静寂閑雅
少しの静寂と本があれば生きていける。
僕はそっと耳を塞ぐ
周りの音が聴こえないように。
耳を塞げば静寂が僕を落ち着かせてくれる。
小学生の僕は少しだけ背伸びしてて
周りの大人は子供らしくないとか
可愛げがないとか嫌な言葉をぶつけてくる。
それも聞きたくない、聞こえないように
耳を塞いだのにあの子が話しかけてくる
「ねえ、ねえ。何を読んでるの?」
「探偵が出てくる本だよ」
口の形が小さくて唇がふっくらしてて君の声は好きだなとか思うけど恥ずかしいから絶対言わないんだ。
ふと顔を上げるとその子が
笑顔で話しかけてくれる。
「一緒に帰ろう」って周りを見たら不思議なことに僕と君だけしかいない。
「なんで僕と君だけなの?」と聞くと君は少しのきょとんとした顔で
「わかんない」って言うんだ。
周りの子達は帰ってしまったのかな?でもだったら…っていろいろ考えてしまう僕。それでも構わず、
君は僕の手を掴む。その手は優しくて温かいんだ。
君は僕を引っ張って夕陽の差す教室から外に連れ出す。
桜が散り始めていてとても綺麗だった。
君は飛び跳ねてこう言うんだ。
「桜の花びらを掴めたら願いが叶うんだって」
君の願いことは何?教えてって声に出しそうだった。でも願いことは聞いて答えてしまったらきっと叶わないんだ。
君は桜の花びらを掴んでニッコリ笑ってこう言うんだ。
「〇〇君の願いが叶いますように」って
自分の願い事をすればいいのに。
僕の夢はもう叶ってるよ。
君とこうして一緒にいられますようにって
僕達はそれがきっかけで付き合いはじめて大人になって喧嘩もたくさんしたけれど
結婚した。
僕のことなんで好きになってくれたの?って聞くと君は微笑んで
「実はあのとき小さな嘘をついたの。なんでみんないないのって聞かれたとき。皆にお願いして貴方に告白したいから隣の教室に隠れててくれって。皆なんだかんだで協力してくれて嬉しかった。あなたの本を読んでる顔が堪らなく好きだったの。もちろん今も好きよ」って。
その顔がとても愛おしくて僕は君を優しく抱きしめる。僕は本を読むことが好きで、こういう仕事がしたいと小説家になった。会社員から小説家になりたいって兼業したいって言ったら反対されると思ってたけど、妻はそんな僕を応援してくれた。
「いつもありがとう」と言うと
「こちらこそ」って返ってくる。
今日も会社に行って帰宅して執筆をする。
会社は辞めたくない。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
妻の声に癒やされて僕は玄関を出る。
本日も晴天なり。
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