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腕の傷が消えるまで

 別れて一年が経った。夏は眩しすぎて、迎えられる気がしていなかったがどうやら一年を越すことができた。去年の今頃の私、あれはきっと鬱状態だったと思う。食欲がなくなり、食べなきゃと思って食べたものの味は分からず、吐き出したりお腹を下したりした。1日の中で1番怖いのは夜だった。静けさが脳の回転を加速させてくる。だからたくさん寝て、深夜にはお酒片手に散歩した。酒を飲まないと眠れなかった。

 大学を休んだ日もあった。誰の言葉も励ましも入ってこなかった。あの時の私は人間について考えすぎていたと思う。しかし、さまざまな人間に対して巡らせた考えは今でも間違っていなかったとは思う。別れた彼氏の顔、別れ際に言われた言葉、友人たちの言葉、全てのことが堂々巡りする毎日だった。

 音楽が聴けなくなった。大好きだった音楽が、今まで聴き続けていた音楽を聴くのが苦痛になった。唯一聞けたのは柴田聡子とジブリのサントラという可哀想な状態だった。 

 腕の傷は一年経っても消えなかった。腕の傷については誤解していただきたくない。死にたかったわけではない。虚ろになってしまった、空っぽになってしまった、大切なものが急になくなった、そんな自分が生きているかどうか確かめたかったのだ。腕に傷を入れてもあんまり痛くなかった。気づいた頃には腕が真っ赤だったが。

 私は生きています。強さには種類があると思うけど、私は逃げずに戦った。たくさん、それはもう抱えきれないほどの他人の傲慢さ我儘さ無知さに気づいてしまった。気づいてしまったけど、他人を許す決断をした。
 人を想う自分、逆張りする自分、正義感のある自分、みんなさまざまな形で自分を愛しているらしい。

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