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講談社「メフィスト賞」 要点まとめ

■参考にさせていただいた記事



■応募要項

対象
エンタテインメント作品。書き下ろし未発表作品に限ります。

原稿規定

文書作成ソフトなどで作成の上、PDF形式で保存してご応募ください。1ページ目にタイトルとペンネーム(ペンネームがない場合は本名)を明記。体裁は自由です。2ページ目より本文を開始してください。その他に図面や登場人物一覧など付き物がある場合、挿入位置は自由です。ノンブル(ページ番号)は小説を開始するページから入れてください。縦書き、1段組、40字×40行で50枚以上(上限なし)とします。保存の設定はA4サイズ横位置で、マス目などはなしにしてください。

メフィスト賞応募要項・座談会Treeより

原稿の締め切り
2024年下期座談会(11月頃発表)は2024年8月末日24:00エントリー締め切りです。
2025年上期座談会(5月頃発表)は2025年2月末日24:00エントリー締め切りです。
※郵送でのご応募は受け付けておりません。

梗概規定
エントリーフォームに以下の要素をご記入ください。

氏名、氏名カナ、郵便番号、住所、電話番号、メールアドレス、年齢、性別、職業、作品タイトル、作品タイトルのフリガナ、作品の枚数(A4サイズ1枚40字×40行換算)、ペンネーム(ある場合)、ペンネームのフリガナ、略歴、人生で最も影響を受けた小説3作、作品のキャッチコピー、800字程度の作品の梗概(あらすじ)。※梗概には物語の結末までを記入してください。

メフィスト賞応募要項・座談会Treeより

出版
優秀作品はメフィスト賞とし、treeおよびメフィストでの発表ののち講談社より、単行本、講談社ノベルス等で刊行します。その際、雑誌掲載権および出版権は講談社に帰属し、出版に際して規定の印税を支払います。

その他
文書作成ソフトの設定に関する問い合わせ、選考結果に関する問い合わせには応じられません。原稿規定、梗概規定は厳守してください。規定外の作品は選考対象といたしません。受け付けた原稿のタイトルはtreeに掲載します(毎月1回、20日頃更新)。
二重投稿、字数・行数・枚数が規定に満たない作品、文芸関連の新人賞を受賞された方の作品(出版の有無は問いません)、商業出版経験のある方の作品(単著、共著問わず。ただし自費出版を除く)、小説投稿サイトにて一度公開された作品、他の新人賞、過去のメフィスト賞に応募された原稿の再応募(改稿した上での応募も含む)は規定外となります。ご注意ください。
文庫化の優先権、受賞作の映像化など二次利用における契約交渉の優先権は講談社にあります。

■要点

  • メフィスト賞は、少し変わった公募新人賞。一般的な公募新人賞というのは、まず「下読み」という応募作を読む作業があるが、メフィスト賞の場合、「下読み」がなく、全ての応募作を編集者が読む。編集の誰かがその作品を気に入れば、そのまま受賞ということもありえる。そのため少し変わった作品も受賞することがある。そういったこともあり、メフィスト賞の受賞作は個性的な作品が多いところが特徴。

  • 賞金や表彰などはなく、編集者に評価されれば書籍化してもらえるという、シンプルさが特徴。プロアマ問わずに多くの小説家たちが応募していて、これまで数多くの作品が様々なコンテンツとなって世に広められてきた。

  • タイトルにはないが、新人賞(プロの応募は不可)。

  • 森博嗣、舞城王太郎、西尾維新、辻村深月を輩出。

  • 応募の際にはタイトルや本文の他に、20字前後の「キャッチコピー」や800字程度のあらすじも記載する必要があるので注意。

  • メフィスト賞はとにかく「面白さ」を重視していて、編集者が直接作品を読み、良い作品を選ぶ。これまでになかったテーマやストーリー、登場キャラクターなど、個性的で尖った作品を募集している。実際、メフィスト賞に応募される作品の多くは新しい切り口をテーマにした作品や、ユニークな作品が多い傾向にあり、自由な発想が得意な方に向いている賞といえる。

  • 過去の受賞作は、ミステリー作品がやや多い傾向にある。募集テーマ自体はミステリー作品のみならずファンタジーやSF、伝記など幅広く募集しているが、応募される小説もミステリーがやや多め。必ずしもミステリーを書くべき、ということはありませんが、確実な受賞を狙うのあればミステリー作品にチャレンジしてみると良い。


▼メフィスト賞 歴代受賞作

2023年 第65回
『死んだ山田と教室』金子玲介
夏休みが終わる直前、山田が死んだ。飲酒運転の車に轢かれたらしい。山田は勉強が出来て、面白くて、誰にでも優しい、二年E組の人気者だった。二学期初日の教室。悲しみに沈むクラスを元気づけようと担任の花浦が席替えを提案したタイミングで教室のスピーカーから山田の声が聞こえてきたーー。教室は騒然となった。山田の魂はどうやらスピーカーに憑依してしまったらしい。〈俺、二年E組が大好きなんで〉。声だけになった山田と、二Eの仲間たちの不思議な日々がはじまったーー。


