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柄谷行人の交換様式Dとコモンの概念

柄谷行人の交換様式Dは交換様式Aの高次元の回復である。
効果様式Aは互酬制であり、互酬とは贈与とお返しの関係性で成り立っている共同体のことである。現代からするとそれは家族間や近しい親族、友人関係のなかで成り立っている。

交換様式Aは共同体間の争いにより、交換様式Bの支配が強くなる。
交換様式Bは服従と保護の形式であり、これはロバートノージックのいう保護協会の意味合いが最も近い。
トマスホッブズの想定する「万人の万人による闘争」状態にある自然状態はまず最初に争いがありきであり、生活弱者や女性、子供などは保護を必要とする。柄谷行人の『帝国の構造』ではこれを帝国主義にあてはめる。帝国は効果様式Cを導入し、ネーション=ステートの確立、資本をどう形成するかという段階にあるが、帝国主義の国は支配によって成り立っている。そしてそれは支配だけでなく、帝国の王たるものが従うものを保護するという服従関係で成り立っているものである。

資本=ネーション=ステートが完成することでそれ以上の発展はない。
ある意味これがフランシス・フクヤマがベルリンの壁崩壊後に述べたように「歴史の終わり」であり、我々はこれ以降、この三位一体から抜け出せることはないだろう。
資本=ネーション=ステートは資本主義ではあるが、資本の力が強すぎればそれはテクノロジーの発展を伴う現代の格差社会に見られるように資本主義が資本主義たる力を発揮する。一方、ネーションは民族や国民という意味であるが、今度はステートの力が強くなることで国家が民に対して再分配機能を十全に発揮する福祉国家のような体制が強くなり、国民側からすると全体主義の傾向が強くなったかのように感じる。

ヘーゲルもマルクスも資本=ネーション=ステートの三位一体を歴史の終焉であると述べた。
斎藤幸平の『人新世の資本論』ではマルクスの再解釈を試みている。
19世紀の経済学者であり哲学者でもあるカール・マルクスは友人エンゲルスとともに30歳になる前に産業革命により大規模工場にて強制労働させられ資本家による搾取される労働者を見て、ブルジョアとプロレタリアートの関係を革命により転倒させる『共産主義宣言』を発表した。その後いくつかの批判書、経済書を発表したが、自身の経済体系を確立させるために描き始めたのは晩年になってからの『資本論』であった。周知のとおり『資本論』は未完成の書物でありマルクス自身は一巻しか執筆していない。
その後はマルクスの研究ノートから『資本論』にあたる部分を友人エンゲルスが編纂して発刊にこぎつけている。マルクスには『資本論』のための研究メモが膨大に残っており、いまその再解釈がなされている。その一部分から斎藤幸平はマルクスの「コモン」という概念を持ち出し、共同体の新たなカタチを再定義しようと試みているようにみえる。それは柄谷行人の交換様式Dと同じようものにみえる。

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