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講談社「小説現代長編新人賞」 要点まとめ

参考にさせていただいた記事


要点

  • 1963年より始まった小説現代新人賞を、2005年にリニューアルし、2006年より開始された、歴史の長い賞。エンタメ系の賞で、ノンジャンル。長編を募集する新人賞。小説現代新人賞の受賞枠は過去回最大時で3あり(受賞2+奨励賞1)、応募数に対して、デビューの可能性の期待値が高い。

  • 五木寛之、朝井まかて、塩田武士らを発掘している。

  • 2018年に読者層の若返りを図ってリニューアル。設定から面白く、瑞々しく、若い層にも支持される作品が受賞している。応募数は1163編(第18回)。

  • また、一次通過以上で、短い講評文がもらえるのが、作家志望には嬉しい特典。

  • 受賞時に40歳を超えている受賞者は14~17回にはいません。ただし、18回の受賞者は40歳over(40代)。受賞ジャンルは時代小説。40代以上の応募者にわずかな希望を与えてくれる結果になりました。この比較的若年の受賞者が多い傾向は、『小説現代』自体が、2020年に、若年層向けへリニューアルしたのも関係しているのかもしれません。時代小説で受賞した方は、年齢が比較的高いケースもけっこうあるので、ある程度年齢が行ったら、時代小説で勝負するのもアリ。

  • すでに何らかの新人賞に応募した作品、およびその改稿した作品については選考対象外。応募は各回1人1作まで

  • pdf形式の応募がおすすめ。web応募のほうが郵送より増えてきているようなので、web応募前提で書く。公式にも、pdf応募を推奨している記述がある。

  • web小説のような長文タイトルは避ける。web小説で長文タイトルがウケるように、一般文芸にもタイトル付けの暗黙のルールというか、独自の雰囲気がある。一般文芸の棚に並んでいて、浮かないようなタイトルと、ペンネームで応募する。

  • 選考経過発表日は、一次選考は、『小説現代10月号』で最初に発表。そして後日、公式サイトであらためて発表、という流れ。

  • 直近回の受賞作とテーマや舞台が被った場合、まず受賞できない。ネタかぶり、テーマ被りを避けるために、全部読まなくてもいいので、直近受賞作のあらすじだけは、必ずチェックしておく。もちろん細かなかぶりを防ぐために、熟読したほうがいい。さらに言うなら、講談社が行っている、ほかの文学賞の直近回受賞作ともネタ被りがないことを確認しておくと、なおよい。

▼小説現代長編新人賞 歴代受賞作

桜井真城 『転びて神は、眼の中に』
幕府による伴天連弾圧が進む1625年、奥州。七色の声をあやつる十七歳の望月景信は、南部藩の忍衆・間盗役の一員として伊達藩の忍・黒脛巾組の動向を探っていた。本格忍者スパイ小説。

朝霧咲『いつかただの思い出になる(どうしようもなく辛かったよ)』
「特別になりたい」と願う中学生の若菜は、日々、バレー部での練習に明け暮れていた。しかし三年生になると、顧問の異動によってチームは大きく動揺してしまう。若菜の「ある提案」によって落ち着きを取り戻したチームは、最後の大会へ向かうのだが――。

水庭れん『うるうの朝顔』
綿来千晶は、息子に手を上げた夫と離婚したばかりで鬱々とした日々を過ごしていた。彼女は、偶然入った霊園事務所で日置凪という青年に出会う。親しみやすく価値観の合う凪に、ぽつぽつと悩みを打ち明ける千晶。すると彼は「ひとつだけ、おとぎ話をさせてください。」と「うるうの朝顔」という不思議な朝顔の種を取り出した。なんでもその花を咲かせると、現実とはほんの少しだけ変わった過去をもう一度体験でき、その瞬間から始まっていた心の「ズレ」が直るという。その夜、千晶には、姉が父に殴られた日の記憶がよみがえり……。

宇野碧『レペゼン母』
山間の町で穏やかに暮らす深見明子。女手一つで育て上げた一人息子の雄大は、二度の離婚に借金まみれ。そんな時、偶然にも雄大がラップバトルの大会に出場することを知った明子。「きっとこれが、人生最後のチャンスだ」明子はマイクを握り立ち上がる――!