2022年 第64回
『ゴリラ裁判の日』須藤古都離
カメルーンで生まれたニシローランドゴリラ、名前はローズ。メス、というよりも女性といった方がいいだろう。ローズは人間に匹敵する知能を持ち、言葉を理解する。手話を使って人間と「会話」もできる。カメルーンで、オスゴリラと恋もし、破れる。厳しい自然の掟に巻き込まれ、大切な人も失う。運命に導かれ、ローズはアメリカの動物園で暮らすようになった。政治的なかけひきがいろいろあったようだが、ローズは意に介さない。動物園で出会ったゴリラと愛を育み、夫婦の関係にもなる。順風満帆のはずだった――。
その夫が、檻に侵入した人間の子どもを助けるためという理由で、銃で殺されてしまう。なぜ? どうして麻酔銃を使わなかったの? 人間の命を救うために、ゴリラは殺しもてもいいの? だめだ、どうしても許せない! ローズは、夫のために、自分のために、正義のために、人間に対して、裁判で闘いを挑む! アメリカで激しい議論をまきおこした「ハランベ事件」をモチーフとして生み出された感動巨編。


2021年 第63回
『スイッチ 悪意の実験』潮谷験
夏休み、お金がなくて暇を持て余している大学生達に風変わりなアルバイトが持ちかけられた。スポンサーは売れっ子心理コンサルタント。彼は「純粋な悪」を研究課題にしており、アルバイトは実験の協力だという。集まった大学生達のスマホには、自分達とはなんの関わりもなく幸せに暮らしている家族を破滅させるスイッチのアプリがインストールされる。スイッチ押しても押さなくても1ヵ月後に100万円が手に入り、押すメリットはない。「誰も押すわけがない」皆がそう思っていた。しかし……。

2020年 第62回
『法廷遊戯』五十嵐律人
法曹の道を目指してロースクールに通う、久我清義(くがきよよし)と織本美鈴(おりもとみれい)。二人の“過去”を告発する差出人不明の手紙をきっかけに、彼らの周辺で不可解な事件が続く。清義が相談を持ち掛けたのは、異端の天才ロースクール生・結城馨(ゆうきかおる)。真相を追う三人だったが、それぞれの道は思わぬ方向に分岐して――?


▼講談社が行っているほかの文学賞の直近回受賞作

小説現代長編新人賞:
第18回(2023年)
『転びて神は、眼の中に』
幕府による伴天連弾圧が進む1625年、奥州。七色の声をあやつる十七歳の望月景信は、南部藩の忍衆・間盗役の一員として伊達藩の忍・黒脛巾組の動向を探っていた。本格忍者スパイ小説。

吉川英治文学賞
『悪逆』黒川博行
過払い金マフィア、マルチの親玉、カルトの宗務総長――
社会に巣食う悪党が次々と殺害される。警察捜査の内情を知悉する男vs.大阪府警捜査一課の刑事と所轄のベテラン部屋長。凶悪な知能犯による強盗殺人を追う王道の警察小説。

吉川英治文学新人賞:
『リラの花咲くけものみち』藤岡陽子
幼い頃に⺟を亡くし、⽗が再婚した継⺟とうまくいかず不登校になった岸本聡⾥。愛⽝のパールだけが⼼の⽀えだった聡⾥は、祖⺟・チドリに引き取られペットたちと暮らすうちに獣医師を⽬指すように。⾺や⽜などの⼤動物・経済動物の医師のあり⽅を⽬の当たりにし、「⽣きること」について考えさせられることに―。

江戸川乱歩賞:
『蒼天の鳥たち』三上幸四郎
大正十三(1924)年七月、鳥取県鳥取市。鳥取出身の実在の作家・田中古代子をモデルに、友人の女流作家・尾崎翠や鳥取に流れてきた過激アナキスト集団「露亜党」、関東大震災など、大正期を鮮やかに描く歴史活劇ミステリー!


■編集側コメント(座談会)

※2024年上期座談会より抜粋
重要そうな点を太字でマーク。

▼良かった点

  • アクション描写に疾走感と緊張感があり、グッと引き込まれました。日本を崩壊させるという目的のために、主人公とその相棒のマッドサイエンティストが暗躍するのですが、そのダークヒーローっぽさに説得力があっていいなと思いました。また、その計画も細かく描かれていて、ディテールを突き詰める能力が抜きんでていると感じました。

  • 滾っているし漲っているし、書けて書けて仕方がないというエネルギーを浴び続けた5時間でした。著者の頭の中にあることに描写力が追いついていない部分もありますが、ハードボイルドに大切な暴力描写が端的にうまく描かれていたかと思います。

  • この作品の書き手の正体(おそらく)が最後の一行、署名によって明かされるという作りや歴史的価値のある日記を学者が解読するという構成は、ロマンティックで素敵でした。

  • 謎を追う過程で、主人公はどうして怪奇探索者として活動しているのか、主人公自身が強い信念を持っていることがわかる描写があったり、登場人物の背景もしっかり描かれていて、彼女とともに事件を追いたくなります。現代とは違う世界を描いているのに、さらには心理学と行動学について説明する内容も入っているのに、説明が長くなりすぎず自然な描写になっています。

  • 発想の大胆さが素晴らしいと思いました。怪奇を科学する過程に、ディテールや設定が過不足なく盛り込まれていて、SFとして楽しめるポイントがたくさんある小説だと思いました。また、ミステリとしても「マウスブレイク事件」を主軸に様々な事件が立て続けに発生して、展開として飽きさせない工夫を感じました。

  • ホラー系検証動画が何らかの理由で二度と見ることができないため、文字で記録した体の小説である、という発想が素晴らしいと思いました! ホラーの展開を途切れさせず、読者を飽きさせない工夫に、ハラハラドキドキしました。

  • キャラクターと会話部分、そして、各局面に対する洞察がめちゃくちゃ面白い、ということで推薦します! 特に信長のビジネスマンっぷりが面白く、「次に何をするのか? 何を言うのか?」と史実を知っていても気になるという魅力があります。会話文も地の文も全て現代調で書かれており(それもかなり読みやすい現代調)、時代小説、というよりはファンタジー小説として読むのが適当かもしれません。

  • アイディアを史実に落とし込み説得力を持たせることができていると思います。漫画『ベルセルク』(三浦建太郎)の名台詞や格闘技にも造詣が深く個人的にツボでした!

