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TKA4オープンスペース(とちょっとだけ酒)の話

 いやはや見事にやらかしてしまった。2週間に1本ほど記事書きたいなんて言いながら前回の記事を書いてもう1ヶ月。うーむ光陰矢の如し、いやもはや弾丸だなあなんてあごヒゲを撫でてカッコつけている場合ではない。三日坊主と至極真っ当な罵りを受けても全く返す言葉がない。毎度のことながら情けない限りだ。
 端的に言って、「書くという行為以上の意義」「書くという行為によって獲得されうる目的」に目を眩まされてしまったのだ。前回の記事でROGの現状を伝えたこと、また『情況』からココにたどり着いてくれた人に、より直接的なフォローアップをしてもらうため新しい記事で流してしまわないようにしたこと。せっかくならこの場から遠い地の窮状を知ってもらおうという目的意識。そして、書くなら同じくらいの重量をもった記事にしなければならないといういらぬ義務感。

 だって仕方ないじゃない。2月に入ってスロヴェニア当局はメテルコヴァにも圧力を強め、機動隊による示威行動を繰り返している。こんな状況じゃあこのヤクタイもないnoteだろうが身の回りのものなんでも使ってできることをやろうと思うのが人情ってもんだ。『情況』を読んだ人に興味を持ってもらい、ココに誘導した上で現状を知ってもらう。文字通りの密入国でもしなければ現地に行けないこの状況下では、僕じゃなくてもこれくらいしかできることはないと考えるはずじゃなかろうか。ああいうコミュニティを新たに創造し、そして維持するのは極めて難しいことを考えればなおさらである。
 というところでふと思い出した。そうだ。僕はTKA4なるスペースを運営しているんだった。

 TKA4のことを知らない人のために軽く説明しておこう。TKA4とは「都営高円寺アパート4号棟」の略称で、その名の通り高円寺に程近い(最寄り駅は丸ノ内線の東高円寺駅)環七沿い、半ば廃墟となった都営アパートの1階テナントスペースの1室を借りたものだ。詳しい経緯などは2018年の夏にスペースを開始した際のクラウドファンディングページに詳しいので興味がある人は是非(クラウドファンディング自体は終了しています。悪しからず)。せっかくなので冒頭のTKA4宣言だけ引用しておこう。

何もかもがお金でしか測られない現代社会。何もかもがその利用価値でしか測られない現代社会。「住む場所」でも「仕事場」でもない空間を持つ。
私たちに必要なのは遊び場だ。何をしてもいい。何もしなくてもいい。寝そべって映画を観る。拾った鉄板で溶接をする。絵を描く。シーシャを吸う。筋トレをする。ビールを飲む。料理をする。爆音で音楽をかけて踊る。昼寝。コーヒー。散歩。タバコ。サンドバッグ。鍛金。木登り。刺青。カレーを食べてまたビール。
遊ぼう。無駄なことをしよう。百害から一利を探そう。うまく死のう。楽しく死のう。このビルのように。この都営高円寺アパート4号棟のように。

 TKA4を一言で表すのはすこし難しいように思えるかもしれない。イベントスペース、ギャラリー、アトリエ、劇場、サロン、溜まり場、部室.......。様々な人が色々なことに使ってくれているが、なんのことはない、簡単に言ってしまえば単なる遊び場だ。(矛盾している言葉ではあるが)私有の公園くらいのモノだ。それこそ読者同志諸君がまさしく今眺めているココがそうであるように、無駄を慈しみ、無目的にただ存在することができる場所を目指している。ちょっとグレーな話になるが、当然利益目的ではないただの遊び場なので営業許可なども取っていない。よって、比較的制約の少ない活動ができる。例えば一度ある劇団がハコとしてTKA4を使ってくれたのだが、客も演者もくわえ煙草、サーバーから生ビールを注いで演者が飲みだし、挙げ句には第4の壁などナンノソノと客にまでビールを振る舞い始める有り様であった。いや、僕も日本の劇場事情に明るいわけではないので飲酒喫煙可の劇場も珍しいものではないのかもしれない。ただ、当の劇団がこの何でもしていい環境を持ってしてTKA4を上演会場に選んでくれたという点は僕が推測するまでもなく本人たちの語るところである。また、表は環七、裏は公園と墓地、上部居住区域は(1人のおばあちゃんを除いて)無人となっているため、夜中の3時に大音量でレイヴパーティーをしていても全く問題はない。

