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家のハムスターの態度がでかすぎるけど、なんだかんだと助けてくれるからしょうがない?8

第四話 真のストーカー 2

「待て!」

 俺は逃げる男を追って全速力で追いかけるが、逃げる男の足が早くて追いつけそうもない。近づくどころか、どんどん距離を離されている。

「おい離れて行ってるぞ?」

「うるさい!」

 俺は息も絶え絶えにハムスケを黙らすとそのまま走り続ける。しかし、いくら全力で走ろうとももともと持っている足の速さは変わらない。一向に距離を詰められない。

「やれやれしょうがないな~」

 自分の吐く息と、街の喧噪のせいでうまく聞き取れなかったが、胸ポケットからそんな声が聞こえた気がした。

「うわ!」

 意識を前に戻すと、逃げていた男が派手にズッコケ、電信柱に強かに顔面をぶつけていた。あまりにも見事に電信柱とキスしているので、追いついた俺は一瞬引いてしまった。

「大丈夫か?」

「あまり……大丈夫じゃないです」

 振り向いた男は鼻を強打したのか鼻から血を流していた。折れてはいなさそうだったが一応病院案件だな。しかしその前に話をしておかないといけない。

「お前、彼女のこと尾行してたよな?」

「何のことだ?」

「とぼけるな! じゃあどうして逃げたんだ」

「ストーカーと勘違いされて通報されると思ったんだ」

 おかしい。本当にたまたま偶然彼女と同じルートを歩いていただけだったら、声をかけられたぐらいで「ストーカーと勘違いされて」なんて考えない。勘違いされると思ったということは、そう思われてもしょうがない行為を、自分がしているという自覚があるということだ。

「普通の人はそんな勘違いはしない。なにかやましいことでもあるんじゃないのか?」

「本当になにもしてないって……」

 必死で弁明を繰り返す彼から嘘の臭いはしなかった。仮に彼の言っていることが事実だとしたら、その勘違いされても仕方のない行為のほうが気になった。

「分かった、詳しい話を聞かせてくれ。病院へ行った後でな」

 仕方ないから彼を病院へ連れていくことにした。見ると彼の顔は先ほどよりも腫れてきていた。自分でこけたとはいえ、追いかけていた自分にも責任はあるし、それにさっきハムスケがなにか言っていたような気もするし……

「良かったな何も問題がなくて」

 俺は、病院で会計をし終わった彼に開口一番そう声をかけた。もしあれで何かあれば、何となく責任を感じてしまうところだ。

「まあそうですけど……」

「話を戻すけど、彼女を尾行していたこと自体は間違いないよな?」

「それは!」

「いちいち否定しなくて良いから。そうじゃなければストーカーと勘違いされたなんて発想は出てこない。だからこれを肯定したうえで、その尾行している理由を聞きたいんだ」

 俺は真面目な顔で彼に問いかける。その内容によっては、早期に解決出来るかもしれない。

「わかりました」

 彼は深く深呼吸をして話し出した。

「俺の名前は横山って言います。佳代さんとは講義が一緒だったので知り合いです。ある日、たまたま下校時間が一緒になったのか、自分の歩く先に彼女がいました。しかし、いたのは彼女だけではありませんでした」

「どういう意味だ? 佳代さんの友人がいたとかそういうことか?」

「いえ、全く知らない男です。帽子を深くかぶっていて顔は見えませんでしたが、たぶん僕たちよりも一回りぐらい年齢が上の人だと思います」

 なんとなく話が見えてきたぞ。

「それでその男が何かしてたのか?」

「はい。その男は佳代さんと一定の距離を保ちつつ、尾行しているようでした。一日だけなら勘違いかもと思ったのですが、僕の見ている限り連日でした。なので僕は怪しいと思い、そのストーカーをストーカーしていました」

 頭が痛くなってきた。つまりストーカー被害に遭っている佳代さんをストーカーしている怪しい男がいて、その怪しい男を横山君がストーカーしていたと? なんてこった。

「マジか……じゃあ一つ聞かせてくれ。俺は佳代さんから依頼を受けて今日佳代さんを遠巻きに見張っていたが、君以外に怪しい男はいなかった。なのに君は誰を尾行していたんだ?」

「今日は単純に佳代さんを尾行していました」

「なんでだよ!」

「なんか心配になっちゃって……彼女目立つから、同じ大学の陽キャ連中もちょっと狙っているのを聞いちゃって……それで」

 今日だけに関して言えばコイツが犯人だな。やっていることが動機はどうあれストーカーだからな。とりあえず報告するか。

「佳代さんに報告をしなくちゃならない。君の事も全て話すがかまわないか?」

「はい。僕が悪いので仕方ないです。それになんとかしないといけませんから」

「真のストーカーをか? 申し訳ないが今のところ君の話だけではなんとも言えない。現に今日はその真のストーカーとやらがいなかったのだから」

 俺はそう言って佳代さんに電話をかける。

「もしもし? 探偵さん?」

「連絡が遅くなり申し訳ない。ちょっと聞きたいのだが、同じ大学の横山君を知っているか?」

「横山君? ええ、ちょっと気が弱そうな子ですよね? 知っていますが彼がどうかしたのですか?」

 彼女は不思議そうな声で聞き返してきた。当然だ。ストーカーうんぬんの話をしている時に、いきなりクラスメイトの名前が出るとは思わないだろう。

「その横山君が犯人です!」

「ちょっと!!」

「えぇ~~~!!」

 必死に否定の視線を送る彼とは裏腹に、電話の向こうで佳代さんは混乱の渦に突き落とされた。


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