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行きたいところへ行ける自由。私にとっての車。

日本が誇る国産車の主力工場が集まるエリアで生まれ育った私は、自分の家はもちろん、周りの家の駐車場に並ぶ車を見てもトヨタ、ホンダ、トヨタ、トヨタ、ホンダ、スズキ、トヨタ、マツダ、スズキ(2,3台目としてスズキの軽のワゴンRやスペーシアが選ばれがち。が、最近ホンダの軽、N BOXの台頭がすごい)、ダイハツ、トヨタ、ニッサン、ホンダ、トヨタ……というラインナップだったため、外車なんてものは別の世界の乗り物だった。ちなみに三菱は近くに工場がなかったためか走っている車は少なく、東京フレンドパークのダーツで「パジェロ!パジェロ!」と声がかかるあの車は、外車だと思っていた。ベンツとエンブレム似てるし。

初めてのマイカーはホンダのフィットだった。そのフィットはのちに兄弟3人のファーストカーとなったため、四方八方ぶつけまくり、見るも無残な練習車になった。痛々しい。ごめん。

いまはうっかり都内の高級エリアに暮らしているため(家は億ションに囲まれた、都会のエアポケットのような雑居ビル。家賃は破格)周りのマンションの駐車場にはベンツ、アウディ、BMW、ポルシェ、ベントレー、ランドローバー、シトロエン、フェラーリ、マセラティ、シボレー、キャデラックエトセトラエトセトラ……など、地元のジャスコの駐車場で見たことのないエンブレムを掲げた車が止まっている。そんなゴージャスな駐車場を横目に颯爽と走る、私の今の愛車はボロボロのTOKYOBIKE(自転車)だ。

近所のエネオスでは人生で一度も入れたことがないハイオクのメーターが回ってるし、いま私は、田舎ですくすくぬくぬく過ごしていた当時の自分が思っていた通り、別の世界に生きているのだと思う。

もし車が運転できなかったら

東京で暮らしていると、運転免許をそもそも持っていない人、持っていてもペーパードライバーという人の多さに驚く。でも確かに、蟻の巣のように細かく張り巡らされた電車網を使いこなせるようになれば、車を持つ理由はなくなってしまう。駐車場代は高く、通勤で使うわけでもなく、週末にちょっと買い物に使えばその先で駐車料金がかかり、街中は渋滞し、首都高速に乗ればまさかの右車線から合流し、500m先でいきなり車線を端から端まで移動しなければならないなんて、どんなハードモード!圧倒的に外食が増える都会暮らしでは、車で移動するとお酒を飲むこともできない。

でも、私は車が好きで、運転が好きだ。都内では運転が得意というだけで、一つのスキルとみなされる。地方では死活にかかわるので、できて当たり前なことであり、どんなマイカーにするのか?の話なのに。

いまマイカーは持っていないのでもっぱらレンタカーだが、ハイエースで友人の引っ越しを手伝ったり、スタッドレスタイヤを履いたアルファードを運転してスノボに行ったりした。普段はマーチやスイフト、ヴィッツといった小型車を借りることが多く、週末にふらっと温泉や登山、キャンプや地方の音楽フェスに行くこともしばしば。20歳で47都道府県すべてに行ったのも、車があったからこそだ。日本地図をなぞると、走ったことのある場所ばかりで、日本中のオススメを言える。もし運転できなかったとしたら、これらの想い出はどれだけなくなってしまうだろう。車は、経験の幅をぐっと広げてくれる。

運転は、誰に影響を受けたかがモロに出る

自分で言うのもなんだけど、私は運転にはわりと自信がある。それは前述のようにフィットをボコボコにして得た経験値が私を支えているけど、18歳で免許を取った時に近くにいた人の影響が大きいと思う。

私の場合は、母と当時の彼氏だった。この2人は私が知る限りいまだに運転が上手なトップ2であり、車をどこかにぶつけるなどといったトラブルを全くイメージできない。

私は兵庫の田舎の免許合宿に通ったため、正直なところ練習コースが楽勝すぎて(一般道教習では一本道で曲がり角や信号が極端に少なく、高速教習は車が少なすぎてやることがなく、教官からは煽り方を教えてもらった)、車がバンバン走る主要国道がいくつもある地元や大学の近くを実際に運転する時が勝負だった。

怯える私にそのふたりは仮免段階でどんどん練習させてくれて、教官以上のきめ細やかな指導をうけ、こっそり実習を積みまくっていたため、特に臆することなく運転できるようになったと思う。結婚し家を出たが、実家に帰るたび母は飄々と私にハンドルを握らせ、未だに運転スキルチェックを行う。駐車のコツや高速での踏み込みや左折、右折の時の加速の具合など体に染み付いてしまった。

工業高校を卒業後、そのまま就職した当時の彼氏は18歳でヴェルファイアの新車を買っていた。勤め先がトヨタの子会社だったとはいえ、今思ってもよくあの年齢で500万円近い買い物をしたなと思う。何度も運転させてもらったし、あのヴェルファイアでいろんなところへ行った。3年以上付き合い、結婚の話も出るほどだったが、遊びたい盛りの大学生だった私はそのありがたみを噛みしめることなく振ってしまった。今思い出してもめちゃくちゃいいやつだった。幸せになっていて欲しい。

自由の代償

もちろん車は最高すぎるアイテムなのだが、便利で楽しいだけではない。交通事故は年間40万件近く発生している。

最初に書いたように、国産車の主力工場が集まる私の地元は就職先に困ることがなく、地元を出ない人が大半だ。高速道路や新幹線、空港などもさくっと利用できるし、巨大なイオンモールには私が都内で買い物する店のほとんどが入っている。(ユニクロ、無印良品、ZARA……)

