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ふたりの坂本龍一


 私には弟がいます、我妻のです。
ですから義弟です。現在は65歳。彼とは彼が小学4年生からのお付き合いです。彼はY市役所に勤めていました。
退職後、小さな喫茶店を開き、3年間経営しました。昭和ノスタルジック溢れる感じで、映画のチラシを上手に壁に貼り、雰囲気を醸し出していました。お客は目の前にある公園を訪ねる人たちをターゲットにしていました。ま、違ったお客さの方が段々と多くなりましたが。お客が来ない日は本をとてもよく読んだと言います。あるころから思ったことがあったようです。小説が、自分にも書ける…デス。
もう一つ、最初は食事は出しませんでした。が、しかし、お客のニーズからかランチをインスタント食品を利用して提供し始めたのです。自分でも家から得意の餃子を作ってきては、餃子ライスを提供して、好評だったようです。それが災いして、喫茶店経営を3年間で辞めることになりました。なぜかと言うと、洗い物が3杯にもなってしまったのです。食事を提供すると、喫茶だけだったのが、食器片づけが3倍。一人でのんびりやっていましたから、なんか時間がもったいないと思い始めての事でした。
 小説が書ける、自分にも…で思い立って書き始めました。構想を練り、何度も何度も推敲をして。彼曰く、小説家になろうとする人は、何万人といる。しかし、実際に小説を書くのは、何十人といないとのことです。彼は、書き始めたのです。構想に1年、書き始めて半年、400字詰め原稿用紙、300枚。小説を募集している審査会に提出しました。残念ながら入選叶わず。私も提出後に読ませてもらいましたが、構想と発想はかなりユニークで面白く読みました。
 小説家の最初の行動が終わったころ、食事をしながら、そんな話を丁寧に聴くことができました。
 話が頭髪のことに及びました。彼は、バーバーに行くとき写真をもっていき、この人の髪形にして欲しいと頼んだのです。彼は、私と同じに白髪になり始めています。
「誰の髪型に?」の私の問いに
「坂本龍一」。
 私は、驚きと可笑しさで開いた口がふさがりません。
 なぜかって…。私も白髪でして、
御贔屓のバーバーで写真を持って行って、坂本龍一にしてくださいって、頼んで、3年。

2人で、お互いの髪型を見合って大笑いしました。照れくさくて…。

 彼は「小説家と呼んでください」と言いました。私は以前、司馬遼太郎の雰囲気だとよく言われました。
 今が、髪型だけ坂本龍一です。
義弟の方が、私より坂本龍一似です。

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