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真面目感想・番外編「雪山の何が良くなかったのか?」

最近「真面目に書いてみた」シリーズすら書いていないにも関わらず、番外編第2弾です。本感想は自戒を込めて書きつつ、自分は棚上げしています。対したことは書いていませんが、アーカイブ的な意味合いで書き残します。

本件は、2021年8月半ばに行われたカスタムプロジェクトリモート公演Case1、「雪の密室殺人事件-君はリモート探偵だ!-」に関する内容です。

本内容はネタバレ解禁という前提で、ネタバレをふんだんに含んでいます。ネタバレが解禁されたということは再演がない体です。ただしミステリーとされている部分は伏せておきます。
この公演に参加していない方は、ご理解いただきたい点があるため読み飛ばしはせず、必ず上から読むことを強く推奨しています。長いなと思ったら、太文字部分だけ読んでください。また、参加済みの方は「言いたいこと」から見ていただくとスムーズです。

概要

吹雪により閉じ込められた山荘。置かれた脅迫状。やがて起こる殺人事件。あなたの選択により、物語が分岐します。そう、今回も謎を解くのはあなたです。(公式HP引用)

”(株)こしあんさんぶる”の社員たちは、社員研修で社長の所有する山荘にやってきた。しかし玄関には「こしあんさんぶるの社員は一人残らず殺す。吹雪の女王より」と書かれた脅迫状が挟んであった。不穏な空気を感じ、下山しようとするが、吹雪が強くなり下山が難しくなった。
やむを得ず、吹雪がやむまで、と山荘に宿泊するメンバー。しかし一向に天気は回復せず、メンバーは持参した食糧で飢えをしのいでいた。山荘に常備してあった食料は、何者かの罠の可能性があるので、手を付ける勇気はなかった。
そして閉じこめられて2日が経過した。いよいよ持参した食糧も残り少なくなってきたところで、事件が起きる。経理部の「小林」が、首を絞められて殺害された。しかも死体があった部屋は、ドアも窓も鍵がかかっていた。犯人はどうやって部屋から出たのだろうか?疑心暗鬼になる社員たち。そんな折、総務部の「まーちゃん」が今話題の「オンライン探偵」について思い出した。
「現場にいなくとも、Zoomを利用して、見事な推理を発揮し事件を解決する」それが令和の安楽椅子探偵と呼ばれるオンライン探偵であった。オンライン探偵は大人数で、皆の多数決で推理の方向を決めるという斬新な捜査方法で有名だった。そして物語は、このオンライン探偵(つまりこれを読んでいるあなたの事です)に、まーちゃんから捜査の依頼が来たところから始まります。(事前配布資料引用)

本企画の大まかな流れは3パートです。まずは「まーちゃん」からの実況を含む事件パート、参加者はZoom画面から多人数参加します。物語のスタート地点は舞台の開演と状況が異なるため、Zoomにアクセスした段階の案内人「探 偵王(タン テイオウ)」という人物の喋りからなのか、山荘と通信がつながったタイミングかなのかは不明です。
参加者は、「まーちゃん(もとい、本人は探偵たちに「実況者」と名乗る)」から「小林」殺害の犯人を特定する”捜査”の依頼を受けてZoomに参加している、オンライン探偵という設定です。既に事件は起きており、その殺害現場が密室であった状況も事前資料である程度知らされています。「まーちゃん」との通信で現在の山荘の様子が伝えられ、状況に応じてZoomのアンケート機能を用いた分岐を挟みつつ話は進み、なんやかんやあってもう1人殺害されてしまいます。この直後、この連続殺人事件の謎を解きます。推理パートでは各参加者がZoomのアンケート5問程度に答えて推理結果を報告しますが、アンケート結果はこの後の解決パートに影響しません。解決パートで全て暴かれて大団円、アンケート結果(正答率)の確認と事件の解説を挟んで終わりです。

