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家のハムスターの態度がでかすぎるけど、なんだかんだと助けてくれるからしょうがない?4

第三話 届かない手紙 1

 本日も柊探偵事務所は平常運転だ。朝目覚め、ペット兼神様のハムスケにちょっと高級なヒマワリの種を与え、客間の掃除をする。ちなみに俺はめんどくさいので朝は速攻チャージ系のものを摂取している。

 そうこうしているうちに本日のお客様がやって来た。鳴らされるインターホンの音に急かされるようにお出迎えをする。

「ようこそいらっしゃいました。中へどうぞ」

 俺はドアを開けるとともにいつも通りの挨拶を繰り出した。ドアの先に立っていたのはこの間の女の子とは違い、歴とした大人の女性だった。女性の年齢を推測するのは失礼かもしれないが、おおよそ30前後だろうか?

 良かった、ちゃんと依頼料を分捕れる! 俺は内心ガッツポーズをして客間に案内した。

「それで本日はどのような依頼で?」

 思いつめたような表情の女性は、一度深呼吸をしてから口を開いた。

「はい。遠方に住む親戚の叔母から毎月手紙が届いていたのですが、ここ三か月のあいだ全く届かなくなったのです。今まで一度たりとも欠かしたことは無かったのに……」

 ふむ……いささか妙な話しだ。昔ならともかく、今のご時世メールや電話ではなく手紙のやり取りをする二人。それも毎月欠かさず、しかもその相手が叔母と来たものだ。

「そうですか……ちょっと気になったのですが、貴女とその叔母はどのようなご関係で? 親戚と毎月手紙のやり取りをするというのはあまり馴染みが無いもので」

「そう……ですね。叔母と私の家族はもともと家が近所でした。私が小さいときには、よく叔母の家に預けられていたりして、幼少の頃から良くしてくれていたんです。しかし、父の転勤でこの町に引っ越してきたのが15年前。前は一年に一回はどちらかが会いに行っていたのですが、叔母も訳あって田舎に引っ越したこともあり、段々と会う機会がなくなりました。叔母は携帯などはあまり好まず、持っていなかったので、毎月月初めに一か月の間のことを手紙でやり取りするようになりました」

「そしてそれがここ三か月途絶えていると?」

「はい」

 女性は軽く頷いた。事情は分かったが、依頼してくる理由が分からない。別に手紙以外にも連絡手段はあるはずだ。

「携帯をお持ちでなくても家の電話ぐらいありますよね? 連絡などは……」

「当然何度もかけましたが、電話には一切出なかったです。流石に心配になって家まで行ってみましたが留守のようでした」

 女性は淡々と説明をしてくれてはいるが、内心心配で仕方がないのだろう。太ももの上で強く握られた彼女の両手がその証拠だ。

「分かりました。では依頼内容は叔母様が今どうしているかの調査ということでよろしいですね?」

「お願いします。お礼は出来る限りお支払いしますので」

 依頼人の女性、千里さんは名刺を俺に差し出し、頭を深々と下げて事務所を去っていった。

「なあどう思う?」

 俺は隣で高級ヒマワリの種を頬張るハムスケに聞いてみた。ハムスケはいつも聞いてないようでいてキチンと話は聞いているのだ。

「どうって言われてもな~死んでんじゃないの?」

「神様がそんな簡単に死亡判定するなよ。まあ可能性は無くはないが……」

 俺は腕を組んで考え始める。正直死んでる可能性だって無くはない。あの女性の口ぶりから叔母は一人暮らしだろう。もし誰かと同居していたのなら、その人に連絡を取ろうとしたはずだ。それが無いということはおそらく一人暮らし……

「あんまりマジに捉えるなよ、冗談だ冗談! ガハハハッ!」

 ハムスターとは思えないぐらい豪快な笑い方をするな~コイツ。まあ良いか、とりあえず動かないことには何も分からない。俺はソファーから立ち、上着を羽織る。そして旅支度を始める。今回の行先は遠いのだ。

「行くのか?」

「ああ勿論。今回は依頼金けっこう分捕れそうだし!」

「お前って金に汚いよな……もっと欲を捨てろよ、我のように!」

「どの口で言ってやがる。良いか? 小学生の依頼や年寄りの無料相談ばっかやってたら生活できないんだよ! けっこうギリギリなんだぞ! 手始めにお前のヒマワリの種のグレードを最下層まで落とすぞ?」

「やっぱりお金は大事だよね! 守銭奴バンザイ!」

 ハムスケは一瞬で旗色を変えて万歳をし始めた。本当に神様ってこんなんで良いのか?

「ほら、お前も来い」

 俺は抵抗するハムスケを掴むとポッケに入れる。

「なんでこの我までがそんなババアの捜索などせにゃならん?」

「別に置いて行っても良いが、件の叔母の家ってめっちゃ遠いから泊りになるぞ? 良いのか? 誰もお前に餌やら水やらくれないぞ? テレビも見れないで、このだだっ広い事務所にポツンとおいてっても良いのか?」

「ごめんなさい我が間違っていました! おいてかないで~」

 ハムスケはさっきとは打って変わって俺のポケットにしがみつく。なんとか一人称を我に保って威厳を示そうとしているようだが、カッコ悪いったらありゃしない。

「分かればいいんだよ。行くぞ」

 俺は高級ヒマワリの種と、お供のハムスケを連れて事務所を出発した。

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