[禍話リライト]異道[禍話R 第三夜]
(ほろ酔いだけど、家も近いし自転車で帰ってしまおうか)
もうすっかり夜も更けた故郷の町。
久しぶりの同窓会で懐かしの面々に会った楽しさも手伝ってか、大分頭が緩くなっている感じがする。
同窓会の最後にうたった青春時代の流行歌を口ずさみながら、ゆったり街を見てはキコキコとペダルをこいで帰るのはノスタルジックな感じがした。普段はやりがいのない仕事に無理矢理やる気を出しているのに、当時は勉強以外は何でも楽しく精力的に過ごせていた。家々の間を抜けながら思い出を楽しんでいると、ふと同窓会での会話が思い出された。
「そうか…、Aはもう死んじゃってるんだなぁ…」
Aは当時よくつるんでいた仲間だったが、数年前に癌でなくなってしまったと同窓会で教えられた。自分も含めて同級生は皆40に近い年齢である。同窓会でもチラホラ人が減り始めたという印象もあり、棺桶に足を突っ込んでいるというには時期尚早なれど死が少しずつ身近なものになっている感覚があった。しんみりしているうちに自転車は当時の通学路にさしかかり、懐かしい自分の実家への道が見えた。
「あーあ、若いころに戻りたいなぁ」
そう呟いたとき自転車の音が聞こえた。
自分のものではない。
少し横に入った道の先で大分年季の入った錆びついた自転車の音が聞こえたのである。
ギー、コ ギー、コ ギー、コ ギー、コ
微かな音ではあったが夜中に聞こえる音としては不気味だ。
嫌だなと思いながら帰宅しようと足に力を入れると記憶をかするものがあった。
(これってBの自転車の音に似てる)
BはAほどではないが仲が良かった友達だった。友達グループとかではなく、単に趣味があった一対一の友達関係で家も近かったため一緒に帰るぐらいには仲が良かった。
Bは同窓会には居なかった。
Bは同級生の中では友達が少なかったため出席しないことは不思議ではなかったが、同窓会の中で漏れ聞いた話には少し込み入った事情があるようだった。
曰く、大学で交友関係やら学業やらが上手くいかず、それ以来実家にこもりきりになっている、とか。
(これがBだったら少し話したいな)
わき道は車が一台何とか通れるほどの幅で難なく自転車で入れた。両脇には隙間なく木造の住居が並んでおり、地面はコンクリートではなく何と石畳で少し古風な感じがした。
途中で人とすれ違ったり、明かりのついた家を少し覗いたりとガタンガタン自転車を漕いでいると、前方の少し遠くにBらしき後ろ姿が見えた。案の定、学生時代のようなガタガタの自転車をギコギコ漕いでいた。
おーい、B
そんな風に声をかけようとしたとき、Bの姿が何だか気持ち悪く思ってしまった。Tシャツに短パンでサンダル。いかにも少しコンビニに出かけに行くような恰好であるものの少し季節外れであるようだった。
30-40にもなって子供のような恰好で今でも当時の自転車を使っているのか。
私は少しガッカリした。
ガッカリした自分にもガッカリして何と声をかけたものか分からず、その日は話しかけずに家に帰った。
翌朝、朝食の席でB君を見たことを話すと母は驚くべきことを言い出した。
「B君をみたってあんた、B君は2,3年前に死んじゃってるべや」
母が言うには、丁度自分がBを見たほどの夜中に自転車に乗っていたところを飲酒運転にひかれて亡くなってしまったらしい。
私はしばらく言葉もなかった。
Bは轢かれた場所で今でも幽霊になって自転車を漕いでいるのか。
何とも恐ろしい気持ちになって、その日は実家から出ずに過ごした。
しかし、翌日に私は決心した。
「せめて自分だけでも幽霊になってしまったBを弔ってやりたい」
私は花屋に行って小さな花束を買い求め、大型ドラッグストアに行って線香と清酒を買い求めて件の横道に向かった。
然して、横道は影も形もなかった。
酔っていて気付かなかったが、記憶の中でも目の前の現実でもそこは行き止まりだった。
母に聞いたらBがひかれたのは別の場所であるという。
※本記事はツイキャス『禍話』シリーズの「禍話R 第三夜」より一部抜粋し、書き起こして編集したものです。(37:50~42:40ごろから)
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