  • ぶっとんでいそうで、実は中身は大真面目、という不思議な味わいなので、デビューを狙うなら、ぶっとびのところの突破力がもっと欲しかったかもしれません。これで受賞というのは難しいけれど、歴史アンソロジーみたいなものを編んだ時に一編入っていたら秀逸な作品かもしれない。コンサルを表現する時に「断片的な情報からそれっぽい未来像を構築する」という言葉を使っていたり、「信長フェス」など、滲み出るコンサルのチャラさを自虐的に書いているところもツボでした。

  • 今猿の存在とミツヒデの新説が最後にぴったりくっつくのが堪りません。ユーモアがあり、知識も豊富で、情報も整理されていて、素晴らしい。『家康、江戸を建てる』を思い出しました。欲を言えば、設定や構造に加えて、人物の魅力やシーンの魅力なども出してほしかった。信長の悲哀などをもっともいいシーンで書けば、それだけで受賞したのではないかと思います。そこを描くのが小説なのではないか、と。ずっとテンポが同じでやや脚本的なので、スロウダウンすることも考えていただきたい。素晴らしい脚本があるけれど、役者が演技をしていなくて、カメラワークや演出にも工夫がないような印象を受けました。せっかくメフィスト賞に応募してくださるのだから、もっともっと思い切ってほしかった。

  • 人物描写に「癖」がありますね。そして僕はこの方の癖が大好きでした。小説なんですが、漫画的な、人物の目や口の部分の表情が浮かんでくる……と申しましょうか。登場人物のことがなんだか好きになります。

  • とにかく細かい描写が素敵でした! 何気ない描写が光る作品で、主人公の設定として、「幸せの前兆が多い」と据えていると思ったら、それに対して「ありふれた幸せを見つけられてない」とグサッとくる名言もよかったです。Tシャツの「I love ●●」のところもニヤッとしてしまい、さりげないけれどアクセントになる描写にセンスを感じました。

  • 文章が作者の中から迸っています。一文が長いのですが、それが面白いのでどんどん読まされます。力の抜けた説明文や会話文が心地よいです。若い学生がひょんなことからこのアパートに、という設定もいいし、主人公ののんびりした性根も愛らしい。毎日生活するのって大変だ、ということをしみじみわからせてくれる素敵な作品……かと思いきや、一人の住人の失踪から思わぬ方向に話が転がり始めて驚きました。シリアスになるほどこの著者ならではの力の抜けた面白さが減り、リアリティが不足していき、どこかで読んだことがあるような展開になっていくのが残念でした。無理に派手なことを起こさなくても、自分の得意なことを突き詰めた方がオリジナリティは出るかと思います。また新作を読ませていただきたいです。全体に気が利いていて、いいなぁ、と。ずっと読んでいたい文章でした。無理に派手な事件を起こさなくてもいいんです。人物にとって重要なことであれば。今月の携帯代が足りないとか、意中の相手から電話がこないとか、同僚をランチに誘いたいけれどなかなか話しかけられないとか。大切なのは、それがその人にとってどれほど大事なことなのかを描くことで、この作者はそこを描ける書き手だと思います。

  • 冒頭の、効率を重んじるあまり他者の人間性や職場の状況を無視して上から目線で他人とぶつかる視点人物の描写が、とてもリアルでよかったです。悪い人じゃないし優秀だけど、何かが欠けている感じ。きっとこの人がひと夏のうちに成長して、会社の人たちと和解する展開になるのだと期待しました(違いました)。

  • 何より冒頭がとっても面白かったです! 理論で「効率的な生産計画」について考えていたけれど、その提案が通らないとなると全力で走って逃げる、理論で戦っていたけれど体力勝負して打ち勝つ、というのが何だかよかったです。本当に「何だかわからない」カタルシスがあり、どこか石田夏穂さんの描写を思い出しつつ、純文学の掌編を読んだ気持ちになりました。

  • 初めて小説を書かれた方でしたか? いわゆる日常の謎的なお話です。地の文章もセリフもこなれていて、スルスルと読めるセンスの良さが光っています。特に地の文が上手いのは、稀有な才能だと思います。

  • 文章、良いです。うまいです。「休日にゴルフをしなくては動かせない現場なんてそっちの方がどうかしている」とか、最高ですね。作者と登場人物にいい意味で距離がありました。また機械や工具の描写はわくわくしました。

  • 艶っぽい感じがあり、世界観も好きな物語でした。ただ、読みやすいのにわかりにくいという不思議な出来です。その場には誰がいて、何をしているのか。そのセリフは誰のものなのかをもう少しわかりやすくしてくれたらさらによかったのにと思いました。

  • 「まやかし」の世界の雰囲気の表現がとてもお上手で引き込まれました。こういう舞台や雰囲気が好きな方には堪らない作品だと思います! やや短めかも? と思ったので、もっと文字数を尽くして書いても、面白く読めるのでよいと思います。キョウが舌を得る部分の描写や、人間の世界を離れてまやかしの世で生きる決意をするところまでは、とても面白かった。

  • 人生で最も影響を受けた小説3作が綾辻行人さんの『十角館の殺人』、ディクスン・カーの『三つの棺』、エラリー・クイーンの『レーン最後の事件』というのもミステリ好き、メフィスト賞への意気込みの高さを感じました

