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家のハムスターの態度がでかすぎるけど、なんだかんだと助けてくれるからしょうがない?48

最終章 本当の奇跡

「ここは?」

 俺はゆっくりと目を開ける。

 確か俺は相手に撃たれて……死んだはずじゃなかったか?

 自分がまだ生きていることを確認して、首をゆっくり左右に動かし、部屋の中を見渡すと、ここがどこかの病院のベッドの上だと分かった。

「痛ってえ~!」

 体を起こそうとした時、腹部に激痛が走った。

 冷静になれば当たり前のことだ。

 腹に銃弾を受けて、生きているだけで不思議なのだから体を動かせるわけがない。

「あの時、どうだったんだっけ?」

 俺がそう思案していた時、病室のドアが開き、警察と一緒に岡崎医師が入ってきた。

「目が覚めましたか! 本当に良かった!」

 岡崎さんは本当に嬉しそうに、そして驚いた様子で俺を見る。

「あの後、どうなったんですか?」

 俺は岡崎さんと刑事さんに尋ねる。

「実は通報が入ってね、君が銃で撃たれたあのアジトで銃声がしたと。我々も最初は悪い悪戯だと思ってはいたが、万が一があるとまずいので現場に急行したら、ちょうど中から銃声が聞こえた。だから焦ってドアをぶち破り、中の人達を取り押さえたんだ。そして血を流して床に倒れている君を発見し、この病院に連れてきた」

 刑事さんは簡潔に説明をしてくれたが、どうも時系列がおかしい。

 銃声が鳴ったのは俺と組長が発砲したタイミングだけだ。

 それ以前に銃声なんて鳴ってない。

 仮にあの銃声の直後に警察に近所の人間が通報したとしても、警察の突入までが異常に早すぎる。

 意識が朦朧としていて覚えてないが、確か玄関のドアが強引に開かれたのは俺が撃たれてすぐだったはず。

 ということは、通報者は事前にあの場所が危険だと知っていた人物ということになる。

「そういえば一人称が独特な人だったな~」

「一人称?」

「ええ、今まで長く生きてきて、自分のことを”我”なんていう人初めてでした」

 ああ、ハムスケの奴……やっぱり気が付いていたんだ。

 あの時階段を登っている時、俺がそのあとすぐにあの家に向かう事、そして死ぬかも知れないこと、諸々分かったうえであの態度だったのか……

「いや~それにしても良かったよ無事で! 今まで何人もの人を手術してきたけど、あの状態から復活するなんて”奇跡”だよ!」

 岡崎医師は興奮した様子だった。

 彼は親父とよく組んで仕事をしていた。

 当然若くない。経験だってそこらの医師よりよっぽど積んでいるはずだ。

 その彼が”奇跡”と言い切るということは、よほど危険な状態だった。もしくは絶望的な状態だったということだ。

 そこまで聞いて俺は寒気がした。

 俺は奇跡を起こせる神様を知っている。

 それも結構身近にいたりする。

 そして起こす奇跡のレベルに応じて、その神様が疲弊していたのを知っている。

 もしも俺の死の運命を変えてしまったとしたら?

 アイツはどうなる?

