ワクチンを打ちたくない家族や友人に使えるかも〜動機付け面接法とその効果〜
新型コロナウイルスワクチンへの拒絶感情
昨年から流行が始まった新型コロナウイルスに対して有効とされるワクチン摂取が始まっている。ワクチンの審査のデータを見ると感染率の減少と副作用による重症リスクが低いというものが出ており(1)、経済的な観点で見れば、概ねコストよりもベネフィットの方が大きいことが考えられる。
ただ、報道やそもそものワクチンへの信用感などのなさによって、ワクチンを打ちたくない人は一定数存在し(2)、そういった人々への対応、いかに自由選択によってワクチン摂取をしてもらえるかが公衆衛生上の課題となっている。家族や友人に打って欲しいけれど、他人の体のことだし、何も言えないという人も多いだろう。
今回は、そういうワクチン摂取のような、家族や友人に強制的な行動変容を促しづらいものについて有効な手段である動機付け面接を紹介する。読者の周りのワクチンに嫌悪感を持った人の行動変容に、そしてその人たちに少しでもワクチン摂取に前向きになってもらったり、またワクチン摂取以外の行動、例えば禁煙などの支えになってもらえたりするとありがたい。
データや恐怖でねじ伏せたり、論破するのは無意味?
まず、一般的に人の逆方向への行動変容を促すときに、その人をデータ、恐怖などの手段を用いて「ねじ伏せる」、もっと言うと「論破」するのは、有効ではないことがわかっている。
Sweenyら(2010)によると、1.行動の変容が必要なもの。2.望まない行動を促そうとするもの。3.情報を聞いた後、嫌な気持ちになったり、楽しい気持ちを遠ざけることが予測されるもの。人はこの3つの情報を拒絶しやすい(3)。また、こういった情報に触れたとき、自分の元ある立場や考えを強化することが指摘されている(4)。
つまり、データや恐怖を使ってその人の持っている考えや論理をねじ伏せたとしても、その人が持つ考えがかえって強化されてしまうのである。
では行動変容を促すアプローチとしてどういったものが必要だろうか。その一つにあげられるのが、動機付け面接である。
動機付け面接とその効果
動機付け面接とは、アメリカで開発された手法で、その人の変わりたいという動機付け、及びその動機付けを阻害する思いを聞き出し、動機付けについてのアイデアやデータを提供するという対話手法である(5)。この手法は主に4つの原則がある。
1.オープンクエスチョン:対話の際、相手の思いや考えなど、「はい」か「いいえ」では答えられない質問を行う。
2.共感:相手の考えに共感したり、そういう考えが決しておかしいものではないということを伝える。
3.反応:相手の言葉を真似て、相槌を打つ(例えば、「副作用が怖くてワクチンが打ちたくない」と言ったとする「副作用が怖くてワクチンが打ちたくないんですね。」と相槌するなど)。
4.要約:相手の考えや、思いを短くまとめたり、相対化したりする(行動cに対する〇〇さんのAという思いと相反するBという思いを聞き出した後で、〇〇さんはAという思いを持つ一方で、Bという思いを持っていて、その葛藤でCという行動に躊躇している状況であるとまとめるなど。)
5.情報提供:一通り思いを聞き出し、共感し、まとめた後、それに即して控えめなかたちで情報提供をする(例えば、〇〇なAさんにこのような情報や本があるんだけど、少しそれについて話してもいいかなあなど。)
まとめると、動機付け面接とは行動に対する思いを聞き出し、それに共感する。そして、それを要約することによって、客観視させ、最後の方で少しだけ変容を促したい方向への情報提供をする。
この方法を使った研究をまとめた系統レビュー(6)によると、この動機付けられた面接は肥満の改善、アルコール摂取量の改善、血圧の改善などに効果があった。また、カナダの乳児ワクチン摂取を対象とした研究(7)によると、動機付け面接を行った親はそうでない親に比べて生後24ヶ月までに乳児のワクチンをコンプリートする率が5%〜10%高いという結果が得られた。
このようなことから考えると、ワクチン摂取に対してマイナスなイメージを持っている人に対しては、いきなりデータを提供するよりもむしろ、その考えを聞き出し、最後の方に少しだけ情報を提供すれば良い。これは、私見になるのだが、ワクチンに後ろ向きな人の中に、ワクチン反対団体のような、過激な反対派は少なく、多くの人は摂取したいけれど、メディアの報道を見てなんとなく怖いと言ったような両価的な思いを持ったソフトな反対派の人がほとんどなので、この動機付け面接を使うことが有効であると考えられる。
実際に使ってみた
私もこの手法に倣い、動機付け面接を実際に使ってみた(ただ、テキストメッセージでのやりとりなので厳密ではないことをご了承願います)。Yくんという友人で元々、ワクチン摂取を怖がっている友人だ(先に指摘したソフトな反対派)。状況としては新型コロナウイルス感染拡大の話から何気なくワクチン摂取の話に入った。(以下やりとり)
