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家のハムスターの態度がでかすぎるけど、なんだかんだと助けてくれるからしょうがない?7

第四話 真のストーカー 1

 俺は今、喜びをかみしめながらもそれを表に出さないように必死だった。

 場所はいつも通り自宅兼事務所の客間、向かいの席には非常に整った顔の女性が座っている。しかし、俺が喜んでいるのは依頼人が美人だったからなどでは決してない。俺が喜んでいる理由はその依頼内容にある。

 依頼人は近くの大学に通う佳代さん。どうやらストーカー被害に遭っているらしい。

「そのストーカー行為を感じたのはいつ頃からですか?」

「大体一週間ぐらい前からです。講義が終わって、大学を出てからずっと付き纏われるような感じがして……」

 佳代さんは伏し目がちになりながらゆっくりと絞りだすように答えた。その様は本当に綺麗で繊細だった。

「答えづらいかもしれませんが、実際にストーカーを見たとか、何かされたとかはありますか?」

 ここが肝要だ。これがあるかないかで難易度がかなり変わる。

「姿は見てないです。ただ背後から嫌な感じの視線を感じるんです。私は怖くて後ろを見れなくて……」

 決定だ。難易度がくそ高い。本当は佳代さんの自意識過剰という風に話を持っていきたかったが、ストーカー自体はいそうだと感じた。単に彼女が美人だからストーカーぐらいいそうとか、そんな安直な理由ではない。

 彼女のように目立つ容姿をしていると、周囲の視線を集めるのには慣れっこだ。そして慣れているがゆえに人の視線には鈍感なのだ。そんな彼女が嫌な感じの視線を感じるのだとしたら、それを気のせいだと断じるのは軽率だと思う。

「ただ……」

「ただ?」

「不思議なのが学校から家までのあいだは、ずっとその嫌な視線は続くんですけど、家についてしまってからは特に何もしてこないんです。もしかしたらタイミングを図っているだけかも知れませんけど……」

 そう言う彼女は軽く震えてはいたが、意外と落ち着いていた。これだけ美人だと、もしかしたら過去にもこういった経験があるのかもしれない。しかし、いくら彼女が落ち着いていたとしても、家まで特定されているのであれば急がなくてはいけない。

「分かりました。では明日、俺が遠巻きに佳代さんを見張りますので、佳代さんはいつも通りに帰宅してください」

「分かりましたお願いします」

 佳代さんは俺の提案に安心したのか、ほっとした表情を見せて事務所を後にした。

「ストーカーを発見するついでに彼女の家も発見しようって魂胆か?」

 ハムスケは彼女が事務所から出ていくなり口を開く。今回は、お客様用のティーカップでお湯につかりながらの登場だ。ハムスケは、いつもこの事務所にあるもので遊んでいる。遊びながら依頼内容もしっかり聞いているのだから、怒るに怒れない。

「余計なところに気が付くなよハムスケ」

「じゃあそういう下心は無いと?」

「無いよ。家だけ知ってどうするのさ」

「そりゃそうだ」

 ハムスケはティーカップからあがると、体をタオルで拭きながらテレビを観始めた。

 翌日、俺達は近くの大学の校門が見える場所にいた。この大学から佳代さんの家までのあいだは大通りに面しているため、俺とハムスケは大通りを挟んだ反対側にいた。

「もしもし和人さん? そろそろ校門を出ます」

「了解。怪しまれないように自然にね、切るよ」

 俺は佳代さんからの電話を切り、校門に意識を集中する。適切な距離を取りながらも、依頼人に何かあった際にはすぐに助けに行ける適切な距離を保たなくてはいけない。まるで探偵のようだと思った瞬間、なぜか虚しくなった。

 佳代さんが校門から出てきた。今のところ変な奴は見当たらない。俺達は大通りの反対側から怪しまれないように、自然に見張る。

「今のところ特に問題ないな」

「良いことじゃないか」

 ハムスケは呑気にヒマワリの種をかじっている。緊張感の無い奴だ。

「一応仕事中なんだが?」

「これは和人の仕事であって、我の仕事ではない」

 クソみたいな理論だが、確かにハムスケの言う通りだ。言う通りだが……

「家賃分は働け」

「へいへい分かったよ」

 俺とハムスケがくだらないやり取りをしているあいだも、怪しい人は見当たらなかった。

 かれこれ15分ほど歩き続けたか……佳代さんの家まで歩いておおよそ20分といったところだ。そして大通り沿いを歩くのはここまでだ。ここからは路地に入り込む。ここからが正念場だ。

 俺達も大通りを渡り終え、佳代さんが路地に曲がって入っていった時、校門近くで見かけた男がかなり距離を取ってついてきていることに気が付いた。

「アイツあやしいな」

「そうだな。声でもかけてみれば?」

 ハムスケは他所事のような投げやりっぷりだった。

「だな。でも一応佳代さんが家に入るまで待ってから動こう」

 俺は、路地の曲がり角で電話するふりをしながら佳代さんと、それをつけてきている怪しい男両方に注意を払う。佳代さんは自宅であるアパートの外階段をゆっくりと昇っていく。一瞬佳代さんと目が合った。おそらく例の嫌な感じの視線を感じているのだろう。

「もしもし和人さん? どうですか?」

 佳代さんが家に消えていった直後、佳代さんから電話がかかってきた。

「一人怪しい男を見つけました。ただストーカーにしてはあまりにも距離をおいていたので、ちょっと様子見中です。佳代さんが家に入られた後、その男は今佳代さんのアパートがある道をゆっくりと進んでいます。ちょっと声をかけてみますね」

 俺はそう言って電話を切るとストレッチを始める。

「やる気満々だな」

「最近全力で走ることってないからね」

「運動不足め。太るぞ」

「お前にだけは言われたくない」

 ハムスケは俺が走り始めても大丈夫なように、胸ポケットの内側にしがみついている。よし! 行くか!

「あのちょっと良いですか?」

 俺が話しかけた瞬間、男は血相を変えて走り出した。

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