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問い

暮れ行く光を見つめながら
虎は
なぜおれは虎なのかと
自らに問いかけた

もう何日も
獲物を狩れていなかった
食べないことで
初めて虎は考えた

なぜおれは狩るのだ
なぜ木の実や草だけで
腹を満たせないのだ
なぜおれは爪を立て、歯を突き立て、顎で肉を引きちぎるのだ

弱った体で獲物を追いかけるが
迷いが邪魔をして
追いつけない
虎は不思議でしかたがなかった

なぜおれは虎なのだ
なぜ鳥や虫や馬や象ではないのだ
喰えているときは
そんなことは考えもしなかった
生まれた時から虎で
虎として死んでいく
他にはあり得なかった

おれは肉を食べるしかない
食べなかったら
土になるだけだ

虎は今
自らの境界を知る
おれが土になったら
そこに草が生え
馬がそれを食べる
すべての生きものには境界があって
それを踏み越えることはできないが
その境界を作ったのはおれなのだろうか
それともおれ以外の何かだろうか

おれがこの生涯で
狩ってきた生きものたちは
おれが選んだのか
それとも

虎は
自分が殺した生きものたちを
ひとつひとつ思い出した
追いかけ、喰らいつき
引きちぎったその肉は
いのちだった

夜になり
もう虎は
あとは眠るだけだ
深い眠りにつくだけだ
問いの答えに
手が届く頃には
虎は境界を越えている

2020.6.18

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