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家のハムスターの態度がでかすぎるけど、なんだかんだと助けてくれるからしょうがない?5

第三話 届かない手紙 2

 自宅兼事務所を出発して数時間、現在俺達は新幹線の中にいる。貰った住所はかなり遠くお泊り確定の距離だった。

「なあ和人? 豪華な旅館にでも泊まるのか?」

 ハムスケは期待に目を輝かせて胸ポケットから俺を見上げる。どうやらハムスケは上目遣いを覚えたらしい。

「金が無いって言ってるんだからそんなわけないだろ。カプセルホテルだよ」

 目に見えて落ち込むハムスケをよそに新幹線は走り出す。行き先は新幹線で3時間ほど進んだ後、ローカル線でさらに2時間、そこからバスだ。実入りが良くなかったら絶対に行きたくない場所だが、依頼だから仕方がない。

 乗り継ぎを繰り返して到着した目的地は、寂れた村という表現が一番しっくりとくる。最寄駅からここまでのバスは、一日に2本しか走っていない。そういうところに住んでいるのが今回の依頼の叔母さんだ。

 俺は胸ポケットでいびきをかいて寝ているハムスケを突き起こし、叔母さんの家に向かう。もう夕暮れが迫ってきている。あまり時間がない。街灯もほとんどないこの村で夜にうろつくのは遠慮したい。

「なんかでそうだな」

 ハムスケがニヤニヤしながら俺の顔を見る。

「奇遇だな俺もそう思ってたところだ。だから言葉にしないでくれ。一応神様であるお前が言葉にすると、本当に出てきそうで怖いんだよ」

 もしこの世に言霊なんてものがあるのなら、ハムスケの迂闊な発言で現実になりそうで怖い。

 俺達は寒さと不気味さでブルブル震えながら歩き続け、ようやく辿り着いた。

 まさかのインターホンがついて無かったので、引き戸のドアをノックした。するとゆっくりとした引き摺るような足音が近づいてきた。

「こんなところにお客さんなんて珍しいわね。いったいどなたかしら?」

 俺はこの叔母さんに、これまでの経緯を話した。千里さんの名前を伝え、手紙が滞っていることや何度も電話したこと、実際に彼女が訪ねて来ているはずだが留守だった件などだ。

「ああ、手紙ね。忘れてたわ……それと電話はちょっと前から壊れてたみたいで、音がならないのよ」

 電話や手紙の件を伝えた時、叔母さんは明らかに動揺した風だった。俺が千里さんの名前を口にした時、じっくりと叔母さんの挙動を観察していたが、どうも様子がおかしい。ただ忘れていただけを装っているが、実際に知らなかったのでは? という疑問が俺の中で浮上する。

「そうですか……今日はもう日が沈みますので明日の朝、お伺いしてもよろしいですか?」

「あらそうなの? まあ良いわ明日ね」

 そう言って叔母さんは家の中へ戻っていった。

 俺はそのまますぐには帰らず、この家の周りを一周した。道から見える庭には小さな畑のようなものがあるが、ほとんど手入れもされておらず、植えてあったであろう野菜のようなものは腐っていて原型をとどめていなかったし、雑草も生え放題だ。郵便ポストは錆付いているうえに、いつからの郵便物か分からないような古い郵便物が大量に詰まっていた。

「なあハムスケ」

 俺はホテルへの帰り道、考えながらハムスケに意見を聞きたくなった。

「どうした和人」

「あの叔母さん怪しくないか? 千里さんの名前も、手紙のことも、忘れてたなんてごまかしてはいたけど、あれって忘れてたんじゃなくて知らなかったんじゃないのかな? そう思えてきちゃったんだ。軽い気持ちで受けた依頼なんだけど、けっこう大事になりそうな気がして……」

 もしかしたら叔母さんはとっくに死んでいて、誰かがなりすましている可能性だって……

「それで、あの叔母さんを名乗る女性は別の人がなりすましてるんじゃないかと?」

「我ながら突拍子もないことだって分かってるけどさ……この村にある家、こんなに暗くなっても明りがついている家なんてほとんどないし、バスも一日に2本しか無い。しかもここってほとんど山の中腹だろ? 俺達が泊まるホテルだってここから歩いて一時間以上かかるし、このあたりのホテルはそれしかない。これだけ閉ざされた環境だったら、住人の一人が入れ替わっても分かりっこないだろ?」

 正直に言うと俺はこのまま帰ろうかとも思っていた。帰って千里さんに失敗の報告をしていつもの日常に戻る。全然悪くない選択肢だと思えた。もし本当に俺の予想通りだった場合、一個人がどうこう出来るような話では無い。警察沙汰だ。

「和人はどうするんだ? このまま帰るのか? それとも明日約束通りさっきの家に行くのか?」

 試すようなハムスケの視線、いつもいつも俺の内面を見透かしているようなそんな目だ。こうやっていつも二択を迫ってくる。

「そんなの決まってる! 行くさ! ここで見過ごすなんて出来ない」

「なら良かった。明日行けばあの叔母さんの様子も変わっているかも知れないぜ?」

 ハムスケは不敵な笑みを浮かべてウィンクをする。というかハムスターってウィンク出来るんだ……

「妙にやる気じゃないか。どういう心境の変化だ?」

「なんてことはない。単純に高級ヒマワリの種が惜しいのさ」

 ハムスケはカッコつけて言っているが、まったくカッコよくなく、むしろダサいに分類される。まあでも、コイツのヒマワリの種のためかどうかはおいといて、千里さんのためにもこのまま帰るわけには行かない。明日、必ずあの偽物の正体を暴いてやる!


 そうして山奥の暗い夜道を、一人と一匹はホテルに向かって歩き続けた。


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