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濱口竜介『ドライブ・マイ・カー』
#映画感想文
登場人物:
家福、音、みさき、韓国人(以下K)、高槻、韓国手話、女性俳優、その他
各構成
音が死ぬまで
家福、音のセックスシーン
家福は音の語りを聞いている
夢見つつの中、物語は語られる
音の夢と物語
物語は車の中で再生産される、家福の口から音の中に再び戻っていくのだ。物語は反芻され、音から新しいかたちとして発せられる。
家福の演劇、音が控室に訪れ、高槻を紹介する。音と高槻の親しいシーンが描かれる。家福にある懸念が浮かび上がる。
音から『ワーニャ伯父さん』のカセットテープを渡される。家福は車を走らせながら音の声を聞いている。
音の不倫シーン
成田空港からイギリスへの飛行機が中止になる。家福は一度家に戻ろうとする。玄関を開けると、音が不倫している姿が鏡で確認できた。男の顔は見えない。そのまま玄関を出て成田空港近くのホテルに泊まる。夜はホテルから音とスカイプで話す。
一週間後、家福は何事もなかったように音と会い、音も何事もなかったように家福を迎え入れる。
家福と音は娘の何周忌かに訪れ、帰りに車で娘について話し合う。音は「また子どもが欲しかったか」と聞くが、家福は「僕だけが望んでも」「君だけが選んだのではない」と答える。音は「ごめんね」。
その夜、二人は性行為をするが、一度目の性行為は家福が不倫のシーンに重ね合わせて騎乗位を行う。鏡のシーンに重ねる。音は気づく。夫は自分の不倫を知っている。
二度目の性行為、音は物語を語る。自分の後悔を。家福は音が罪悪感の語りを至福と感じながらオーガズムに達しようとしていることに気づく。家福は手を強く握り我慢するような表情を見せる。
音が告白をほのめかす
朝、家福が家を出ようとするとき、音が『ワーニャ伯父さん』のカセットテープを渡す。夜、話したいことがあるからと家福に訊く。彼女は物語を終わらせようとしている。
音の死亡
音の話を聞きたくない家福は夜中に車を走らせ、遅くに自宅に帰る。音はくも膜下出血で死亡していた。
高槻と家福
音の葬式。高槻は家福を見つめている①。音ではなく。
二年後~高槻の逮捕まで
渡利みさきの登場
家福は音の脚本『ワーニャ伯父さん』の監督兼俳優役を引き受けることになり、平和演劇祭が行われる広島市を訪れる。期間は二か月、その間のホテルは上演場所から車で一時間の旅館を用意してもらう。
渡利みさきが車を運転することになり、家福は行き帰りに『ワーニャ伯父さん』を朗読する
演劇オーディション、高槻があらわれる
高槻と女性俳優の演技シーン、高槻の狂気が垣間見え、家福がつい止める
韓国手話
高槻をワーニャ伯父さんに指名する
家福と高槻①、ホテルのバー、高槻がキレる
高槻が家福を自分のホテルのバーに誘い、二人はこれまでのいきさつを話す
高槻は音に憧れていたと言い、家福は高槻が音に恋をしていたのではないかと疑う。高槻もそれは否定しないと言う
高槻は家福に「音に愛されていて幸せだ、うらやましい」と告白する。高槻は家福を見つめている②、家福は高槻が音と不倫していたのではないかと疑っているため、その言葉を信じられない。
スマホのシャッター音が鳴り、高槻がキレる
韓国人(以下K)の家に行く、妻が韓国手話の俳優だった
韓国手話「話すことができないのが普通であり、不便かどうかを聞くことは間違っているのでは?」これが後の女性俳優とのトランスへの伏線となる
みさきと犬
広島のゴミ処理施設と高槻の進展
朝、高槻と俳優の女性が事故で遅れる
本読みがいかに重要かがわかる、高槻が謝りにくる
家福は本読みによる記憶に焦点を当てている。記憶。自身も音の語りに対して脊髄反射で返すことができるまで何度もカセットテープを聞く。身体にまで言葉を沁み込ませる。言葉そのものの力ではなく、暗記による反応を求めている
家福はみさきに広島市内を走らせてくれと頼み、「中工場」に連れてこられ、みさきの身の上話を聞く
みさき「これから広島にずっといるかはわからない」、母は山崩れで死に、みさきは生きた
外での演技指導:Kの妻と俳優の女性の演技シーン「何かが起きていた」
家福と高槻②、ホテルのバー、殺害
高槻 → 家福
①韓国手話と女性俳優がどうしてトランス状態に陥ったのか
②ワーニャ伯父さんは自分には合っていない、場違いだと感じている
④音のテキストが好きだった、音のテキストを家福が演出するのは高槻にとって魅力的であり、そこに導かれるのは必然的だった
⑥自分は狂気的なところがあると自覚している
家福 → 高槻
③テキストに戻れ、身を任せろ
⑤音のテキストをベースにするが、家福が演出するものとは全く別物だ。高槻は勘違いしているし、思い込みが激しすぎる
③まで演技の話をしていた。テキストの力と記憶、そして高槻を最初に見たとき、狂気を孕んでいてそれに魅力させられたと、家福は高槻に伝える。
しかし、突然話は変わる。高槻は一度考える素振りを見せるが、「家福さんとこんな話ができて嬉しい」と伝える。このシーンは極めて違和感が残る。なぜ突然話を変えているように見えるのか?