  • 孤島・巡島で行われる催眠実験モニターに参加する主人公たちが殺人事件に巻き込まれる、というストーリーです。参加者の一人が聴覚障がいを持っていて、音を使った催眠実験には不向きだということで実験対象から外れるのですが、彼女が探偵役となります。主人公はワトソン役の小説家志望の男子大学生なのですが、彼自身にも秘密があり、そこも明らかになっていくというものです。大長編ミステリを書き上げ、かつそれが一定レベル以上に達していると思いました。さらに読みやすさなども作品として丁寧に仕上げてくださっているので、それを評価しました。

  • 著者ご自身の境遇・体験も踏まえて執筆されたと思われる聴覚障がいにまつわる描写は、込められた思いの強さがヒシヒシと感じられました。かなり「型」を意識した長編なのですが、トリックやロジックについてはあまり新奇性は感じられなかったです。また、催眠が重要なファクターとして登場するのですが、都合のいいマジックアイテムになってしまっていて、作中でのリアリティラインの急降下が激しかった。聴覚障がいにまつわる徹底的なリアリティを保持して描かれた作品にもかかわらず、“それ以外”の要素の考証・洗練に手が回っていないように感じられました。 総評としては「この人にしか書けないけれど、まだ練度が足りない!」となります。惜しい。


▼改善点

  • 中盤以降の過去編が少々唐突で、現在編・過去編と分けることなくミステリ要素を持たせて書いてくれてもよかったのかな、と思いました。というのも、火野らの計画の全容は中盤までに明らかになるので、後半部分は読者として読むモチベーションが「結局計画は成功するかどうか?」ということになり、過去編に若干中だるみの印象を感じざるを得ないからです。

  • いたずらに動物の命を奪っているだけになっており、主人公たちの正義に共感できませんでした。過去の事件パートが長く、そのエピソードも主人公たちが国家壊滅を考えるに至る理由として弱いと思います。性愛描写を含め、新しさを感じられませんでした。多くの女性が登場しますが、記号的で男性登場人物を際立たせるための都合の良い存在でしかない点も気になりました。日本を壊滅させようという犯罪計画にしては行き当たりばったりで、成功はおぼつかないのでは? と感じました。

  • ジェンダー観や性的描写は時代錯誤的。ハードボイルドは、ただただ古風であればよいわけではない。価値観を描く小説ジャンル。キャラクターが全体的にステレオティピカル(典型的)。

  • 主語がかなりの量、文頭に頻出する点が非常に気になりました。こなれていない、読みづらい文章になるので、なるべく多用しないように、その点に注意しながら文章を推敲すると格段にレベルが上がると思います

  • 同性愛者や両性愛者の描き方は安易であり賛成できない、と思いました。ラストを性癖と権力の物語で落としてしまうのももったいなく、この作品でしか、この書き手でしか到達し得ない、表し得ない点があれば受賞もあったのではないかと思いました

  • 日記パートは伝聞と感想で進むので少々退屈だし、この作品ならではの新鮮な面白さや知る喜びを感じませんでした。また日記というにはいささか創作的な表現(会話など)だと思います。

  • 登場人物以外の人間の気配があまり感じられないというか、何となく殺風景な印象を抱きました(それが味なのかもしれませんが)。近未来、あるいはディストピア小説として読ませるなら、主軸以外の部分でも景色を想起させたら、より没入感を出せると思います。

  • ラストシーンから考えると、冒頭の入り方はこれでよかったのだろうか、という疑問が。そして視点がかなり多用されているけれど、ある程度絞って整理することによって、不要に長くなっている原稿枚数をシェイプすることができそう。視点の多さも含め、全部の行動の流れ、この世界観全てを書きたい、という気持ちがまだ先に立ってしまっています。最後まで書き切ってくださったのだからこそ、俯瞰してこの物語の読みどころはどこかを整理して推敲するだけで、ぐっと密度が高くなると思います。またエンジンがかかるのが遅く、P50くらいから全体像が把握できて面白くなってくるので、次作ではそのあたりも気をつけて書いていただくとさらに完成度が高くなると思います。

  • 文章がかなり厳しいです。「みたいです。」という語尾が10行に3回も出てきます。現代的でリアリティがある文章なのですが、無駄が多く冗長。セリフの情報量も少なく、もう少し推敲をしていただけたらと思いました。会話文の長さが物語のテンポを落としていて、ハラハラドキドキしたいのに、いつ話が先に進むのだろう、ということばかりが気になってしまいました。

  • 三点リーダが1字分だったり、「!」「?」のあとの1文字アキがなかったり、こだわりがあるというよりは、勉強不足な印象です。この方は本気で小説に取り組んでいるのだろうか、文体模写や推敲をしたことがないのだろうか、と訝しみながら読んでしまいました。倒置法を多用していたり、心情描写がぎこちなくて長かったりと、読み進めるのに苦労しました。修飾節も多用されています。なんてことのない会話文を、いいセリフだと思わせるために地の文を使っているのですが、あまり効果的ではなく、ページをめくる速度を落としているように感じます。例えば「それで俺は落ちたね、恋に」とは、言わないでしょう。「その言葉は独り言のようでありながら、浩道の返事を待っているようでもあった。」という書き方もいただけない。どう描写するかをもっと考えてほしいです。

  • 「遺された映像資料」の文字起こしという体裁を取っている作品なので、こと小説技法的な視点では評価が難しいです。一応、小説である理由にも結末で触れられているのですが、演出の根拠としては弱いと思います。先行の傑作ホラーへのオマージュとも取れる演出は見てとれましたが、それ以外でこの作者のオリジナル要素がもっと欲しかった。クライマックスの恐怖描写は世界でスマッシュヒットした某ホラー映画の結末と似通っていて、それもいただけなかったです。体験型のホラー作品の潮流はここ数年でより大きくなってきています。作者もそうですが、読者も育ってきています。目の肥えた読者に、あなたの渾身の作品を届けましょう! 