控えめに言ってもめちゃくちゃ過ごしやすい。私と弟は進学のタイミングで実家を出て、今は首都圏で働き暮らしているが、真ん中の妹だけは特に離れる理由もなかったので、ずっと実家で暮らしている。

私の妹はことごとく不運なタイプで、受験にはことごとく失敗し、就職でもブラック企業を引き当て、10万人に1人と言われる原因不明の指定難病にかかった(難病とは治療法が見つかっておらず、なかなか治らないから難病なのであり、いまだに治療中。特効薬ができない限りは一生付き合っていく病気)「最近どう?(恋愛方面とか)」と聞くと、「元彼がストーカー化して警察に相談しようか悩んでいる」と返ってくるなど男運もよくなかった。

そんな妹が去年からちょこちょこ相談してきていた。「結婚までってどんな流れだったの?」
聞くと、今付き合っている彼氏と結婚したいと思っているが、向こうにそのそぶりがないと言う。見せてもらった写真には、年齢も同じだと言う好青年が写っていた。歴代の彼氏と比べ物にならないほどまともそうな人だった。しかも職業は医者だと言う。病を抱える妹に対して、これほど心強い存在っている?

でも、もちろんなりたくてなったわけではない病気と生きていかねばならない不安もあり、自分からなかなか言い出せないようだった。それとは別に子供ができづらいという診断も受けていたそうで、ぬくぬくと暮らしている私は、なんとアドバイスをしたらいいのか分からなかった。

年明けに出張のついでに数日実家に寄った際に、「妊娠した」と妹から聞かされた。正直、誰にとっても予想外。判明したばかりで、これから色々話していくことになるけど、相手はいの一番に結婚しようと言ってくれたらしい。デキ婚ではなく、授かり婚と言おうなんて言っても、どっちでもええやんと思っていたが、これは間違いなく授かり婚だ。

仕事はどうする?どこで暮らす?入籍は?結婚式は?決めることはたくさんあるけど、子供が出てくるスケジュールだけは先延ばしにならない。基本ぼけっとしていて「どうしよう」と言うだけで何も決める気配のない妹と義弟に向けて、すでに3ヶ月が過ぎた状態の10ヶ月のカレンダーを引き、それぞれのマイルストーンと優先度付けを行った。仕切り屋の長女の私はいま、仕事でも仕切り屋(制作ディレクター)をしている。こんなところで仕事のスキルを発揮するなんて……。

ずっと実家にいた妹は、初めて別の場所で暮らすことになる。そこには、愛車も持っていくこととなった。例のウイルスで外出に不穏な感じがあったのと向こうが勤める大病院がとんでもない忙しさになる予兆があったので、善は急げということで顔合わせの日程を最優先で決めた。

 

顔合わせ当日、母からLINEが届いた。顔合わせの報告かと思って開いたら、大破した妹の車が写っていた。

「昨晩妹が交通事故にあった、顔合わせは延期」

青信号で走っていた妹の車に、高速道路から降りてきてスピードを出しながら無理やり車線変更してきたおじさんが突っ込んできたらしい。妹は、車から投げ出されて歩道まで飛ばされた、と。見た瞬間、血の気が引いた。主治医がいる市民病院に運ばれた妹(いろんな科にお世話になっている)だが、気になるのは子どものこと。人生最高潮に幸せであろうタイミングまで不運な妹、こんなことってある?

 

「不幸中の幸いで、お腹の子には影響ありません」

奇跡的に、影響がなかったらしい。ここにきて最大のラッキーを引き当てた妹。暴走気味に突っ込んできた相手のおじさんは自分の非を認めないらしいが、向こうの保険会社がその人の態度を快く思っていないらしく、過失割合は限りなく10:0に近い9:1にまとまりそうとのことだった(こちらの車も動いている限り、10:0にはならない。完全に巻き込まれた事故なのに、それはどうなのと思うけど…)天誅舞い降りろ。

何はともあれ、いつもの市民病院の産婦人科で元気な子を産んでね。おめでとう、お幸せに。子どもが生まれたら、チャイルドシートを積んで、いろんなところへ行ってね。

こうやって書いてみるとメロドラマみたいだなって思うけど実話なのが怖い。妊娠の影響でレントゲンが撮れないけど、おそらく肋骨が骨折しているという妹は、後日開催された顔合わせでコルセットを巻きながら笑っていた。母は強しって本当だな、と思った。あとみんな、シートベルト本当に大事だからちゃんとしてね。

行きたいところへ

……と、妹が先に子どもを産むことになりそうだが、私もそろそろ子どもについて考えたい年齢ではあるし、実際この巣篭もり期間で夫と過ごしている中で、がっつり話し合った日もあった。子どもは欲しい。大変なことだらけなんて百も承知だけど、2人の子どもなんてかわいいに決まっているじゃないか。

でも、この東京砂漠で子育てできるのかは心配じゃないと言ったら嘘になる。そもそも車なしで子育てできるイメージがない。ジャスコのフードコート以外に子ども連れて行けるところってどこ?近所の殺風景な公園しかなくない?マクドのハッピーセットって、ドライブスルーで買うものじゃないの?

今はお互いの仕事の関係で、都内を離れることは難しい。でもリモートワークの概念がもっと浸透したら?通勤から解き放たれたら、もう少し田舎で暮らすことはできないだろうか?私は一軒家で、子どもは1人か2人、マイカー2台の生活がしたい。

幸い、私も夫も、車の運転が好きだ。車は、生活の選択肢をぐっと広げてくれる。これからどんな生活の過ごし方になるかはまだ分からないけれど、行きたいところへ連れて行ってくれる車と、上手に付き合っていきたい。

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