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寒露 第五十一候 蟋蟀在戸

寒露の末候、五十一候は「きりぎりすとにあり」。 期間は10/18~10/22頃。きりぎりすと言っていますが、漢字で書かれているのはコオロギのこと。秋の虫たちが家の戸口で鳴くようになる頃という意味だそうです。

雨季で、日本から見ればまだ残暑のようなお天気で、中部や東北部、南部ではベトナムに上陸した台風の影響で洪水が広がっているタイですが、そんな中でも少し朝夕にひんやりした風が吹くように感じ始めた9月頃から虫の声はすでに少し前から聞こえ始めていました。

もともとこの国は、気温も湿度も高めで緑は深く、病気を媒介する蚊には雨季が来るたびに神経質になるのが決まりですし、カブトムシを戦わせる遊びもあれば、森が近い村へ行けば人の顔ほどもあるヤママユ蛾の仲間のアトラス蛾に会えるし、街の家の庭だって、野生の大型ミツバチが巣をかけることもあれば、遊びに来る蝶の種類ときたらもう数知れず。。そして、なにより暑季の終わりから雨季の始まりの端境に大発生する羽蟻の姿のシロアリは、うっかり見落とせば、家や本、家具をあっという間に崩壊させてしまいます。(数年前に、グローブトロッターのスーツケースを喰われた時は大ショック!)そう、タイは虫たちの国でもあるのです。(写真は世界で二番目に大きなミツバチ ”オオミツバチ Apis Dorsata ”)

プンパー


とはいえ、主には北部や東北の地域でですが、人もそれなりに彼らの恩恵を受け、豊すぎる食虫文化を持っています。日本でも食される、イナゴや蜂の子はもちろん、タガメや竹の中に育つ芋虫、噛まれると痛い赤蟻の卵、そしてコオロギも。日本より少し大きなコオロギは、こちらでは声を楽しむよりはちょっと高級な食材。
家で消費する以外、ちょっと良い臨時収入になるので、コオロギが現れる頃になると、郊外の野原などにはコオロギを捕まえる人の懐中電灯の灯りが見えたり、泥棒だ!と大騒ぎしてみたら、コオロギを探して他所の家の畑や庭までついうっかり迷い込んだ顔見知りだったなどということもあるようです。

日本では縄張りと恋のために美しい音を存分に奏でられるコオロギたちも、この国ではなかなか落ち着いてはいられなさそうです。
とはいえ、かすかに涼しく、時にはほんのり肌寒くさえ思える風が吹くようになった、月が雲間にぼんやりと浮かんでいるような夜、少しその音色は違うけれど、薄いガラスでできた楽器が、無数に振動し、鳴っているような虫たちの音は、少なくとも日本人の私の耳にはかそけき秋の声として届きます。

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