  • 夜中にホラーを読みはじめてしまったと後悔しながら楽しく読んだのは100ページまで。呪い死にのバリエーションが少な過ぎて、だんだんと怖くなくなってしまうんです。また、人が軽々とたくさん死んでいくので、逆に一つ一つの死の恐怖が軽減されてしまっている印象。実は旧館と新館で、何か大きなトリックがあるかと思いきや、ミステリではなくあくまでオカルトなんだという結末に少しだけ残念な気持ちにも。

  • このページ数だと単行本で税込2200〜2420円くらいになりそうです。わずか80分で観終わる『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』と比べて、どうか。推敲を頑張っていただきたいです。話も一本道で意外性がなく、最後の「補記」も驚きがない。同じ内容を半分で書き、道行きに起伏を用意して、読後に感情が大きく動くような仕掛けがあればよかったなと思いました。

  • 課題はキャラ作りです。本作は歴史上の超有名人ばかりが出てくるので、読み手が勝手にキャラを投影してくれます。けれどもそのキャラ特有の語り口や行動の描写が弱く、脇キャラになればなるほど、「誰が何を言っているのか」がわかりにくいです。キャラの登場のさせ方もおとなしいのでインパクトが弱いです。そしてせっかく「戦国時代にコンサル集団がいたら」という大噓をついているのだからコンサルの裏や、その集団のライバルなどを描いてもよかったのではないでしょうか? コンサルのボスは誰かという種明かしをオチにするために裏側を隠しているという側面があると思いますが、わりと早くに予想がついてしまうため、別の展開を考えてもよかったのではないかなと思いました。

  • 学園祭の空気感なども興味深く、文章や作品の雰囲気がとても好きです。残念なのは作品の本筋がなんなのかがわからず、魅力的なディテールが書かれているにとどまっている点です。筋立ての面白さが欲しいです。助教の外見の美しさなどについて、それが物語に大きく影響していると思えず、むしろルッキズムを払拭できない印象が残りました。口調なども同様に個性付けとするにはややありきたりな印象。キャラクターについては工夫の余地がありそうです。また色覚異常や症候群などを安易に使っている感じがするのはいただけません。ラストに用意されたサプライズも唐突だと思いました。先行作品にシリーズ全体で同様の仕掛けをしたものがあり、それと比較して残念に思いました。

  • 最後が尻切れとんぼで終わってしまったことと、「それは推理しようがない!」という結末なので、驚いたけれどもっと伏線を張ったり、最後にもっと感情に訴えるような物語を膨らませることもできたのではないかと思うともったいないです。そして、障がいを扱ったエピソードはセンシティブなので安易に伏線の一つにすることはおすすめできません。私が好きだと思った点は「製品は製造機を上回ることができない」という専門的な事実と物語のエピソードを重ね合わせる所です。とても素敵だと思いました。他にどんな物をお書きになるのか、とても興味があります。

  • ただリアリティのある会話や描写をされている分、「〜だわ」という語尾には違和感がありました。関西弁の「〜やわ」とはまた違う使い方をされていて。「〜よ」についても同様。「〜なのよ」と「〜だよ」が混在しているのも不自然に感じます。ラストのサプライズは悪くはないのですけれど、もうちょっと物語に関係させてほしい。せっかくいい小説なのに、最後に感動や意外性がなく、心が動かず、そこで終わり? となってしまったのが残念です。色覚異常についても、作品を構成するための道具として使われている気がします。

  • 事件が起こるまでがとても長く、作品の半分まで来たところでお藤が殺されるので、読者としては「何を目的に読めばいいのだろう」という気持ちになりかけてしまいました。また講釈師の挿入がある構成にしているからにはラストに何かあるのだろう、と思いつつ読んでいましたが、ラストに至るまでの挿入に何も伏線的なことはなく、この挿入のある構成が読みやすくはないだけに作者都合に思えてもったいないと思いました。

  • キャラクター紹介と設定の説明に時間をかけすぎているのが惜しいです。もう少し説明を説明らしくなく隠す(物語を読ませる中で自然と読者に伝える)ことができれば、さらによかったように思います。キスケについての説明が少なく、著者が読者に何かを隠していることが伝わり、隠しすぎて逆に目立ってしまって読み進めにくくなっている。隠したいことがある場合、偽の設定を用意して、それを先に伝えておく方が読者はもやもやせずに済みます。キョウが話さない(話せない)理由についても、同様です。また魅力的な妖怪たちの外見の描写も、もう少しあった方がいい。みな会話文が似ていてどれが誰だかがわかりにくいので、会話でも個性を出してほしい。お藤の現実世界の最期については、こうはしてほしくなかった。安直だと思います。

  • ただ、長い、長いのです……。ここまで長くする必要があるのかが疑問なのと、ミステリの鬼たちに、ミステリとしてのクオリティについて聞いてみたいと思いました。また「当事者性」についても悩むところではあります。当事者だから書けること、当事者だから言える意見というものがあると思うのですが、それをどこまでエンタメとして昇華できているかが難しいところだなぁと……。