珠川こうた『檸檬先生』
私立小中一貫校に通う小学三年生の私は、音や数字に色が見えたりする「共感覚」を持ち、クラスメイトから蔑まれていた。ある日、唯一心安らげる場所である音楽室で中学三年生の少女と出会う。檸檬色に映る彼女もまた孤独な共感覚者であった。

▼講談社が行っているほかの文学賞の直近回受賞作

吉川英治文学賞:
『悪逆』黒川博行
過払い金マフィア、マルチの親玉、カルトの宗務総長――
社会に巣食う悪党が次々と殺害される。警察捜査の内情を知悉する男vs.大阪府警捜査一課の刑事と所轄のベテラン部屋長。凶悪な知能犯による強盗殺人を追う王道の警察小説

『燕は戻ってこない』 桐野夏生
29歳、女性、独身、地方出身、非正規労働者。子宮・自由・尊厳を赤の他人に差し出し、東京で「代理母」となった彼女に、失うものなどあるはずがなかった――。北海道での介護職を辞し、憧れの東京で病院事務の仕事に就くも、非正規雇用ゆえに困窮を極める29歳女性・リキ。「いい副収入になる」と同僚のテルに卵子提供を勧められ、ためらいながらもアメリカの生殖医療専門クリニック「プランテ」の日本支部に赴くと、国内では認められていない〈代理母出産〉を持ち掛けられ……。

『やさしい猫』 中島京子
シングルマザーの保育士ミユキさんが心ひかれたのは、八歳年下の自動車整備士クマさん。出会って、好きになって、この人とずっと一緒にいたいと願う。当たり前の幸せが奪われたのは、彼がスリランカ出身の外国人だったから。大きな事件に見舞われた小さな家族を、暖かく見守るように描く長編小説。

吉川英治文学新人賞:
『リラの花咲くけものみち』藤岡陽子
幼い頃に⺟を亡くし、⽗が再婚した継⺟とうまくいかず不登校になった岸本聡⾥。愛⽝のパールだけが⼼の⽀えだった聡⾥は、祖⺟・チドリに引き取られペットたちと暮らすうちに獣医師を⽬指すように。⾺や⽜などの⼤動物・経済動物の医師のあり⽅を⽬の当たりにし、「⽣きること」について考えさせられることに―。

江戸川乱歩賞:
『蒼天の鳥たち』三上幸四郎
大正十三(1924)年七月、鳥取県鳥取市。鳥取出身の実在の作家・田中古代子をモデルに、友人の女流作家・尾崎翠や鳥取に流れてきた過激アナキスト集団「露亜党」、関東大震災など、大正期を鮮やかに描く歴史活劇ミステリー!

メフィスト賞
『死んだ山田と教室』 金子玲介
夏休みが終わる直前、山田が死んだ。飲酒運転の車に轢かれたらしい。山田は勉強が出来て、面白くて、誰にでも優しい、二年E組の人気者だった。二学期初日の教室。悲しみに沈むクラスを元気づけようと担任の花浦が席替えを提案したタイミングで教室のスピーカーから山田の声が聞こえてきたーー。


編集側コメント

編集長:河北壮平さん「小説現代」は来年で創刊60周年を迎えるんですが、「現代」と冠するからには“今”を切り取って描いた物語であってほしい、という話は、ときどき会議でも持ち上がります。“今”というのは、令和のこの瞬間を描いた物語、ということではありません。SFやファンタジー、時代小説ももちろんウェルカムなのですが、そこに描かれているテーマだったり、感情だったりが、現代を生きる我々の心に何かしら響くものであってほしい、と思っています。そして、同時に、僕たちは普遍的なエンタメの“王道”を模索し続けているつもりです。

これまでの話を覆すようで恐縮ですが、傾向と対策を練ることにあまり意味はないと思います。個人的に思うのは、受賞する方々はみんな「作家になりたい」という人たちではないんですよ。「小説を書きたい」という想いが強い人が、結果的に作家になっていく。ときどき、落選した原稿を改稿して応募し続ける方もいらっしゃいますが、そういう方が受賞しにくいのは、その一作がゴールになってしまっているからなんじゃないかと。そういうときは、読み手に楽しんでもらうことよりも自分自身を押し出す気持ちのほうが強くなっていることも多いですしね。同じテーマでも、切り口を変えれば新しい作品を生み出せる余地があるはずで、それくらいの「書きたい」という欲求がある人でないと、受賞したあとに作家として継続していくのが大変かもしれません。あとは……新しさを求めるというのは、誰も聞いたことのない設定で描くことではない、ということ。

僕たちにとってのライバルは、他社の小説ではなく、スマホゲームやサブスクの映像作品といった、いつでも気軽に手に取ることのできるエンタメコンテンツです。並みいる強敵のなかで、それでも小説ってやっぱりおもしろい、と思える作品を、まずは僕たち自身が、読んでみたい。物語ってこんなにも自由なんだ、こんなにも心を揺り動かされる発見を与えてくれるんだ、と驚かされ、5年後、10年後も一緒にお仕事をしたいと思えるような作家さんと、その方が書かれる作品に出合いたいですね。そのためにも今回からは、最終選考に残った作品の講評だけでなく、一次選考を通過した以降の作品には、これまでよりもしっかりとした編集部員のコメントを返していこうと思っています。作家の卵であるみなさんの役に、少しでも立てたら、そして、一緒に物語を作っていきたい、という気持ちです。

