詩/あのころ、生きること

話す人がいなかったころに
沈んでいた
わたしだけの世界は
静かで
やさしくて
海の底のにおいがして
森の光のおとがした
足がちゃんと
地について
空のうつりに
心が揺れて
ひとりの世界ほど
うつくしく
やすらかだった

いま、わたしは
話す喜びと
はなすむなしさに
耐えている
踊っている
そうとは知らずに
ただ
生きることへの衝動にまかせて

けれど生きることとは
喋らないことだった
わたしにとって
ただ
覚えていることだけだった

2024.06.06

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