  • 詰め込まれているアイディア一つ一つは面白いのですが、アイディアの繋げ方の強引さが気になります。有栖川有栖さんの言葉を借りるなら、骨はあるけど関節がない生き物のよう。大仰な本格ミステリの装飾と、中で起きている人々の動きが不釣り合いなんです。●と●の入れ替えトリックも強引かつ後出し感は否めず、追加の「隠された殺人」も、後出しが強引すぎではないでしょうか。語り手が献身的にこの作品を閉じることにも、作者がやりたい「美しい結末」があるのだと思いましたが、読み手としては納得、理解が追いつかず残念でした。

  • メフィスト賞は一作家一ジャンルなので、著者の内側から出てきたオリジナリティを大事にしていただきたいのです。著者がこれまで読んできたたくさんのミステリを寄せ集めてコラージュ作品にしたような内容と文体に思えました。ライオンと蛇とヤギを集めてキメラを作っても、それはそのまますぎる。どうせならゴジラを作ってほしかったです。聴覚障がいが各要素の接着剤としてあるのですが、通奏低音的テーマには至っていない。『オルファクトグラム』のように、このテーマであれば、この設定しかありえない、というところまで突き詰めて書いていただきたかったな、と……。また会話は現代的で読みやすいものの、やや品性が足りないように感じました。筆と作品が合っていない印象です。もしくは、筆の選択を間違えたということになります。本格は品格だ、とよく言います。こういったミステリを描かれるのであれば、品格も大事にしていただきたいです。誇り高さ、気高さ、孤独、哀切、狂気を、もっと書いてほしい。

▼おまけ

今回もたくさんの投稿作を送っていただきありがとうございました! 本当に9作品それぞれ、個性が光る作品ばかりでした。受賞にはいたりませんでしたが「この方の次の作品を読んでみたい」と思うことも多かったです。ぜひ次回のメフィスト賞にもお送りいただけたら嬉しいです!
応募総数が増えた分、規定枚数に足りないものや40字×40行のフォーマットになっていないものも散見されました。梗概も参考にしています。あらすじやキャッチコピーまで記載をお願いします
今回読ませてもらった作品、一文目から誤字脱字がある原稿も多かったです。応募する前に一度自分の作品を読み返していただきたいですね。 その他、応募フォームの原稿規定をご確認の上、応募をお願いいたします。


■受賞者コメント

▼金子玲介さん

※下記記事より抜粋
https://book.asahi.com/article/15324292

「小説との出会いは高校2年生の頃。太宰治の『晩年』を1年かけて読み解くという授業があって、すっかりハマりました。太宰って私小説風のものが多くて、作家が語り手として出てくるんですよね。書くことに対する自意識が作中に現れているのが面白い。気づいたら自分も書いていました」
 高2の夏から書き始め、秋口にはもう応募していたという。最初はとくにジャンルを意識せず、地方文学賞やダ・ヴィンチ文学賞、文藝賞など書けた時期と締め切りの近い賞に応募。が、どれも1次予選も通過せず。次でダメだったら諦めようと大学1年の時に応募した群像新人文学賞が2次 に残る。「いいところまでいったのが純文学の賞だったので、自分には純文学が合ってるのだと思い、以降は純文学に絞って応募しました」

 大学3年の時に書いた作品が2015年・文藝賞の最終に残り、翌年も同じく文藝賞の最終候補に。三度目の正直と思いきや、次の年も次の次の年も4次通過止まり 。それから2年おいて、2020年にすばる文学賞の最終候補に。が、しかし、これも次点で落選となった。

「次こそ絶対とりたい! と切実に思って、2021年の3月末締め切りの文学賞・文藝、すばる、新潮にめちゃくちゃがんばって3作品書いて送ったんです。それがどれも見事に落ちてしまって……。そこで心がぽっきり折れました」
「これまでは、同志や家族に励ましてもらいながら、なんとか立ち直ってきたんですけど、3作品同時落選はさすがに応えました。2年くらい純文学が読めなくなってしまったんです」
「自分が好きな作品がその時期ことごとく芥川賞候補に選ばれなかったんです。それがきつくて。だって、自分がめちゃめちゃ面白いと思っているものが純文学として評価されないってなると、仮に自分が同じくらい書けたとしても賞はとれないってことじゃないですか。純文学に見放されたような気持ちになりました」

 ある作家志望仲間に「もう小説やめる」と宣言すると、「やめる前にエンタメに一回挑戦してみてくれないか、それでダメだったら引き止めないから」と言われたそう。
「それが今、エンタメ系の作家として活躍されている大滝瓶太さんです。私も、こんなに好きな小説を報われないっていう理由だけで嫌いになるのはやっぱりイヤだと思って。小説を好きでい続けるために視野を広げることにしました」
 エンタメに転向すると決めて、1年半。金子さんはとくにミステリーについて勉強したという。
綾辻行人さん有栖川有栖さんなど、レジェンドたちの作品を読み込みました。なかでも細かく分析したのが、今村昌弘さんの『屍人荘の殺人』。今村さんもファンタジーやホラーから本格ミステリーに初挑戦したのが『屍人荘の殺人』だったと知り、参考になると思ったんです。エクセルに謎の開示のタイミングなどをまとめたりしましたね」
「以前は、ミステリーと純文学 は全然違うものだと思ってたんです。でもじつは共通点があった。ミステリーは謎があって、密室があって……などと型がきっちり決まっていて、それをいかに崩せるか、読者を驚かせられるかが重要。純文学もこれまでの小説の型をいかに外すかがポイントなので、そういう意味では私がこれまでやってきたことに近い。書けるかもしれない、と思うようになりました」

