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Caspian - On Circles レビュー


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Caspian - On Circles ★★★★★

オススメトラック

1. "Wildblood"

2. "Flowers of Light"

6. "Collapser"

  

”On Circles” 概要


アメリカはマサチューセッツ州のポストロックバンド、Caspian。

そんなCaspianの5枚目のアルバムとなる"On Circles"が2020年1月に Triple Crown Recordsからリリースされました。 

前作”Dust and Disquiet"は、盟友であるBa.Chrisの死を乗り越えた末に発表されたアルバムでした。

”Dust and Disquiet"はタイトルの通り、Chrisの死からくる「悲劇の騒音」を感じられるような世界観で、悲しみや慟哭感を表現するような激しい曲もありつつ、しかしウォーミーな曲もあるという、素晴らしいアルバムでした。

Caspianは”Dust and Disquiet"の後にシングル、
"Castles High, Marble Bright "をリリース。メロディアスでストーリー性の高い曲で、ポストロック史に残る名曲”Sycamore”に代わり、ライブでは最後に演奏されることが多い曲になっています。

そして”On Circles”がリリース。アルバムとしては5年ぶりになります。

”On Circles”は、”Dust and Disquiet”と"Castles High, Marble Bright "を合わせ、昇華させた作風で、アート性が高く、かつメロディも秀逸なアルバムになっています。

プロデューサーにWill Yip(Code OrangeやDefeaterのアルバムに携わっている)を迎えたこともあり、サウンドが良いです。特にドラムの音が非常に良いですね。

 

 

トラックごとのレビュー


1. "Wildblood" ★★★★★


”On Circles”のリードトラックで、今作の中で最もオススメの曲。

タイトル通り、アフリカの広大な自然を生き抜く動物たちが浮かぶ、野生的で壮大な曲です。

静かな幕開けが、夜明けをイメージさせます。楽器が一斉に入り、太陽が昇るとともに、大自然の生命たちが眠りから覚醒めて動き出します。

ドラムのゴングビートは躍動する生命の比喩。我々リスナーも大自然に存在する小さな動物になったように、体に流れる血が湧き躍ります。

サビのギターフレーズを聞くと、獲物を狩る肉食動物や逃げ回る草食動物、地面を震わせ、鳴らしながら闊歩するゾウやキリンを感じることができます。まるで、草原に投げ出された小動物が大自然に畏れを抱くように。

そこからややブレイク。ニュードラマーJustinのゴングチックなビートは、ブレイク中でも鳴り止みません。夜の静寂(しじま)が訪れ、休んでいる間も心臓は常に激しく活動し、生命があるのです。

ブレイク後のセクションで聞くことができるギターの空間的な音作りは、地球を飛び越えて、我々を宇宙へと引き連れて行きます。

再びサビのメロディを聞くとき、我々の視点は、神のような、俯瞰的な視点に替わっていることに驚かされます。

そしてラスト。音が混沌として溢れかえり、それでいて整然としている様態は、カオスとコスモスの融合か、神の怒りか。繰り返される破壊と創造。

生命が消え去った後、再び生命が生まれ、循環していくのです。まさに”On Circles”というタイトルを冠するにふさわしい一曲。

勢いだけのレビューですが、僕が感じた"Wildblood"の魅力は、こんな感じです。

前作で言うと、”Arcs of Command”や”Darkfield”のような雰囲気の曲。必聴。

 

2. "Flowers of Light" ★★★★☆


アルバム前にリリースされたシングル。メロディアスでかつ、静動のパートがくっきりしている「ザ・Caspian」な良曲です。

世界観的には1曲目の"Wildblood"と地続きのように感じます。最後の審判で滅んだ生命が循環し、さらに生まれたその生命が爽やかに爆発していく感じ。

「枯れ木に花を咲かせましょう」という「花咲じいさん」ではありませんが、音が、芽吹く草木のように、徐々に咲き乱れて行く様態が非常に美しいです。

徐々にエネルギーを溜めて、最後にそれが全て爆発し、咲き乱れる03:30からは、Caspianの数ある名曲の中でも屈指の名パート。これまた必聴トラックです。 

 

3. "Nostalgist" ★☆☆☆☆


Pianos Become the TeethのKyleがFeatしている曲。Kyleのすごいところは彼が歌うと、一瞬でPianos Become the Teethになってしまうところ。

そういう意味では、”Dust and Disquiet"の”Run Dry”でFeatしていたO'brotherのTannerの方がCaspianに合っているような……

それかPhilipかErinが歌った方が良いような気がします。

 

4. "Division Blues" ★★★☆☆


ドラマチックで悲壮感を漂わせながら、徐々に壮大に広がっていく名曲。

前作でいうと、”Ríoseco”あたりの曲の雰囲気を感じます。オススメトラックには入れてませんが、 個人的にはかなり好きな曲です。

 

5. "Onsra" ★★☆☆☆


穏やかな雰囲気のトラック。イントロの電子音は前作の”Sad Heart of Mine”のようなサウンド。タイトルの意味は「最後の愛」。

少しづつ暖かさを帯びて、最後に包まれる流れは、もはやCaspianの専売特許。

 

6. "Collapser" ★★★★☆


"On Circles"の他のトラックと比較して、よりシャープに、よりダークに舵をとったトラックで、"On Circles"を支えるもう一つの屋台骨。「ポストロックの覇王」の異名をとるCaspianにしかできません。

"Darkfield"や"Fire Made Flesh"が好きな人におすすめです。

ゆっくりと、しかし確実に、ゴリゴリと邁進して進んでいく様態は、タイトルである "Collapser(「潰す」「崩壊させる」の意味)"の通りです。

今までのCaspianにありそうでなかったサウンド。かつメロディのクオリティは高いので、ダークであれど聞きにくさは全くありません。

演奏時間も比較的短く、コンパクトにまとまっていて、無駄がない名曲です。必聴

 

7. "Ishmael" ★★★☆☆


これも”Ríoseco”や"Division Blues"と似て、徐々に音数やサウンドが膨らんでいて、最後に頂点に達する曲。

しかし、"Division Blues"と異なるのは「ノスタルジックな暖かさ」が頂点にあるところです。

ラストまでの助走が長いほど、爆発した時の振り切りも大きくなるという、Caspianのパワーが良く表現された良曲。

 

8. "Circles on Circles" ★★★☆☆


なんでPhilip普段あんま歌わんの!!??

って思うくらい渋い声を聞かせてくれる、アコースティックなファイナルトラック。

ここまで良い声なら、またぜひ次回もPhilipが歌う曲を作って欲しいところです。

ラストにふさわしいノスタルジックな良曲。

 

余談ですが、録りためた残りの曲を、なんらかの形で今年か来年リリースするという報告がPhilipからSNS上でなされています。楽しみ

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