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大雪 第六十二候 熊蟄穴

日に日に長くなる夜と光の翳り、昼なおそこはかとなく体から熱を奪う独特の冷えこみに、ぼんやりとしてしまっているうちに、あっという間に、大雪次候の「熊蟄穴 (くまあなにこもる)」が過ぎていました。これを書いている今日は、実は12月20日です。そして、六十二候の期間は 12月12日~12月15日。ちょうどふたご座流星群のピークと同じだった感じです。

前の週のそれはそれは寒い毎日に比べると、この期間の夜から早朝にかけての冷え込みは少し緩んだ感じはしますが、日に日に日照時間が短くなるせいでしょうか、外はもちろんのこと、部屋を暖めるという仕組みはほとんど無いタイの家の構造のせいでしょうか、家の中も冷え冷えとし、暗く眠たい感覚は深まるばかりでした。

暖房の無い部屋の中、その優しい体温と存在感で、尊いくらい部屋の中に暖かい心地をもたらしてくれる、愛おしい同居人の白いふわふわの毛皮族も、いつの間にか朝目覚める時間がいくぶん遅くなり、暗い時間帯の動きが緩慢になり、眠っている時間が少し長くなって見えるのは気のせいでしょうか。

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こんな、何もかもに翳りが兆し、どこか眠たい時、こんな時に頑張って元気にしようとしても、気持ちと身体感覚がチグハグになるばかりで、あまり良いことはない気がします。
そこで夜になると、蝋燭をつけて明かりもほの暗くした、部屋の隅にマットレスを敷き、その上にはもくもくした手触りの毛布、そして枕やクッションを沢山転がし、目についた本の小山をいくつか積み上げた(読んでも読まなくてもいい。とにかく巣から出ずに済むように)「巣」を作り、そこで羽布団を体に巻き付けて暖かいものを飲みながら、本を読むのが毎年のこの時期の習慣です。

時折、何かの気配に耳をそばだてて、庭に出てみたりもする白いふわふわも、夜が更けてあたりが冷え込み始めると、「ひゅん。」と、小さな鳴き声を立て、こちらを見つめてくるので、本を読む傍らのクッションをどけ、マットレスをぽんぽんと叩いてみせると、そこへやってきて、こちらに背中を押しつけながら丸くなります。するとまもなく、彼の子供のような少し高めの体温がこちらにも伝わってきて、なんとも言えない静かな安寧が兆し、その度に彼らの祖先の狼の中でも殊更に心優しかった個体やグループが15000年くらい前の寒い冬、初めて人族に寄り添ったのもこんな静かな夜だったのかもしれない。と不思議な確信にも似た感覚と、ずっと異なる種族と共にあった事の幸福感が湧いてきます。
(流星群や彗星が気になって庭に出た時、いつの間にか彼が傍らにいてくれる時などにも思う事ですが。)

熊は、子供たちを育てるために穴の中に篭りますが、私たちは、優しい毛皮族と出会った、あるいは仄暗い洞窟で小さく弱い生命として在った頃の記憶を思い出すため冬ごもりをするのではないだろうか。そんな気がします。

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