 また、前作は自分の中でちょっと無理してミステリー寄りにした感があって、これがずっと続くのはしんどいと、『死んだ山田~』はやや純文学寄りにしました。これまで作中の会話劇を褒められることが多く、自分でも書くのが好きだったので、ミステリー×会話劇でできることは何だろうと考えたんです。人が死ぬと会話が重くなって軽快なやりとりは書けない。人が死んだのに明るくしゃべるためには? と考えてできたのが、〈死んだ山田がスピーカーに憑依する〉という設定でした」
「大学卒業後、会計士として監査法人で働いていました。決算期は忙しいけれど、そのぶん長期休暇を取れる職場だったので、小説は2週間くらい休暇をとって、一気に書き上げることが多かったです。スピーカーの設定を思いついたのが2022年の8月で、1か月くらいプロットを練り上げて、9月から書き始め、翌年2月中旬で初稿を書き上げました。締め切りが2月末だったので、推敲は2週間程度です」

「最終稿が第11稿なので、全部で10回改稿しました。第5稿くらいまではストーリーラインをがらっと変えるような大改稿で、ラストを変えたり、人物を足したり引いたり。そこから先はひたすら完成度を高めていく研磨の工程。途中、本当にこれは完成するんだろうか、と思い詰めたこともありました」
「エンタメ畑に入って日が浅く、エンタメの作法を全然わかってなかったので、基本的にどのアドバイスも『ごもっとも』と頷くことばかりでした。たとえば、ラストシーンは初稿ではもっと純文学寄りで淡々としたトーンだったんです。でも、ちゃんと盛り上げたほうがいいのでは? と意見をもらって、書いてみたら、本当によくなりました。唯一我を通したのは文体。私は、会話と会話の間の地の文を連用形でとじることが多いのですが、一文一文を『。』で終わらせるような、エンタメ的に読みやすい文章にしませんか? と提案されたときは、これまで10年、この文体でやってきたので……と、編集さんに時間をもらって話し合い、一部はママにさせてもらいました」

「エンタメ作家としてやっていくためには、長編を年2作は出したいと思って、辞めました。士業のよいところは、ダメだったらいつでも復帰できるところです。作家志望は手に職がおすすめです」
「やっぱり、私の書いてきたものはエンタメ寄りだったんだろうな。これまでも、同志から『エンタメ的だね』と言われることがありました。純文学の賞って、〈面白い〉〈考えさせられる〉くらいじゃとれない。もっと切実さを伴っていなくちゃいけなくて。私も私なりにどの作品も切実な思いを込めているんですが、きっと文体が軽いから読み味に重みが足りないと思われていたのかな。『死んだ山田と教室』は自分がずっと抱えてきた『生と死』について書いた小説です。私の思いを私の思う形で表現できる場所がエンタメだったんだと思います」

「商業デビューをしてなくても、自分が小説家だと思ったら、それは小説家だと思います。自分は商業デビューしましたが、だからといって、自分の作品がアマチュアの人たちの作品に比べて優れているとも思いません。なんでこの人がデビューできないんだ? っていう才能をたくさん見てきました。アマチュアにも素晴らしい書き手がたくさんいるっていうのは発信しておきたいし、絶対に忘れちゃいけないなって思います」

▼須藤古都離さん

※下記記事より抜粋

大庭 昨年のメフィスト賞を受賞した本作は、デビュー作にもかかわらず、早くも各メディアから注目を集めています。これまでにも、いろいろな文学賞に応募されていたんですか?
須藤 4年前、初めて書いた長編をハヤカワSFコンテストに応募しました。1次は通ったんですけど、2次には引っかからず。そのときに編集者の方から、アイデアはいいけど読みづらいと言われて。そこから文章の読みやすさを徹底的に追求して本作に至る感じですね。
大庭 下読み選考の際、この作品はとにかく読みやすくて驚きました。僕は最初からこの作品を推していたんですが、蓋を開けたら満場一致での受賞でしたね。
須藤 嬉しいです。プロとして、最後まですらすらと読み終えてもらえるエンタメ小説を書こうと決めているので。

大庭 大学卒業後は、一度就職されているんですよね。
須藤 ええ。もともと小説は趣味程度で、短編を書いてSNSに載せるくらいだったのですが、会社を辞めて、何か新しいことをやりたいなと思って本格的に書き始めました。実は、書けばすぐにデビューできるだろうと軽く考えていたんですよ(笑)。

大庭 本作の着想はどういうところから生まれたのですか?
須藤 この作品は、3作目になるんですが、その核となるアイデアは1作目からあったものなんです。そのときのテーマは「進化」でした。たとえばサザエなんかは、波に流されないよう岩にくっつくための角が、波の静かなところだとその世代で伸びなくなったりする。そんな急速な進化がもし人間に起きちゃったら、社会はどう変わっていくのだろうと。
「進化」から「人間と人間を分けるものは何か」「人間の権利とは何か」とだんだんテーマが膨らんできた感じです。
大庭 ゴリラが進化して人間と同じ思考と会話力を持ったときに、「人間と何が違うのか」という話に発展するわけですね。
須藤 僕は大学時代、あまり小説は読んでいなくて、主にビジネス系や生物化学系の本ばかり読んでいました。なかでもすごく印象に残っていたのが、ナシーム・ニコラス・タレブの『ブラック・スワン』です。金融関係の本ですが、何か一つ、今までの常識を覆すことが起きたら、世界がガラッと変わってしまうという話で
コロナ禍がいい例ですよね。ウイルスの影響で、一気に世界中の人の暮らしが変わってしまった。白い白鳥の中にポンと黒い白鳥が出てきたら、社会の常識が全部崩れてしまう、そんな瞬間を自分の言葉でわかりやすく小説にしたいと思って書きました。

