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ジェフリー・アーチャー著『ケインとアベル』- 壮大さにたまげる

読みごたえのある本はないかな、と探し、出会ったのが、ジェフリー・アーチャー著『ケインとアベル』(1979年出版)です。

上下巻合わせると1000ページほどあるので、読んだあと達成感があります。

長いのですが、一気に読み進めることができる作品です。

1900年代中盤までのアメリカの歴史や、アメリカの価値観が理解できるような内容です。

第1次世界大戦、世界恐慌、第2次世界大戦が起こった時代が舞台になっています(戦争にフォーカスが当たっている訳ではありません)。

直木賞をとった山本一力さんがインタビューでこんな言葉を残しています。

「無人島に一冊だけ持っていくとしたら、迷わず『ケインとアベル』を選びます。まだ読んでない人は幸せだと思うね、これから読む楽しみがあるから(笑)。」

不条理でも不幸ではない

たまたま同じ日に生まれたヴワデグ・コスキエヴィッチ(アベル・ロスノフスキ)と、ウィリアム・ケインが主人公の作品です。

ふたりの主人公が同じ時系列で、交互に語られていくスタイルです。

史実が含まれるので、すごくリアルに感じます。第1次世界大戦、世界恐慌、第2次世界大戦が大きなターニングポイントになっています。

上巻では、1906年4月16日に生まれた2人が、青年期に出会うまで(電話で話すのみ)スリリングに描かれます。上巻最後の場面でふたりは対立します。

下巻では、30代から人生の終盤までが描かれます。アメリカやヨーロッパを舞台にふたりは活躍し、政治の話も入ってきます。そして、ふたりの子供の世代まで登場します。

このふたりは「別の形で会ったら親友だったかもしれない」のですが、ずっと対立をしていきます。

ふたりは果てしなく傷つけ合うのですが、だからといってお互いを理解していないわけではなく、むしろお互いを理解しています。

頑固なふたりが歩んだ人生は、幸せと不幸せの繰り返しです。人生は安定していないけれど、充実していたのが伝わります。

大きく違う2人の人生

ヴワデグ・コスキエヴィッチ:東ポーランド生まれ。のちのアベル・ロスノフスキ
ウィリアム・ケイン:アメリカ生まれ

東ポーランド。男爵の私生児として生まれたヴワデグ・コスキエヴィッチ。ポーランドから追い出され、第1次世界対戦ですべてを失ってしまいます。シベリアまで追いやられ完全に人生が終わったかに見えたものの、どうにか再起します。途中脱走劇があったりとハラハラわくわくする展開が続きます。

一方、アメリカ、ボストンの名家で生まれたウィリアム・ケイン。ウィリアムはヴワデグと同じ時代に生まれたと思えないくらい恵まれた生活を送り、名門学校からハーヴァード大学へ行き銀行家となります。ただ、ケインのストーリーも波乱に満ちています。

同じ時系列で、ケインとブワデグのストーリーが交互に展開されていきます。

最初はヴワデグのストーリーに惹きつけられましたが、読み進めるとウィリアムのストーリーにもどんどん引き込まれていきます。

ヴワデグのストーリーはあまりに悲惨で読み進めるのがツラくなります。小説ではグロテスクなシーンも頭の中でマイルドになるので、どうにか読むことができると思います。

ウィリアムは銀行家の息子として生まれ、父親を超えることを目指しています。そのため、少年期からお金をどう儲けるかとか、株をどう運用するかといった話が登場します。中学校から一切お小遣いをもらわずに生活していくというストーリーにワクワクしました。

読み終わったあとの達成感

ふたりは環境がまったく違うものの、どちらもツラい環境にいます。だからこそ、生きることに執着しないと死が待っています。ウィリアム、ヴワデグは悲しい別れを経験し、一気に大人として歩き出します。

ただ生きるのではなく、どう生きていくかをドッシリと考えているふたりの人生観。

後半になるとふたりのプライドがぶつかりあっていきます。ふたりにとってプライドはとても大事な価値観で、譲ることができません。それを貫くことのスゴさと、悲しさ……。

大人にならざるを得ない少年2人

感想は、ぶったまげました。

2003年に出版されたジェフリー・アーチャー著の『運命の息子』という本を持っています。『運命の息子』も2人の男性の人生が交互に語られていくスタイルです。

『運命の息子』よりも後に発行されたと思っていましたが、『ケインとアベル』は1979年に発行された本でした。

今読んでもまったく色褪せていません。不条理の中にもかすかな希望があり、大人になるしかない少年2人の壮大な人生に、生き方について考えさせられてしまいます。

元ネタ『カインとアベル』

旧約聖書『世記』に登場する兄弟の物語に『カインとアベル』がありますが、この作品はまったく関係がありません。

どうやら、ジェフリー・アーチャーは小説のタイトルとしてインパクトを持たせるためにこのタイトルを選んだようです。

『カインとアベル』の原題は『 Cain and Abel 』です。それに対し、ジェフリー・アーチャー著の『 Kane and Abel 』とケインのスペルが違います。日本語だと『ケインとアベル』という日本語訳になっていますが、英語では発音がまったく同じです。

このアベルは誰なんだという話なんですが、ヴワデグがニューヨークからアメリカに入国する際、ヴワデグという名前を捨て「アベル・ロスノフスキ」という名前を申請します。この時「ケインとアベル」が完成します。

ジェフリー・アーチャー

作者のジェフリー・アーチャーはウィリアムやヴワデグと同じようにスーパー波乱万丈な人生を送っています。

経歴
1940年:4月15日生まれ
1967年:大ロンドン議会議員
1969年:庶民院(下院)議員に最年少議員として当選(保守党)
1973年:北海油田の幽霊会社に投資し財産を全て失う
1974年:落選

作家デビュー後の経歴です。

1976年:自分が騙され財産をすべて失った話をもとに作られた小説「百万ドルをとり返せ!」が大ヒットし、借金を完済
1985年:政界復帰し、党副幹事長となる
1986年:サーの称号をもらい、貴族院議員に
2001年:裁判で嘘のアリバイ証言を告白し、偽証罪により実刑が確定
2003年:保護観察となり出所

80歳を超えた今も執筆活動を続けています。

続編

『ケインとアベル』は男性主体のストーリーかつ、時代背景から女性があまり活躍しないのですが、続編『ロスノフスキ家の娘』では女性が大活躍します。野田聖子さんが議員になるきっかけになった本として挙げていたように思います。

男である僕がすごく楽しめたので、女性はかなり楽しめるんじゃないかと思います。

『ケインとアベル』はなかなか男臭いので、そういうのが苦手な場合はいきなり『ロスノフスキ家の娘』を読むのがオススメです。こちらはアメリカの政治、とくに1968年から1980年代までのアメリカ政治の歴史がよくわかります。

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