受賞者コメント

宇野碧さん

  • 女性ラッパーが性差別的なディスを受けたというニュースをネットで読んで、気になったんです。

  • ど素人でしたので一から勉強しました。ライムスターの宇多丸さんの著作をはじめ、ヒップホップ関連の本を漁るように読んで、楽曲も黎明期の70年代のものから聴いて、DVDやバトルの動画を観て。中途半端に理解するのではなく、ラップの根底にあるものや哲学も吸収したかったので、1年間、徹底的にラップに浸かりました。ちょうど2人目の子どもの妊娠・出産の時期と重なり、授乳しながらMCバトルを観賞し、赤ん坊の泣き声を聞きつつラップを聴いて……という感じでした。バトルはそこから初めて見始めたのですが、呂布さん、ゴメスさん、ハハノシキュウさん等が推しでした。正統派じゃないスタイルのある人が好きです。

  • 男性メインの世界であるラップバトルへ乗り込んでいける女性として、おかんという設定がまず生まれました。ならば、ある程度の年齢でしょうし、女性という縛りから自由になっている年頃として60代にしました。ラップに目覚めるくらいなのだから、頭の回転が速い人だろう……じゃあ経営者かな。でも頭だけじゃなく、ちゃんと身体も使って生きてきた人でないと言葉に説得力を持たせられないし……という具合にイメージをふくらませていきました。

  • うちの近隣に梅農家があって、何シーズンかお手伝いにいったことがあるんです。リアルに感じていただけたとしたら、そのときの経験が活かされたんだと思います。

桜井真城さん

  • 今回、受賞した作品は、江戸時代初期の奥州を舞台にした時代小説です。主人公は、間盗役と呼ばれる南部領の間者ですが、ステレオタイプの「忍者」ではありません。彼は、自分の弱さを知っていて、それを曝け出すことを恐れないし、弱者の立場を理解しようとする。当時の時代感覚で、こんなに人間的な忍者は、まずいないと思います。それでも、あえて主人公に設定したのは、冷酷無比で完全無欠な者が手にする強さではなく、弱きを知る者の内面に起因する強さを描きたいと考えたからです。

  • 私は普段、仕事や育児の合間を縫って執筆を行うので、せめて小説を書いている時間は、楽しい気持ちでありたいと考えてきました。読者の皆様も、同じように日常生活の合間を縫って本を読む方が多いでしょう。様々な娯楽コンテンツが溢れる昨今、自身の大切な時間とエネルギーを読書に費やしてくださるなら、せめて本を読んでいる時間は至福であって欲しいと願います。これまでは、面白いものを書きたい一心で乱筆を走らせてきましたが、これからは、面白さの上に、深みや重みといった要素を一段でも二段でも積み重ねていけるよう、精進し続けてまいります。


青春とSF系が多い傾向

受賞作には、青春とSF系(「少し不思議」くらいのライトな)が目立ちます。このようなテーマが多く受賞するということは、受賞作品も若年読者向けへシフトしているということなのかも(ただし公式サイトには高年齢応募もウェルカムとは書いてありました)。
舞台となる時代は現代ものが多く、時代物は近年少なめ。ファンタジーは、日本ファンタジーノベル大賞が強いせいか、直近回では出ていない様子です。

創作勢のためのサイト「創作沼」より


講評指摘傾向

上記記事の一次通過作講評について、似通った指摘点をまとめるようチャットGPTに指示したもの。正確性は期待しないよう。

  • 描写の詳細さとキャラクターの内面描写

    • キャラクターの感情や動機に対する描写がもう少し深掘りされると良いという指摘が多いです。これは、キャラクターに対する読者の共感を高め、物語に引き込む効果があります。

  • プロットの一貫性とペース

    • ストーリーの進行が速すぎる、または遅すぎると感じる部分がありました。プロットの一貫性を保ちながら、ペース配分を調整することで、物語の流れがよりスムーズになるでしょう。

  • 設定や背景の説明

    • 世界観や設定に関する説明が不足しているとの指摘がありました。特にファンタジーやSFの作品では、読者がその世界に入り込むために、設定や背景の詳細な説明が必要です。

  • ダイアログの自然さ

    • キャラクター間の会話が不自然に感じられる部分がありました。ダイアログを自然にし、キャラクターの個性や関係性を反映するようにすると、よりリアリティが増します。

  • テーマの明確さ

    • 作品全体を通じてのテーマがやや不明確であるとの指摘がありました。テーマを明確にし、それに沿ったエピソードや描写を強化することで、物語のメッセージ性が高まります。

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