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残しておきたい記事まとめ

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『女は度胸』の真の主役、忘れられた女

授業の準備をしていたら、大好きな森崎東の『喜劇 女は度胸』を見返してしまった。 この映画、倍賞美津子や渥美清が主役のようなポスターになっているが、というか実際そういう売り出し方の映画だが、 この映画の真の主役は「母ちゃん」こと清川虹子だと思っている。 内職ばっかりして、前半ほとんど喋らず、家族にすら忘れられた存在の中年女、そんな母ちゃんこそ『喜劇 女は度胸』の主役だということを軽く検証したい。 まず前半に出てくるこの画面。 手前の母ちゃんは完全にピンボケである。これが

1989年の日本のアクションの転換点

1989年にある二人の天才が交差したという話。 開始3分頃。たった8カットで構成された喧嘩シーンに、気づかれないよう1カットだけ逆回転を使い、主人公が並外れた胆力で相手をぶん投げる様子を描いている。古典的なトリック撮影だがとても上手い。 1989年、勝新太郎監督・主演による『座頭市』の冒頭のシーン。 この作品は勝新の身体能力も凄いが、 アイデアマン勝新によるアクションのネタの宝庫である。 これは敵が竹槍で突いてきたのを座頭市が刀で二つに割るところ。直後、座頭市の後ろ

『ゴジラ-1.0』が反戦に思えた理由

『ゴジラ-1.0』(山崎貴監督)が米国アカデミー賞でアジア映画初の視覚効果賞で最優秀賞をとったという凄いニュースが流れてきた。 公開日すぐに観に行って翌週2回目鑑賞するくらい面白かったのだが、「戦争を肯定的に描いている」という否定的意見をちらほら耳にしたりSNSでも見受けられたので、自分はどう観たのかを書いておく。あくまで自分はこういう構造に見えたという話であり、実際に創作者の方々の頭の中を覗いたわけではないので悪しからず。 まずネタバレなし(たぶん)で言いたいこと。 ①

ミニシアターを創るの手伝って!

大阪北区・扇町で新しいミニシアターを創ろうとしています。 ミニシアターが無くなりつつある中、 新しいミニシアターを創る話が通ったのはある意味奇跡です。 ただ、予算がギリギリで、上映機材を良いもの(古い映画だけじゃなく、封切りの新作も上映できる設備にしたい)にしたく、クラウドファンディングをやっております。 ぜひご一読ください。そしてご支援と情報拡散をお願いします。 最後に、このページ用に書いたコラムを載せます。 映画ファンは再び東を目指す シネコンとはまた少し違う、芸術

世界的ダメブームと日本の小劇場ブームのハイブリッド、映画史で見る今泉力哉監督の『サッドティー』

いきなりだが映画史から今泉監督を見てみる。 世界中で政治に怒れる若者たちが、旧態依然の大手映画スタジオを飛び出し、街でストリートで手持ちカメラでもって映画を撮り始めるのが1960年代前後。 戦後の街でカメラを回したイタリアン・ネオリアリズムに触発され、フランスでヌーヴェルヴァーグ、アメリカでニューシネマ、日本では松竹ヌーヴェルヴァーグなど各国で同時代的に起こる。呼応した若い役者たちも表面の汚さや心の闇など人間そのままの姿を剥き出しに「今ここのパッション」を演じてみせる。 『

中原昌也さんに好きな時代劇について聞いてみた

京都ヒストリカ国際映画祭のトークを公開中。 京都で毎年開催の「歴史もの」や「時代劇」に特化した映画祭で、 中原昌也さんと70分たっぷりお話ししました。 中原さんが時代劇の話をするのは珍しい気がしますが、やはり中原さんらしい知性とユルさが同居した面白いトークで、僕もずっと笑ってます。ラジオがわりにどうぞ。 第14回京都ヒストリカ国際映画祭フリンジ企画 【夜のヒストリカ】 ゲスト:中原昌也(ミュージシャン、作家) 聞き手:西尾孔志(映画祭ディレクター) 毎夜、上映会場の灯

NHKの庵野監督は本当にパワハラか?

NHKのBSで『シン仮面ライダー』の撮影風景を追ったドキュメンタリー番組が放送され、そこでの庵野監督の振る舞いがパワハラだとSNSで騒ぎになっている。違和感があるので少し書いてみる。ただし、最後に気になることも書く。 まず1に、「ドキュメンタリー番組は面白いところを使いがち」だから注意が必要なのだ。「対立」とか劇的な場面で構成するので、実際より大げさに見えることがある。当たり前だが、本当のところはわからないのだ。平穏な時間ももっとあったかもしれないし、逆に更にヤバいハラスメ