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「芸術はひとりで作る物」という誤解

 美術館の展示を観ていると、作品の横に題名や作家名などが書いてありますよね。あれをキャプションと言います。そこには、‘’レオナルド・ダヴィンチ作‘’とか、‘’フィンセント・ファン・ゴッホ作"と書いてあるわけです。しかし、キャプションに書いてある人物だけでその作品を完成させたかというと、そうではない事があります。多くの方が「芸術はひとりで作る物」と誤解していないでしょうか。一人の芸術家から生まれた手業とそれが作られるまでの葛藤が、作品を芸術たらしめると考えてませんか。もちろん、そのような作品は多くありますが、全てではありません。では、どんな作家が人の手を借りて作品制作をしていたのでしょうか。

【ティツィアーノの工房】

 作家だけでなく、弟子たちの手を借りた作品制作を工房制と言います。工房制を行う事で、多くの注文を受け、作品をより多く早く、世に出せるわけです。いまで言うところのアニメ制作も工房制ですよね。顔を描くのが得意な人、風景が得意な人、爆発シーンが得意な人と、作業を分けて作品を形にしていきます。これは中世ヨーロッパでも同様でした。その代表格がティツィアーノです。彼は若くしてその実力を世間に認められ、20代前半頃には工房をかまえます。教会や貴族から注文を受け、それを捌くには人手が必要だったのです。そして、素早く作る為に行ったのは人手集めだけではありませんでした。"作品イメージの転用"という手段を用いて、異なるテーマの作品を同じようなイメージを使い作成します。ちょっとわかりづらいので、以下の例を見てみましょう。

【イメージの転用:ユディトとサロメ】

 中世から20世紀まで好まれたテーマに、‘‘ユディト’とサロメ’が挙げられます。どちらもタイトルの女性が描かれており、男性の頭部を持っていると言う共通点があります。見分ける際のポイントは剣を携えているのが、ユディト。頭部を盆の上に載せているのが、サロメです。ティツィアーノはこれらのよく売れるテーマを素早く書き上げる為に、女性の表現を転用したのです。下記、2枚の作品を見てください。

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ティツィアーノ『ホロフェルネスの首を持つユディト』1570年頃

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ティツィアーノと工房『洗礼者ヨハネの首を持つサロメ』1560-1570年頃

 どちらもモデルが同じ人物であり、頭の向き、目線、そして表情や身体の構図も同じです。このようなイメージの転用を行う事で、素早く作成し、ティツィアーノ自身の手をあまり加えないよう弟子達を使っていたのです。

【現代アートの工房】

 ティツィアーノの例で理解して頂いたように、芸術作品が一人の人間による手業のみで作成されるわけでない事がわかりましたね。そして、現代の作家においても同様です。現代アートで名を馳せている方々は工房制をとっています。日本では村上隆さんの作品なんかはまさに工房制の代表格で、イメージの転用もバンバンやってらっしゃいますよね。以上、芸術作品の作られ方に対する誤解を解いてみました。

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