「ああ……俺はバカだ……」

「うん? 何か言ったかい?」

 どうやら俺の声は、存外に小さかったようだ。

「いえ、なんでもありません」

「そうか、なら良いんだが……一週間はここで入院していなさい」

 そう言って岡崎医師は、刑事さんと一緒に病室を後にした。

 彼らが病室を去り、部屋には再び静寂が舞い戻る。

 アイツは、ハムスケは大丈夫だろうか? いつも強がって奇跡を使っているのは知っているんだ。

 ハムスケがちょくちょく言っていた、奇跡の条件ってやつも本当は分かっている。

 俺のやる気の問題だ。つまりハムスケが助けてやろうと思えば、奇跡は発動する。

 要するに神様の、ハムスケの気分次第。本当は奇跡の条件など無かったんだ。

 アイツはああいう態度を取りながらも、俺が間違ったことをしないように、ちゃんと見ていてくれていたんだ。

 だから俺がやる気がないとか言っていた時は、奇跡による手助けはしなかった。

「ちゃんと考えてたんだよな~アイツ……無事だよな?」

 俺はそのまま目を閉じて眠りについた。


 一週間後

 俺は今自分の自宅兼事務所である建物の前に立っている。

 一週間ぶりの帰宅だ。

 俺自身病室からは出れなかったし、病室内は携帯は使用禁止だったため、久しぶりにハムスケの声を聞くことになる。

「ただいま~」

 俺はゆっくりと一週間ぶりの我が家に帰ってきた。

 事務所の中はシーンとしていて物音一つしない。

「ハムスケ~どこだ~」

 まだ完全には治ってないため、小さな声でゆっくりと部屋中を探す。

 探している途中から嫌な想像が頭をよぎる。

 まったく予想していなかったわけじゃない。むしろその可能性には気が付いていた。

 気が付いていて、それでも気がつかないようにしていただけだ。

「……やっぱりここにいたか……ごめんな……」

 俺の頬を大粒の涙が滴る。

 この涙は当分やみそうにない。

 かなり昔にネコのピーちゃんを奇跡で助けた時に、ハムスケがほとんど瀕死といっていいぐらい重症だったのを覚えている。

 ネコを救うだけであれなのだ。

 人間の俺を、しかも生存が絶望的なところからの復活を奇跡で行ったら……その奇跡の行使者は……どうなる?

 ハムスケは、俺が出かけ際に話した引き出しの一番下の段、ヒマワリの種が大量に保管されているところで息絶えていた。

 その体は冷たく、いつもの無駄に贅肉を蓄えたあのぬくもりはもう無い。

「本当に……ごめん……なさい……」

 俺は力無く床に膝をついた。

 ……俺のせいだ。

 俺がハムスケを殺した。死に追いやった。

 いつだって見守っていてくれていたのに……

 後悔しても仕切れない。

「せめてしっかり埋葬してあげないと……」

 俺は、冷たくなったハムスケをなんとなくいつもの癖で胸ポケットに入れる。

 何をやっているんだ俺は、そんなところに入れたら余計辛くなる。もしかしたらいつもみたいに動き出すんじゃないかと、そう幻想を抱いてしまう。

 俺はとりあえず庭に埋めることにした。

 体が本当に治ったら、ちゃんと動物供養にだすから今はこれで勘弁してほしい。

 それとも、我を動物扱いするな! と怒るかな?

「本当に……今までありがとうございました」

 俺は地面に両膝をついて目を閉じ、手を合わせる。

 初めてハムスケにキチンとお礼を言った気がする。

 いつもだったらこのタイミングであのウザがらみが始まるのに、今回は俺1人。


「ほう。ようやく我のありがたみが分かったか? 和人」

 どうやら俺は気でも触れたらしい。

 聞こえちゃいけない声が俺の肩の上から聞こえる。

 それだけじゃない。

 しっかり重さも温度も感じる……


 うん? 幻聴ならまだしも、重さと温度はおかしくない?

 俺は恐る恐る涙の止まない瞼を開き、重さの感じる方へ向く。

「よう和人、お帰り!」

 何かの間違いではないだろうか?

 なんでハムスケがここにいる?

「えっ! なんで? はぁ!? 死んでたよね? そうだよね?」

 俺は慌ててハムスケを埋めた場所を掘り返すと、そこに埋めたはずのハムスケはいなかった。

「そこにいるわけないじゃん! 我はここにいるんだから!」

 いやいやおかしい。

「もしかして死んだふり?」

 もしそうならふりのまま冥府に送ってくれる。

「うん? いや、ちゃんと和人の蘇生で死んだぞ、我は」

「じゃあお前は誰なんだ?」

「そんなの生き返ったに決まってんじゃん!」

 ハムスケは当たり前と言わんばかりに胸を張る。

「いつ?」

「いま!」

 それが出来るならとっとと生き返って欲しかったのだが……

「土に還るって言い方あるだろ? 和人が俺を土に埋めてくれたから、転生できたんだ!」

「タイミングについては分かったが……もうお前滅茶苦茶だな。生き物としての範疇を超えてるぞ?」

「だって我神だもん!」

 うん。そう帰ってくると思ってたよ。

「ちなみに今回の転生で27回目くらいかな~」

 ハムスターの平均寿命は大体2~3年だから……ほとんどジジイじゃないか!

 妙に昭和のセンスを持っていたのはそのためか。

「そうか……それでも、お前が生き返れるとしても、無茶をしてごめん。負担をかけてごめん」

 俺は深々と頭を下げた。

「おう! 和人! ようやく神を敬う気になったか!」

 どうやらハムスケ的には、今のは謝罪ではなく入信らしい。

 まあもう良いや! なんでも! コイツが元気でいてくれれば。

「またこれからもよろしくなハムスケ!」

「勿論だとも! また我を愛でろよ!」

 そうハムスケは、何も気にした風もなく普段通り接してくれる。


 これから何をするにしても、とりあえずは完治が先か……

 俺たちの探偵談はこれからも続く……かも?

最後に

 これにて「家のハムスターの態度がでかすぎるけど、なんだかんだと助けてくれるからしょうがない?」は完結となります。

 しかし和人が最後に、探偵談がまだまだ続くかも? と言っているようにまた再開する可能性もありますので、その際は再び読んでいただけると幸いです。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!   DANDY


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