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啓蟄 第八候 桃始笑

今日で、七十二候 啓蟄の次候「ももはじめてわらう」が終わります。
この笑うは花が咲くことをいうのだとか。
こちらでは、桜や梅、桃は標高の高いところの植物で、12月から1月頃が花の頃なので、この八候には残念ながら当てはまりませんが、花が咲き始めるという意味ならば、存外当たっているように思います。

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たとえば、龍眼やマンゴー、蘭、蓮、睡蓮、その他にもさまざまな花たちが次々に、暑く乾いた空気の中に抗うように、芳しく瑞々しく蜜なる花たちを競うように咲かせ、ミツバチはその間で豊かな羽音をこの季節の通奏低音のように響かせ、鳥たちは恋の歌をうたいます。蝶は恋の道行きの道を空中に作り、まるで白い光の欠片の小川がどこまでも続いているかのようです。

そしてこの時期の極め付きといえば、ジャスミンの花。
花の盛りはもう少し先ですが、艶のある深い緑の葉を烈しい日ざしに負けず黒く見えるほどに深く茂らせ、その間に白い玉のように肉厚で水気のある花をつけ、涼しい香気であたりに満たす様は、ただただ高貴です。

チェンマイのアトリエでは、そんな花がこの候の始まり、ちょうど三月十日、まさに気高く涼しげな人が微笑するかのように花開き始めました。
これからタイ正月「ソンクラーン」のある四月、そして雨季まぢかの五月までタイは暑さをまして行きますが、この白い花の香りと姿を傍らに感じていられたら、心の内側には澄んだ水がいっぱいに満ちているような感覚を保っていられそうな気がします。
実際、一緒に仕事をしているタイの女性たちは、この花を髪にそっと飾ったり、胸元に忍ばせて香りや花弁の冷たさを身近に置いています。そんな彼女たちとジャスミンは、よく似ているみたいです。

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