この劇団の前提

カスタムプロジェクトは年1回、観客が推理をするミステリー舞台を上演していました。これまでに6公演行っています。なお、私は6公演全部観に行っている人間です。この劇団を語る上で外せないのが”得意ジャンル”と、”煽り解説”でしょう。
この”得意ジャンル”というのが演劇では骨が折れる表現なので、上手く上演している本劇団は、ミステリー好きの間で評価が高くなっています。

一方の”煽り解説”についてですが、観客の苛立ちを買ったところを間々見たことあるものの、本人たちはその事実に気付いていないと思っています。この煽り解説で話される内容はおよそ、物語の提示範囲の情報ではなく逮捕状やパンフレットの表記というメタ解き?的な部分/劇中の演出で観客にとって知識問題に相当する部分です。ちなみにこれらは、ダイレクトにトリックや犯人特定に必要な情報ではありません、オマケ…として作られているという認識です。私個人としては、作ったところの細かい部分まで話したい気持ちも分かりますし、舞台として劇場全体の盛り上がりを作るのにこの手法を使っているという考えで、笑って流してきました。

小池の参加スタンス

上記までに太文字で示したとおり、雪の山荘で起きた「小林」の殺人事件を解決するためZoomへアクセスした、オンライン探偵です。舞台であれば、座席に座ることで観客となり、目の前にある舞台を観察して謎を解くわけですから、そのお話の登場人物にはなり得ず、設定もなければ参加スタンスみたいなものは存在しません(観客個人の心情としては存在するかもしれませんが)。今回のリモート演劇では、アクセス時点で参加者側に劇団から渡された”オンライン探偵”という役割があります。オンライン探偵の業務範囲や権限は劇団から示されていませんが、この「オンライン探偵」という役割名であれば、依頼人から提示された謎を解くのが仕事でしょう。

画面の向こうで起きたこと

ここでは端的に、画面の向こうで起きたことを示していきます。表現に若干のバイアスがある/覚えておらず抜かしているシーンがある、かもしれません。ご容赦ください。

<表の見方>
オレンジ枠は事件解決に関係ないシーン、特に色付き枠はパワハラや暴力を含むシーンです。一方で、青枠は事件を解くのに関係のある情報が出てくるシーンです。
【分岐】はオンライン探偵がアンケートに回答することで分岐したシーン、直下の太文字が8月14日12時回の選択結果です。
★・◆・◇・☆の各記号は直後に補足します。

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アンケートに関する補足:回答受付時間は1分未満です。
補足★:探偵ならば正しい選択ができるはず、という煽りあり。「誰も毒見をしない」という選択肢なし。
補足◆:「現段階では分からない」という選択肢なし。3択めは正確に書くと「男性女性どちらでもない」。
補足☆:メタ発言的に、実況者から「答えられなければゲームオーバーです」と言われている。「拷問をしない」という選択肢なし。この段階では現場検証もできておらず犯人の特定要素が揃っているか不明。
補足◇:「犯人ではない方に行かないと捜査活動が続けられなくなる可能性がある」と強く言われている。

言いたいこと

良かったところ>>
・物語の舞台を歩き回ってくれる人と簡易ながらもコミュニケーションを取って物語を進められること
・リアルタイム進行のため懸念されうる、“カメラ酔い”が発生しないこと
・トリック、犯人導線だけを見れば上手く全体を演出していること

物申したいところ>>
相当量はあるのですが、ここは2点に絞ります。
1:拷問シーンによる不快
2:
舞台との差の無理解

1:拷問シーンによる不快

ネタバレ解禁直後にTwitterで言及のあった「拷問シーン」の問題です。#カスタムミステリのタグを追っていただくといくつかコメントが出てきます。ちなみに私自身は、拷問シーンよりも前に出てくる「毒見シーン」も拷問シーンと全く同じ理由で問題視していました。
ここでももう少し詳しく、各シーンで何があったのか書いておきます。

毒見シーン:食料の毒見を女性社員のWさんか、その社員の上役にあたるKさんのどっちがすべきか、探偵の判断に任される。アンケート中はWさんを強く責めて「業務命令だ、お前がやれ」というKさんと、その言葉に怯えながらも反論しているWさんが映し出されている。Wさん or Kさんしか選択肢がない。

