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家のハムスターの態度がでかすぎるけど、なんだかんだと助けてくれるからしょうがない?2

第二話 猫探しの依頼 1

 朝早く、玄関のブザーの音で叩き起こされた俺は速攻で着替え、一階に駆け降りドアを開けた。そこには小学校低学年ぐらいの女の子が立っていた。

 依頼人にしては若すぎるが、とりあえず玄関でたってられても困るので客間に案内する。ソファーに座らせると、女の子は焦った様子で口を開いた。

「ピーちゃんを探してほしいの!」

「ピーちゃん?」

 全くもってなんなのか想像できない名前だが、おそらくペットだろう。人探しを依頼してくる年齢じゃない。

「そう。これくらいの猫」

 女の子は手を大きく広げて大きな猫だと訴えかけてくる。チラッとハムスターに目をやると、明らかにテンションがダダ下がりしている。まあネズミに猫探せって言うのも酷だしな……

「その猫のピーちゃんがどっか行っちゃったの?」

「うん。ねぇお兄さん、そのハムスターはどうしたの? ケージにも入ってないけど逃げないの?」

「ああ、このハムスターは特別なんだ。態度のデカさも特別だけど……」

 それにしても困ったな。猫探しなどけっこう大変な上に、見つかる可能性はかなり低いし、子供からお金を取るわけにもいかない。

「ここへは一人で来たの? お母さんは?」

「お母さんは家にいるよ。黙ってきたの」

「じゃあとりあえずお家まで案内してもらえるかな? お母さんともお話をしないとピーちゃんを探せないんだ」

「うんわかった」

 よし! これで依頼金を親から分捕れる。俺が内心ガッツポーズをしていると、まるで屑を見るようなハムスターの視線を背中に感じたが、俺だって慈善事業でやっているわけじゃないんだから許してほしい。

 そして俺達は女の子の案内のもと彼女の家に向かう。

「そういえばまだ名前を聞いてなかったね? 教えてくれる?」

「私の名前は朱里、桐本朱里。お兄さんは?」

「俺は和人だ。柊 和人、朱里ちゃんが来てくれた探偵事務所のオーナーだ。ところでどうしてあの探偵事務所を知っていたの?」

 俺は単純に気になった。普通小学生が猫を探してほしいって探偵事務所に来るか? まず親に言って、それでだめなら警察とかでは?

「え、クラスで有名だよ。若いお兄さんがなんでも調べてくれるって」

 最悪な噂がこの子のクラスで蔓延しているみたいだ。いつの日かお金を取れない客がわんさかやって来る未来が見える。

「そうなんだ……来るときは親と来てねって皆に言っておいてくれるかい?」

「うん。そう言っとく。それは良いけど、ハムスターも一緒に連れてきて良かったの?」

 朱里ちゃんは、俺の胸ポケットから顔を出すハムスターを指さしている。

「良いんだよ、コイツにも働いて貰うんだから」

「変なの~」

 朱里ちゃんは冗談だと思っているようだが、冗談でもなんでもないんだよな。コイツには奇跡を起こしてもらわなければ。

「ここだよ」

 朱里ちゃんはそう言って家の中に入って行ってしまった。

「おい和人」

「なんだよハムスケ」

「おま、神様に向かってハムスケはないだろ」

「神様なんだからそんな細かい事気にするなよ。それよりなんだよ」

「いやなに、猫探しでいくらぼったくるつもりなのかと思って」

 神様のクセに妙に所帯じみたことを言うじゃないか、金額は別に決めていない。ただ朱里ちゃんには、無料でなんでもしてもらえるのを当たり前だと思って欲しくなかっただけだ。

「別に……ただ働きが嫌なだけだ」

「ふ~ん」

 ハムスターがにやにやした視線を送ってくる。なんかムカつくなコイツ。

「なんだよ」

「いや別に」

 俺がハムスターとじゃれあっているうちにドアが開かれる。

「入っていいよ」そう言って朱里ちゃんは、手招きをして中へ消えていった。俺達も後に続き家の中へ入る。玄関には件の猫、ピーちゃんの写真があちらこちらに飾られている。

「わざわざ来ていただいてありがとうございます」

 リビングに案内されると、朱里ちゃんの母親らしき人が頭を下げる。

「いえ、こちらこそ突然押しかけてしまってすいません。長居はしませんので」

 朱里ちゃんの母親の話では、ピーちゃんが帰ってこなくなったのは3、4日前からだそうだ。もともと良く外に出る猫だったらしく、1日帰ってこなかった時はそこまで心配していなかったが、3日4日と続くと話が違ってくる。

 一通り行方不明の猫、ピーちゃんの話をし終わったところでお母さんが心配そうに身を乗り出した。

「ところで探偵さん、報酬はいくらぐらいですか? 金額によっては用意に時間がかかりますので……」

「そうですね……5000円でいかがですか?」

「えっ! そんなもので良いのですか?」

「ええ、僕の中ではそれぐらいが相場です。では、失礼します」

 俺は今日の夕方にはもう一度伺いますと言い残し、ピーちゃんの探索へ。朱里ちゃんからピーちゃんの写真を借りてきているので、定番の聞き込みを開始する。とりあえず飼い猫の行動範囲はそれほど広くは無いはずなので近場の商店街へ向かった。

 この商店街は俺もたびたび利用するため、顔なじみの店が多い。生活に必要なものは、ほぼここで揃う程度には賑わっている商店街だ。

 聞き込みを始めて数時間、ほとんどのお店の店主に話を聞くことができたが……

「よく食う猫なんだな」

 ハムスケの第一印象はそれだった。俺も同感だ。どうやらピーちゃんは朝から夕方までこの商店街をぶらぶらし、あちらこちらの店でご飯を貰っていたらしい。随分と愛されて育った猫のようだ。

 しかし、ここ数日見たかと聞くと皆首を横に振る。どうやら朱里ちゃんの家に帰っていないだけではなく、ここら一帯から消えてしまったようだ。


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