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日記:夢の中の君

昨日、夢を見た。通りを歩いていると、突然、後ろから抱きつかれる。誰かと思って振り返ると知人の女Nだ。大きなサングラスをかけていても分かる、人懐っこい笑顔で「ひさしぶり」としゃべりかけてくる。切れ長で大きな瞳に、薄い唇。均整の取れた身体。美人だ。僕とNは特に親しいわけではない。幼馴染でも、同級生でも、恋人でもない。2人きりで会ったこともないし、連絡先も知らない。言葉通りの知人。夢の中で僕は元気がなく気持ちが落ち込んでいた。女Nは僕に身体を密着させ、とても楽しそうに話しかけてくる。女Nには旦那と子供がいる。「家庭がうまくいっていないのかなあ」と僕は思った。女Nと一緒に歩く。僕らは腕を組んでいる。雑貨屋に入る。大小の色とりどりな小物が店内を埋め尽くしている。女Nは少し上を向き、天井からつり下がっているTシャツを見ていた。僕は気づく。サングラスの下から赤紫色の何かが見える。あざ?旦那からの暴力?「どうしたの、それ?」と僕は尋ねる。「あ、これ?」と言って女Nがサングラスを外す。両目をすっぽりと覆うように、赤黒いあざが広がっている。僕はそれを見てハードロックバンドKISSのジーン・シモンズみたいだなと思う。「ごめん、ごめん。今ちゃんとするね」女Nが言う。女Nは手を顔の前に持ってくる。僕は黙って見ている。次の瞬間、その手は両目に刺さっていた。僕は言葉が出ない。目があるべき場所に刺さった手はもぞもぞと動いている。いや何かをこねている。米だ。「顔に穴が開いたからご飯を固めて塞いだんだよね。時々こうやってこねて固めないと、表面がデコボコになっちゃうから」目があるべき場所にはくぼみが2つ。底は黒い。女Nはぐちゃぐちゃと米をこね続ける。米をパテのようにして、顔に空いた穴を補修している。僕は店の外に向かって逃げる。同時に「こわい夢見てるな」と気づく。意識があるタイプの夢。外に出ると空一面が赤黒い。女Nの顔にあるあざと同じ色。早く目を覚まさなきゃ。僕は大声を出そうとする。一度ではうまくいかず、何度目かに大声が出る。それと同時にいつも寝ているベッドの上で気づく。「こわっ」と声を漏らす。安心した。窓の外から見える空は赤黒い。まだ夢の中だった。

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