拷問シーン:現場に勝手に入った社員のUさんに対し、社長のPさんがテント固定用の釘をカナヅチを用いて打ち付け、犯人であることを吐かせようとする。その後、「この拷問を止めたければ犯人をいえ、然もなくば拷問を続ける」と探偵達を脅す。ここまでの流れから探偵は犯人の指摘が困難であり、尚且つ、犯人を間違えるとゲームオーバーであると強く言われており、“拷問を黙認する”という選択肢を選ばざるを得ない。その結果、別途疑いのかかったYさんの足に釘が打たれる。

何が問題だったのか、書き出してみます。

①参加者のマインドとのギャップ
単に拷問シーンを見せられるのが表現的に苦痛という話もありますが、個人的には拷問シーンの描写そのものが問題なのではなく、参加者が作品から与えられたスタンスに対して作っている”マインド”に寄り添ってないことが、大きな問題という考えです。
上の表にも書きましたが、拷問シーンは何ら事件解決に必要な情報がありません。解決編を聞いて”必要な情報がなかったなぁ”、ではなく、明確に”必要な情報が出て来ない”と感じざるを得ないシーンでした。となれば、拷問を見ているこちらからすると、何を見せられているのか?という状況です。加えて、参加者のスタンスは「小林」の殺人事件を解決するためにいる、オンライン探偵です。百歩譲って思い描く探偵像からすれば、山荘にいる人たちを救うことも仕事の内かもしれません。ですが、事件解決の要素も救う要素もないアンケートを強要されて、気持ちいいでしょうか?
ふと、この話を考えながら思い浮かべたのは「けたくまデスゲーム」でした。めちゃくちゃ面白かったのにレビュー書いてません。本作では視聴者がデスゲームを見ているだけでなく、デスゲーム参加者を死に追いやる方法を多数決によって持ち得ていました。不可解な現象に襲われて死ぬシーンがはっきり描写されており、今議論している拷問シーンよりも残酷ではありましたが、視聴者はそもそもデスゲーム参加者を生かすことも殺すこともできると理解しているので不快には感じません(自分の希望した選択肢にならなかった場合の不快感は別議論なので除外して考えてください)。

②選択前の探偵に対する煽り
毒見シーンでも拷問シーンでも、画面越しに登場人物から「探偵なら〜」といった煽りをされます。参加型イベントで参加者を煽るという行為は確かにないわけではありませんが、不快による救済処置(例えば選択肢に「選ばない」とか、正しい選択をするに必要なヒントがある)が必ずあるもので、今回の場合は救済措置もなく、なんならこの煽りの時点から「責任はお前らにある」という意思が見え隠れする言い方をしていました。①のようにマインドのギャップがあるにも関わらず、それでもなおマインドに働きかける言い方で選択の強要が発生しているのです。
繰り返しになりますが、この毒見シーン及び拷問シーンにおいて、提示された選択肢のどちらが適切かを判断する要素はありません。少なくとも気が付きませんでしたし、解説でも語られていませんから、ないのでしょう。急に判断を任されています。探偵であるかどうかは完全に関係のない範囲で、責任を押し付けられている感覚です。

③選択結果の探偵に対する罵り
わざわざ、選択前の煽りと分けました。直前に書いた通り分かってはいたのですが、結果に対する責任を登場人物に責められます。選ばなかった選択によっては責められませんと言われようとも、部外者にとってよく分からない選択を迫られた結果で責められるのは、気持ちいいものではありません。
当然、選択をしなくてもアンケートは時間切れで閉じますから、成立はします。ですが、オンライン探偵は多数決で意思決定するため、各個人が「選択しなかったから、私はこの結果に無関係」とはなりにくい構造です。