私『Yくんは、ワクチンが打てるようになったら、打つの?』
Yくん『打つかどうか迷っている。』
私『迷ってるんだね。迷っている理由は何かあるの?』
Yくん『やはり副作用だ。』
私『ああ、やはり副作用の問題か。死亡例も報道されたりしてやはりそこは気にするよなあ。』
Yくん『うん。』
私『もし、副作用の心配がなかったらワクチン打つことについてどう思う?』
Yくん『副作用の心配がなかったらもちろん打ちたい。』
私『そうなんだ、副作用の心配がなかったら打ちたいんだ。でも、やはり副作用の懸念などが報道されているから、それを心配して打つかどうか迷っているだね。』
Yくん『(私の名前)はどう思うの?』
私『僕も最初メディアの報道など見て、副作用について怖かったんだけど、少し調べるとワクチンに関する大規模なRCTのデータが出てきて、ワクチンを打った群と打たなかった群で、コロナウイルスの感染率は前者の方が低く、摂取後の死亡率や重症化リスクは変わらないというデータをみた。だから今は前向きに考えているかな。まあ、とは言っても副作用は怖いけれどね。(データのスクリーンショットを提供)』
Yくん『そうなんだ。僕ももう一度考えてみる』
まだ、若年層のワクチン摂取が始まっておらず実際にYくんが摂取するかどうかもわからず、Yくんと私の元々の関係性もあるだろうから、これが効果があったかどうかは断言はできないのだが、実例もあった方がわかりやすいと思うので、載せた。一応、参考までに。
まとめ
今回は、家族や友人にワクチンを打って欲しく、またなんらかの行動変容をして欲しい人のためのツールの一つとして動機付け面接を紹介した。動機付け面接は、相手の立場を理解し、共感し、相対化し、最後に変容へのヒントを与えることによって相手の変化を促すというもので、効果が実証されているものである。
ただ、カウンセラーや医師、看護師でもない限りこう言った、長い時間にわたる、赤の他人に対して対話を行う場を設けるのは難しいし、政策的にやるのは現実的ではない(8)。そこで、今回は家族や友人にワクチンを打って欲しい読者という限定をした。興味を持った方は厳密でなくても良いので、ぜひ一度試してみて欲しい。
【参考文献、脚注】
(1)例えば、FDA.2020"Vaccines and Related Biological Products Advisory Committee Meeting"December 10,2020(https://www.fda.gov/media/144245/download)
(2)『ワクチン接種、希望しない人も 専門家「冷静判断を」―新型コロナ』(https://www.jiji.com/jc/article?k=2021021100523&g=soc)
(3)Kate Sweeny et al.2010."Information Avoidance: Who, What, When, and Why",Review of General Psychology 14(4):340-353.
(4)Grant,A.2021"Tink again:the power of knowing what you don't know",New York.
(5)日本医療行動科学会『動機づけ面接法』(http://www.jahbs.info/TB2017/TB2017_1_6_1.pdf)
(6)Sune Rubak.2005."Motivational interviewing: a systematic review and meta-analysis".Br J Gen Pract. 2005 Apr 1; 55(513): 305–312.
(7)Thomas Lemaitre et al.2019."Impact of a vaccination promotion intervention using motivational interview techniques on long- term vaccine coverage: the PromoVac strategy".Human Vaccines & Immunotherapeutics, 15:3, 732-739.
(8)例えば、前傾(7)の実験では、一人当たり10~30分の時間が費やされている。基本的に全ての国民の摂取が目指される、新型コロナウイルスのワクチン摂取の中で、これを行うのは現実性があまりない。
【ダクト飯他関連記事】
学生でお金がなく、本を買うお金、面白い人と会うためのお金が必要です。ぜひ、サポートよろしくお願いします。