか』
被告人『もう一度お願いします』
弁護人『頭にすっと入ってこないと。どうすれば落ち着いて話せた?』
被告人『ちょっと、ちょっと、意味が解らないですけど、訳していただけますか』
弁護人『横浜では、すぐ退廷させられ、今は落ち着いている』
被告人『ええ』
弁護人『どうすれば良かった?』
被告人『弁護士さんと話したからだと思います』
弁護人『コミュニケーション足りない』
被告人『うーん、今日話して頂いたから』
弁護人『うん、私とは何度も逢って話しをしているから、安心して話せる』
被告人『はい』
弁護人『調書、違っているのに、直さなかったなとかありますか?言いたいけど言えなかったなとか』
被告人『うーん、この前も話したけど、良い人だったなと思う』
弁護人『Aさんの事』
被告人『うん、だから、反省してる。今、うーん、とても後悔してる、うん』
弁護人『一審の時、Aを殺した、バンザイ、とノートに書いた』
被告人『うん』
弁護人『今思うと、考えてない?』
被告人『その時はそう思ったけど、今は時間がたってるでしょ、1年近く。やっぱり、ほんとに、人の命はね、大切にしなくちゃいけないなと』
弁護人『髪、髭伸び放題で、臭い状態でいた。そういう方と暮らすのは大変では?』
被告人『面倒見てあげればよかったと思う』
弁護人『もっと面倒見てあげればよかったと』
被告人『食事も兼ねてね、全部、食事がちょっとね、ちゃんとやってあげればよかったなと思う』
弁護人『時間戻せれば、とあなた下で言っている』
被告人『うーん』
弁護人『そうなったらどうする?』
被告人『もうちょっと料理してあげればよかったね。頻繁に、量が少なかったんじゃないかと思う』
弁護人『そうしてあげたら、何変わる?』
被告人『元気になってると思います』
弁護人『Aさんが、事件時、証拠に出てきてるノートに、こう、えーと、「今日Aが死ぬ。次Bを殺す。そして、私が死ぬ。だけど、私に腕の力がないから、どうすればいいか考える」と』
被告人『そうですね、ノートに書いた』
弁護人『うん、今はどうですか』
被告人『今は全然思ってません。後悔だけで』
弁護人『横浜で、墓参りしたいと』
被告人『今も同じです』

弁護人の被告人質問は終わる。検察官、裁判官の被告人質問はなく、これで結審となる。被告人質問は、要旨として記録されることとなる。
4月20日15時、判決となる。
被告人『4月30日?』
裁判長『4月20日!』
被告人『8月20日?』
裁判長『4月です』
被告人『9月?』
裁判長『4月20日、水曜日、午後三時、同じ法廷で言い渡します。終わります』
14時20分に、閉廷となった。
閉廷後、被告人は弁護士と話をしている。判決期日を聞いているようだった。弁護人は、子供をあやすような声だった。その後、被告人は家族の方に行こうとして、刑務官に止められる。よたよたとした足取りで、被告用出入り口へと消えていく。
弁護人と被告人の家族は、何か話し合っていた。

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