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晴明 第十四候 鴻雁北

第十四候は、4/9~4/13頃。だいぶすぎてしまいましたが、この時期は、タイでは、ちょうど本当のお正月(ソンクラーン 12~13日)、いわば年末からお正月にかけてという慌ただしい時分だったのです。

もちろん、今は西暦に合わせた新年も祝いますし、中華系の人たちならば春節も祝うので、タイにはお正月は三回ある感じですが、この国の主な民族であるタイ族にとってはやはり四月のお正月が本当のお正月という感覚です。

そんな新しい節目を迎えるために、徳を積む行事や土地神様へのいつもより念入りな挨拶、大掃除、少し前倒しで行った「ダム・フア」というジャスミンの花数珠や香りの良い水をささげて年長者へ挨拶をし、祝福の言葉をもらう儀式などに追われ、ではいよいよソンクラーン!と、仕事の仲間たちと話し合っていたところ。。。
まさに、そのタイミングで、COVID-19の感染爆発がバンコクやチェンマイで発生してしまい、この非常時が始まった去年と同様に、ソンクラーンのイベントは一切中止、県境を超える移動を控える(要はお正月の帰省をしない)などの厳しい指示が行政から出てしまいました。
まだ落ち着いていない病禍の中のこと、ソンクラーンの華で、海外でも有名な市街での盛大な水掛けは、今年も早くに禁止されていましたが、それでもいくつかの行事は今年は再開すると発表があって、少し街の空気が明るく活気づいた矢先のことでした。

この時候の雁が北へ帰るのは、チェンマイでは二月頃に終わってしまい、どちらかといえば、インドやもう少し南の地域からコウノトリの仲間やハチクイなどがやって来る時期。そして人も故郷へ戻ってくる頃。
けれど、今年も残念ながら人の行き交いは止めざるをえなくなってしまいました。

まるで人が消えてしまったかのような市内には、せっかく飾りつけたお正月の飾りが虚しく残り(感染爆発が本当にお正月直前で、さまざまな制限の指示も突然だったのです)、それを際立たせるようにナンバンサイカチのレモンイエローの壮麗な花が枝垂れ、そこには蝉や鳥の声のみが響くというみたこともない、虚ろな光景がそこにはありました。

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中には、人混みや通り魔のような水掛けに悩まされずにソンクラーンの美しい風景が楽しめると言う人もいましたが、人の心が寄り添わなくなった街や飾りというのは、えも言われず無惨で不気味です。
以前、スコータイやシーサッチャナライ遺跡へ行った時に聞いた、スコータイ王朝の滅亡はとても唐突で、焼き物の窯などは、まるで何かの急襲を受けたのか、伝染病が急激に蔓延したのかというような、まだ作業が途中のまま放棄されていたりするそうで、今もその理由はわかっていない。というような話がやけに重なってしまうほどでした。

人が行き交ってこそトポスはエネルギーに満ちるのだと今更のように感じ、去ってしまったものたちに「君いつ帰る」と、旅立っていった雁たちに呼びかけるように、そっとささやいてみたくなる、ソンクラーンの午後でした。


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