◎認識していること
ここまでにとやかく申し上げてますが、2つ認識していることがあります。
1つ目。参加者全員が上記にあげた探偵としてのマインドを持っているとは考えていません。マインド云々ではなく、選択によって物語が変わることを純粋に楽しんでいる方もいると思います。ただ感想に「不快だった」という指摘が複数個上がるほど問題のあるシーンだったことは間違いないはずです。
2つ目。本作の犯人は、社内で行われる多数決によって不幸を被り、殺人を犯したことが明らかになっています。ゆえ、オンライン探偵が作中に行う多数決的な意思決定により不幸を被る人間がいることは、作品の伝えたかったことに一つ…と、一応、認識しています。とはいえ、作品の伝えたかったことを無視したいくらい、表現方法に問題があります。

2:舞台との差の無理解

別にTwitter上に指摘があったものではなく、私個人としてわざわざ書くに値する話題だと思って、取り上げました。
かなりふわっとした言い方をしていますが、ちょっと長い言い方をすると「舞台で空間と空気を共有しているのと、画面越しに役者との断絶があって画面越しでやり取りするのでは、観客の見え方が変わることが考慮されていない」という話です。ポイントとしてはいくつかあるように思いました。その中でも本作で特に気になったのは、2つ。1つ目は、リモートでは画角内に集中することになるため、演技の荒さが舞台よりも目立って見える話です。2つ目は、“煽り解説”の空気を現場と参加者側で共有できていないため、本劇団の公演史上最もイラっとしたという話です。ここでは本作固有の問題、後者の話を。

メタ部分を物語世界に持ち込んでいることことは、本劇団においては恒例行事ですし、今回も直接推理導線に関与しないのでここでは言及しません。ですが、毎公演(いいや、一作目はなかったと思う)やっている煽り解説は、舞台が終わった熱気にプラスして真相解明されていくことで起きる観客席の昂りで温められた場だから成立するものです。画面越しでは、舞台の観客席に存在する“観客同士の共鳴”も舞台上の役者との“共感”も非常に作りにくく、観客にとってはただ一方的に、事件とは直接関係のない作り込みの自慢をされている感覚です。客観的なイメージ、温まりきっていない舞台で滑るネタをやっている状況に近いものを感じました。私の参加回ではチャットに「正直イラっとした」に類するコメントがいくつかありましたが、劇団さんはどう受け止めたんでしょう。
ここ最近でいくつかのオンライン公演を拝見して、同じ現象は間々見てきました。とある作品では冒頭に特定の登場人物によるギャグがしばらく続くのですが、対して面白くもなく、しかししてその「面白くない」という空気感も観客は役者に伝えることはできず、その作品の感想で「XXXのところは何見せられているんだ?と思った」という感想が散見されました。その作品を体験して、“空気感”が共有できないことによって、良い意味で演者の焦りや不安を観客に伝えないで良い/観客の目を忘れられる、悪い意味で観客の空気感を得て演技を変えることができない…というのを実感しました。特にインタラクティブ要素を出している作品だと、観客の空気で演技内容は同じでも演技プランは変えたりできるので観客の心が作品から離れ始めても掴み直せる可能性はあるのですが…一切、観客側が分からないと演者側が変われないまま乖離していくばかり…に…。

まとめ

何度も重ねて書いてしまいますが、本公演が楽しかったという方々もいます。ただ、上記の2点においては作品の良し悪しではなく、観客がいて成立している演劇という表現方法において好ましくない“観客を不快にしている”ポイントだと考えて書きました。
なお、本作品はアンケートをとっていません。作品が終わった直後、チャット欄へ記入してください&枠的には5分以内というタイプのもので、長文の指摘に耐えうるものではありませんでした。ゆえにネタバレ解禁後にTwitterで参加者から「拷問シーン」の指摘があった訳ですが、現在本劇団のTwitterアカウントでは「拷問シーン」に問題意識を持っていない状態です(弁解?している状況。多分、オンライン探偵等の投票放棄が拷問回避の条件だったのでしょうが、何人かの仕込みがチャット側にいるの透けてましたし、参加者全員の意思疎通が図り難い仕組みなので、極端に難易度の高い条件では…)。
うーん、キャストが9名で、制作チーム入れて9名以上で作られた作品、10名以上の目があっても「拷問シーン」の問題点に気が付かなかったというのは、劇団全体として観客への意識が欠けているのでは…。

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