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家のハムスターの態度がでかすぎるけど、なんだかんだと助けてくれるからしょうがない?3

第二話 猫探しの依頼 2

 しかし、消えてしまったみたいですねなんて報告をできるはずもないので、もう少し聞き込みを続けると偶然通りかかった女子高生が、公園で昨日見たという。俺は女子高生にお礼を言い、公園へ急いだ。

 それから俺とハムスケは手分けして公園内を捜索したが見つからなかった。ハムスケは「なんで我がこんなことを……」とグチグチ文句を垂れていたが、それでも協力してくれた。

「やっぱそう簡単に見つからないか……」

「そりゃそうだろ」

 俺達は公園のベンチに座り一休みしていた。さっきから思っていたことだが、この公園人がいなさすぎないか? 今日は休日だぞ? 

「それにしてもどうして人のいない公園なんかに……」

 俺は愚痴をこぼす。人がいないところに行ったらご飯も貰えないはずなのに、大食いのピーちゃんがどうして……

 俺が考え込んでいると、隣のハムスケが急に声を張った。

「案外鈍いやつだな、良いか? 猫が姿を消すときはどういう時か考えろ」

 猫が姿を消すとき…………死ぬときか!! 

 昔から猫は自身の死期を悟ると姿を消すと言われているが、実際にはそうではない。猫は死ぬために消えるわけではない。猫は死ぬほど体調が悪い時、誰にも邪魔されずに回復するために姿を消す。

「……ピーちゃんはこの近くで弱っている?」

「流石名探偵だ」

「お前馬鹿にしてるだろ?」

「さあ、どうだか? まあでも我としてはそのままくたばって欲しいものだがな」

「なんでだよ」

「馬鹿め、考えてもみろ。商店街での聞き込みではピーちゃんとやら、恐ろしいほどの大食いではないか! 大食いの猫なんてネズミからしたらたまったもんじゃない!」

 ハムスケは体をブルブルと震わせながらそう呟いた。そう言いつつも、なんだかんだ捜索に協力してくれるのだから素直じゃないな。

「公園でもさらに人が寄ってこないところか……」

 視線をあげると公園の反対側に草むらが広がっている。そのまま360°見渡すと、この公園は木々に囲まれていることに気が付いた。

「マジか……」

「どうする? 諦めるか? 依頼を達成してもどうせはした金しか貰わないのだろう?」

 ハムスケはどこか試すような口ぶりで俺を見据える。

「やるさ、途中で投げ出すなんて出来やしない!」

 そうして人が入ってこない木々のあいだや草むらを手当たり次第に探しはじめる。

 ほとんど探し終わったあたりで、気がついたら日が傾きかけていた。

「もう何時間たった? なあそっちは見つからないのか?」

 俺はハムスケに声をかける。第三者から見たら完全に痛い人だが、この際どうだっていい。

「おい、ハムスケ返事をしてくれ」

 ここで探す対象が2匹になるのは流石に勘弁してもらいたい。俺は必死になってハムスケがいたであろう場所を捜索すると、草むらからハムスケが飛び出してきた。

「早く返事をしろよ! 心配したじゃないか!」

「悪い悪い」

 ハムスケは悪びれもせず短い手で俺をバシバシ叩く。

「そっちは見つかったか?」

「いたぞ、そこの茂みの中だ」

 ハムスケの指さす先には、茂みがうまい具合に空間を覆い隠していた。その茂みをどけると、そこにはピクリとも動きそうにないピーちゃんが倒れていた。俺は振り返り、ハムスケに疑いの目を向ける。

「違う違う我じゃない。やってない! とどめさしてない!」

 ハムスケは焦り散らかしながら弁解をしているが、俺だって本気で疑ってなどいない。

「冗談冗談。俺は朱里ちゃんたちを呼んでくるけどハムスケは?」

「我はここで見張ってるさ。死体を持っていく不届き物が来ないか見張っておいてやる」

 俺はハムスケをおいて走り出した。彼女たちになんて言おう、死んでいたと言うしかないのか? 俺は息を切らしながら寒空の下走り続け、ようやく朱里ちゃんが待つ家の前に辿り着いた。インターホンを鳴らそうとした時、急に扉が開き、朱里ちゃんが出てきた。

「見つかったの?」

 彼女は玄関で待っていたのだ。ずっとでは無いにしろ、期待と不安が入り混じった気持ちで待っていた。そして走る俺の姿を確認して、飛び出してきた。俺はそんな彼女に死んでいたなどと言わなければいけないのか……

「ちょっと来てくれますか?」

 俺は朱里ちゃんの後ろから現れたお母さんに声をかける。

「わかりました。車を出しますので乗ってください」

 朱里ちゃんのお母さんは、俺の表情から事情を察したようだった。おそらくいい知らせでは無いと悟ったのだろう。

 俺達は車に乗り込み、ハムスケが待つ公園へと急ぐ。車内には重い空気がどんよりと広がり、誰も何も言わなかった。事情を察しているお母さんはともかく、朱里ちゃんまでが子供ながらに空気を読んでいるのか、一言も発しなかった。

 車が公園に着くと、俺は2人を案内してピーちゃんの眠る茂みへ向かう。もう日が暮れ、公園を照らすのは街灯の明りと、俺の持つ懐中電灯だけだった。もうすぐ茂みに着こうかというタイミングで、猫の鳴き声が聞こえた気がした。

 ……他の猫か?

 そして目の前の茂みが揺れたかと思うと、中からピーちゃんそっくりな猫が飛び出してきた。というよりピーちゃんそのものだった。

「ピーちゃん!!」

 朱里ちゃんは涙を流しながら、ピーちゃんに駆け寄り抱きしめた。お母さんはそれを後ろからただただ優しく見つめていた。

 対して俺は少々面食らっていた。さっき確認したとき確かに死んでいたはずだ。仮に死んでいなかったとしても、こんな風に茂みから飛び出したりできるはずがない……いったい何が起きた?

 考え込む俺は、急に肩に重量を感じた。自分の肩を見ると明らかに疲労困憊状態のハムスケが乗っていた。そしてそのまま胸ポケットに移動すると、グーグーと寝息を立て始めた。いったい俺がいないあいだに何があった? だってコイツ、ピーちゃんを見てただけだろ? 一体何に疲れたんだ?

「あの……」

 思考の海に沈んでいた俺の意識を呼び戻したのは、朱里ちゃんだった。

「和人さん、ありがとうございました!」

 朱里ちゃんは頭を下げると、次の瞬間にはピーちゃんを抱えて走り出していた。そんな娘を見ながら、今度はお母さんが近寄ってきた。

「ピーちゃんが無事で良かった。私てっきりもう助からないのかと思ってしまって……」

「ああすいません。紛らわしい態度を取ってしまって……サプライズをしたかったんですよ」

「面白い探偵さんですこと。それと、こちらがお礼になります。お世話になりました」

 朱里ちゃんのお母さんは俺に頭を下げ、娘を追いかけて行ってしまった。

 さっきは咄嗟に嘘をついたが、ピーちゃんが生きていて一番驚いているのは俺だったりする。まあでも、無事に解決して良かった。猫も死ななかったし……なぜ生き返ったのかは、なぜか疲労困憊しているハムスケを後で問いただすとしよう。


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