高槻は、音を通してその先に家福を見ているのではないか?
家福の反応は冷ややかに見える。家福は少なからず高槻に嫌悪感を覚えている。おそらくそれは自分と同族のようにも思える嫌悪感であるが、それには気づかない。家福は高槻が音と寝ていたと考えている。そして、音と不倫関係に合ったにも関わらず、高槻が家福の前に出てこれる、その高槻の思考を理解しがたいものだと感じているし、そう考えている節がある。それが高槻の「狂気」だと……
家福と高槻③、車の中、音の秘密
家福に拒絶されたように感じている高槻
写真を撮った男を殺害しにいく。実際には殺すつもりはなかったかもしれないが、後に警察が喧嘩になったと言っているように、かなり乱暴に殴ったのではないかと推測される
※警察は「顔面を殴打」と言っていた。例えば、顔面を殴打して倒れた場合、後頭部を地面にぶつけることがある。また、あのシーンでは階段を昇っていったので、殴打した勢いで階段の向こう側に落ちてしまい、頭を強く打ったのかもしれない。しかし、警察は顔面を殴打したと言っていた。
暗闇を見つめ始めるまで
高槻の逮捕
上演会場での稽古。名演技を見せる高槻だが、直後に警察が訪れ、一般人暴行の疑い、その一般人が高槻の暴行により死亡した疑いで逮捕される。
家福はKから演劇を続けるか中止するかを決めてほしいと言われる。続行は家福がワーニャ伯父さんを演じることを意味する。家福にはその意志はないし、それが何を意味するのかを考えることを恐れている。
北海道への道のり
1日中車を走らせる
家福の場合、暗闇は車の中にある。落ち着いて考えることができる場所は、車の中であり、ドライブする自分の車の中でだった。
パーキングエリア
フェリー
みさきの実家
雪景色と花
みさきの告白
家福の告白
ワーニャ伯父さん~ラスト
家福演じるワーニャ伯父さん
みさきは何を思っているのか
韓国手話と家福
韓国にいるみさきと犬
音の物語とは何だったのか?
音の語る物語は性行為の最中か後に必ず現れる。
彼女は物語を通してしか家福を見ることができなかった。
そこには、自分 → 他者 ではなく、自分 → 物語 → 他者 が介在している。
音は家福に耐えられなかった。家福と同じように他者自身に耐えることができなかった。だから物語を通して、それを倒錯の手段として利用していた。そして家福自身も音と直接対話することは耐えられなかったため、物語を倒錯の手段として感じていた。
家福の演技指導と身体性
上記のように、家福は本読みによる記憶に焦点を当てている。記憶。家福は音の語りに対して脊髄反射で返すことができるまで何度もカセットテープを聞く。身体にまで言葉を沁み込ませる。言葉そのものの力ではなく、暗記による反応を求めている。
そこには、言語の壁を超える共振がある。言葉自体を交わすことのできないものとの調和を目指している。次にどんな内容が展開されるかが分かっていれば、それが言語がなくても、相手の演技が手話であっても可能である。女性俳優と韓国手話とのトランスシーンは「何かが起きていた」と言ったように、次の展開を記憶して相手の反応だけに身を任せることができる。しかし、それは記憶している場合だけに限る。わたしたちは普段、相手の次の行動を知ることはできない。知ることができない行動に関して記憶することはできない。
家福は音の全てを分かっていると思っていた。分かっていると思っていたからこそ、音の不信には敏感だった。記憶するには記録しなくてはならない。音が吹き込んでくれるカセットテープのように、音の不信を記録するには音の不信を見なくてはならない。だから玄関から部屋の中が覗けるような形で鏡が設置されている。それは音の不信を記録するための装置である。記録するには何かを通してでないとできない。テキストかカセットテープか鏡か・・・。
家福の身体性━━暗闇との向き合い方
①理解は記憶と一致している。家福は音を知ることができると思っている。音の暗闇を知ることができると思っている。それは彼の演技の身体性にもあらわれている。記憶が反応を呼び起こす。
②だからこそ、まずは暗闇を知らなくてはいけない。知らないことは赦されない。家福は音の暗闇を暗闇のまま受け入れることはできない。暗闇を明るみに出さなければ、音を赦すことはできないと思っている。
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