誰かが頼んだ梅水晶

外出自粛が続き、家で夕食をとる毎日の中で
ふと思った。

「梅水晶が食べたい」。

梅水晶とは、居酒屋の定番のメニュー。
梅とサメの軟骨や鳥の軟骨を合わせたもので、
日本酒や焼酎に合う&合う。

おそらく軟骨の半透明感を「水晶」に
当てはめているのだろうが、梅水晶好きの私から見ても
さすがに美しく言いすぎだ。

でもその大げさなところがなんだか愛おしくて
どこの誰が名付けたかしらないが、
居酒屋で「梅水晶」の文字を見るたびに素敵な名前だなと思う。

(※調べてみたら、梅水晶は宮城の気仙沼発祥らしい)

ということで、スーパーに行ってみたのだが
梅水晶が見つからない。
店員さんに聞いてみると、どうやらそんなに
メジャーな食材ではないようで、入荷していないし
入荷する予定もないという。

しかし、一度にわかに盛り上がった私の梅水晶熱は
ほのかに燃えて冷めきらず、次の日気がつくと
ネット通販で注文していた。

700g 2,848円。

意外と高い。
しかしサメと言えば、凶暴な生物だ。
漁師さんも捕獲するのは簡単ではないだろう。
しかもその軟骨とくれば希少部位のはず。
それくらいの価値はあって当然だ。

2日後。

届いた。

ビニールに詰められた大量の梅水晶。
よく考えたら私は小鉢に盛り付けられた形でしか
梅水晶を見たことがない。

まるで彼女のすっぴんを初めて見たときのような気分。
動揺していなかったと言えば嘘になる。

私は食器棚からもっとも品の良さそうな小鉢を取り出し、
梅水晶を盛り付けた。

シソの一枚でもあれば格好がついたが、
なんといっても久々の梅水晶との再会だ。
多少の不体裁はあっても気にしない。

梅水晶の脇に、お気に入りの日本酒を注いだグラスを置く。
普段なら梅水晶は脇役だが今夜は違う。
お待ちかねのスピンオフシリーズの始まりだ。

梅水晶を舌に乗せ、そっと日本酒を口に含む。
梅の酸味と日本酒の風味が合わさって、
まさにたまらない・・・

ん?

どうも気分が乗らない。

いや、そんなことはないはず。

が、もう一口、もう二口、梅水晶と日本酒を交互に
口に入れていっても・・・どうもいつもの高揚感がない。

なぜだ。

なおも梅水晶を食べ進めるうち、
はたと気づいた。

どうやら私は、自分で頼んだ梅水晶ではなく
誰かが頼んだ梅水晶が好きなのだ。

「よ~し食べるぜ!」と気合いを入れた状態よりも、
「あ、あったんだ」という軽いテンションに
梅水晶はフィットする。

自分へのご褒美に高いものを買うよりも
誰かからのささやかなプレゼントの方が
何倍もうれしいのと同じようなもの。

東京でも日常が戻ってくるのはきっともうすぐ。

誰が梅水晶を頼んでくれそうか考えながら
気軽に居酒屋で飲みに行ける日を待ちわびている。

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