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漫画「メトロ」 *20/8/27

読書記録:
本郷地下/「メトロ」

あらすじ:
性に対して親から抑圧され続けてきた水葵は、通学中の電車内、いつも同じ時間、同じ車両で見知らぬ男に体を触られていた。逃げることは出来たのに、その行為を受け入れてしまう水葵。ある時、水葵はその男──忍を見つけ出し、取引を持ちかける。「…教えてください。電車でした、それ以上のこと」マゾヒスティックな水葵の“命令”に、淡々と応えていく忍。しかし、背徳に耽り、欲望に溺れる日々の中、無感情だった忍にも、次第に変化が訪れ始め……。闇を抱える男×抑圧に苦しむ少年の、生々しくも美しい、インモラリティ・ボーイズラブ。

昨年発売のコミックスですが、ある日SNSの試し読みをみて、少し前に購入していました。
「痴漢」「SM」との説明に購入を躊躇っていましたが、試し読みの雰囲気と、評判が良いのを見て購入しました。独特の雰囲気で物語が一貫されていて、薄暗い雰囲気なので読み手は少し選ぶかもしれませんが、あまり知られていない良作です。

表紙、裏表紙含めて構成のデザインが素晴らしい

表紙に、背表紙のようにタイトルとロゴが縦に入っています。Amazonのページに飛んでいただくとわかるのですが、裏表紙は電車の外側から見た車窓のみ。とてもかっこいいです。
そして、普通のコミックスなら、まずは扉絵があったりタイトルがあったりしてから、目次がまずあって1話が始まると思うのですが、
この漫画はそういったものが一切ないまま本編1ページ目が始まり、数ページ後の1話目の雑誌掲載時の表紙が入ったところで、本来の書籍裏表紙(車窓のみ)と目次が入ります。
電子書籍では「デジタル配信用に再編集を行ったものです」と記載があるので、紙の書籍とは違うのでしょうか?それにしても、表紙を含め、書籍も欲しくなるデザインです。デザインは円と球さん。さすが素敵です。

少年の生き生きとした成長

地下鉄の中での痴漢のシーンから始まる本作ですが、痴漢を受ける側の高校生・水葵はむしろ痴漢以上の行為を相手に要求し、彼が主導となって物語は展開します。
痴漢に対して、普通の生活では最低なものと私も思っていますが、この作品においては、酷いことにあっているというよりも、水葵の無知からくる純粋な興味の対象として描かれていきます。親から「ダメ」と言われると余計に気になってしまう気持ちはよくわかるなぁと共感してしまいます。
そこから、抑圧されたものを得て更に奔放になり、水を得た魚のように生き生きと変化して表情も明るくなっていく、少年の成長が描かれていたのも印象に残りました。


個人的には、この作品にはSM的な要素も特に感じられませんでした。電子書籍特典の書き下ろしペーパーの内容を見て、「SMものだったのか?」とむしろ頭をかしげてしまいました。
SMものというより、仄暗い共依存ものかな、と捉えています。

この2人ともが強い抑圧を受けていて、地下に埋められている感情がありました。コミックスにまとまる前、単話配信の「メトロ」の表紙はヒヤシンスらしい球根を手に持った水葵がイメージ画像になっています。タイトルの「メトロ」はそこから付けられてもいるのかな?と感じました。
読んでいると地下鉄の音が響いてくるような、外の空の明るさがわからず、今が何時かわからなくなってしまうような情景がとても似合います。

ある過去から無気力な男・忍が、高校生の水葵を電車の中で痴漢の対象として捕らえて徐々にエスカレートさせていくところからお話ははじまりますが、本当の意味で捕まったのはどちらだったのか?そして、この先この薄暗いメトロではじまった二人はどこにすすんでいくのか?
BLの定石はハッピーエンドですが、そうともとは言い切れなさそうな終わり方で、どのようにも想像ができる終わり方が余韻を残して、印象に残る作品でした。

本郷地下さんの前作「世田谷シンクロニシティ」も、ありふれたBL漫画とは一線を画しているようで、面白そうです。一般誌でも漫画を描かれているようなので、そちらも読んでみたいと思います。


BLCD

ちなみに、こちらも発売されているそうです。結構評判が良さそうなので、気になります。地下鉄の中の雰囲気をどのように音源化するのか、音のみの作品になっても面白そうな作品です。




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