大庭 小説しか読んでこなかったら、こんな突飛な設定の作品は生まれなかったかもしれません。
須藤 もし動物が話せたら、今の社会はどうなってしまうのか。ゴリラが会話できるというその一点だけでは、この作品はSFと呼ぶには弱いんですが。
大庭 SFの道具だけを借りたエンタメ小説ですよね。でも、動物が喋るという設定は、ほとんど類を見ないと思います。『吾輩は猫である』は猫の語りで話が進みますが、人間と会話するわけではないですからね(笑)。

大庭 『ゴリラ裁判の日』というタイトルだけを見ると、ナンセンスな面白さを追求した作品かと思われそうです。
でも、この作品のすごいところは、荒唐無稽な設定だなぁと訝いぶかしみながら読んでいるうちに、どんどん違和感が消えていく。本当にこういうことが起こるかもと思えてしまうほど、リアリティがあるんですよね。
須藤 それは、主人公のローズに一人称で語らせているのも大きなポイントでしょうね。主人公のゴリラを客観的に三人称で描くと、物語に没入してもらうのは難しかった思います。
あと、ゴリラが人と会話するという設定以外のことは徹底的にリアリティを追求して、地に足が着いた小説を目指しました

大庭 単行本刊行に際して、世界的なゴリラ研究者の山極寿一先生に監修していただきました。ゴリラのジャングルでの生態などは詳しすぎるほどに書かれていますよね。
須藤 ジャングルではこういう掟があって、野生の動物はこういう思考回路で生きている、人間とはこう違うんだというのを体の中に沁み込ませていくと、後半で人間の生活を見たときに、「あれ?」となる。今まで見えていなかったいびつな部分が客観的に見えてくると思うんです。
大庭 そのためにも、必要な部分だったわけですね。
須藤 はい。僕はまず、人間が描きたくて、そのためには外から書きたかった。人間以外のものを背景にして、外側から人を見る必要があったんです

大庭 物語のクライマックスは、やはり裁判の最後でのローズのスピーチですよね。「たとえ私が貧しくとも、私は人間である」で始まって、「たとえ私が〇〇でも」と何回も続けて、最後に「たとえ私がゴリラでも、私は人間である」と締める。
この一言のために書かれた物語なのだろうと思いました。
須藤 あれはアメリカの公民権活動家・ジェシー・ジャクソンの有名なスピーチを、この作品に合う形で僕なりに翻訳したものです。人間とそうでないものの違いは何なのか、とても考えさせられる言葉ですよね。
大庭 昔、奴隷としてアメリカに連れて来られた黒人、選挙権がなかった女性、これまで多くの虐げられた人たちが権利をつかみとってきた歴史を想起させる、感動的な場面です。
須藤 主人公はゴリラですが、ゴリラにまったく興味がない人にも感情移入してもらえたら嬉しいです。

■傾向

  • 受賞作は本格推理もあればライトノベルに近いもの、純文学風のものなど幅広いが、ミステリー作品が多い傾向。

  • 各編集者ごと小説の見方や嗜好が多様で、編集長に気に入られていない作品が受賞することも。

  • 重視されている点のひとつとして、グイグイと最後まで読み進められるかどうか。ラストにどれだけおもしろさや驚きがあろうとも、途中がつまらなかったら厳しい。一般読者として楽しむための読書だったとしたら読むのを止めていたかもしれない。最初の数ページをどうおもしろく見せるのかも重要。読者が店頭で立ち読みしたときに、2、3ページおもしろければ興味を持ってもらえる。冒頭でどれだけ読み手を引っ張れるかは気にしています。

    • 「何かが起きている途中」から始めるのがコツ。「こんなことがあります、だから次にこういうことが起きます」と書くのは丁寧だけど、前提の「こんなことがあります」の時点で退屈してしまうかもしれない。だったら「今まさにこういうことが起きてしまってるんですよ!」から始めてしまう。「それはこんな理由で起きたんです」の説明は後からでもいい。

  • メフィスト賞は「一作家一ジャンル」。「これは私にしか書けません」という、強い思いと新しさがあるものを求めている。「先行作から影響を受けているけれど、この作家で読みたい」と思わせるものが欲しい。ただし、ひとりよがりにはならず、他人を楽しませるもので。「自分がこのジャンルを背負うんだ!」「ジャンルの未来を創るんだ!」と思わないと、数作、下手すると一作だけ出して終わってしまう。「これから10年、20年やりたいんだ」という想いで書いてきてほしい


■講評指摘傾向

上記記事の一次通過作講評について、似通った指摘点をまとめるようチャットGPTに指示したもの。正確性は期待しないよう。

  1. 構成の一貫性欠如:物語の構造がまとまりがなく、読みづらいと指摘されています。

  2. キャラクターの深み不足:キャラクターが十分に描かれておらず、共感しにくいとされています。

  3. 不自然な対話:対話が自然ではなく、キャラクターの発展や物語の進行に貢献していないとのことです。

  4. ペースの不均一:一部が冗長で他の部分が急ぎすぎているという、ペースのばらつきが指摘されています。

  5. 文法エラーと不自然な文:文法的な誤りやぎこちない文章構造が読書体験を妨げているとされています。


修正履歴

※2024/7/18 原稿用紙枚数に関する下記記載に誤りがあったため、削除
「また、原稿用紙は85~180枚なので、応募前に自分の作品のボリュームを確認しておく必要がある。」→現在は上限なし

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