 TKA4は僕を含めて5人のメンバーによって運営されている。本人たちの許可を得ていないため詳しいメンバー紹介は別の機会に譲るが、何を隠そう僕ともう1人を除く3人は2017年に僕と一緒にスロヴェニアを巡り、ROGに宿泊している。言うまでもなく、そこで僕たち4人はTKA4へと繋がる天恵、いや人恵、いやいや場恵か?を得たのだ。普段ぼくはROGをTKA4の姉妹施設と嘯いているが正しくは母娘くらいな関係なのである。だからROGの強制排除は友情と経験という薪に焚き付けられた個人的な憤りだけではなく、TKA4だっていつどうなるかわからないぞ、明日は我が身じゃコンチクショウという焦燥感にも火を着けたのだ。

 このパンデミックの中TKA4も例に漏れず鳴りを潜めていた。以前は毎週のように行われていたパーティーやイベントもなく、限られた身内が内輪の集まりに沈み込むのみであった。この感染拡大状況を見ればまあ正しい選択であったと言えるだろう。ただ同時に、なんとなくパンデミックが終息するまでTKA4は存続しているだろう、それからノンビリ体勢を建て直せばいいや、という根拠のない前提を抱えていたことも否めない。ここはスロヴェニアの現状を他山の石、と言うとズイブン聞こえが悪いが、にして一度初心に立ち返らなければいけない、とメンバーは考えた。
 そんなわけで、毎週日曜日は”必ず”スペースを開放することにした。公私をセッセと混同するためのスペースが閉じっぱなしでは意味がない。僕たちも仕事や生活があるため毎日開けるわけにはいかないが最低でも日曜日、可能な限り土曜日や祝日も開けるようにしたい。
 ではこの開かれたスペースで何をするのか。もちろん増えすぎた耳のタコを塩胡椒で炒めてもう一品と食卓に彩りを加えられるくらい何度も書いているように何をしてもいいし何もしなくてもいいのだが、メンバーとしての我々、少なくとも僕はもっと遊ぶ主体であろうと考えている。ありがたいことにオープンから利用者は増え、感染症拡大の前は様々なイベントやパーティーが行われていた。もちろん僕自身も参加して楽しかった。しかし、どこかで自分を「来場者をもてなすホスト側」「スペースの運営スタッフ」と位置付け、やりたい放題やらないようにリミッターをかけるようになってしまっていたように感じる(なんて言うと酔った僕の後始末に奔走してきた他のメンバーたちから盛大なブーイングが飛んできそうだが。いやほんとごめんなさいすみませんすみません)。
 そこでオープン当初のアイディアにあった部活制度を本格的に始めることにした。大層なものではなく趣味のサークル活動、オトナの趣味クラブ(変な意味ではない。念のため)みたいなものだ。すでに文学部、音響部、溶接部、映画部などがスタートしている。特に部費や部員届けが必要なわけでもないので、フラッと遊びに来たついでに飛び入り参加も歓迎だ。オープンスペースで滞在している間の暇潰し、と言ってしまえば酷い過言かもしれないがまあいいや。
 すでにTKA4を知っている人やこんな具合にインターネットで知った人はいいとして、もう少し現実世界にも食い込もうと物々交換ボックスも始めた。TKA4に人がいる時は外に不要だがまだ使えるものを入れた箱を出しておく。取っていくだけでもいいし置いていくだけでもいい。とりあえずメンバーの私物やTKA4に放置されたガラクタをまとめてぶちこんでおいたところ、木の立体パズル、どこぞのお土産らしき置物、ルービックキューブ、北原白秋の詩集、『アドバスター』のバックナンバーなど凄まじい勢いで消えていった。やはり無駄を愛する人は決して少数派ではないようだ。今後は物々交換だけではなく技術や知識の交換、技知交換も始めたい。オープンスペースたるもの、物理的にスペースを開いておくだけではなく象徴的にコミュニティを開いておきたい。コミュニティの輪郭は曖昧なものにしておきたい。敷居、それからメンバーやレギュラーギャングと初来場者の間の垣根を僕の執筆モチベーション並みに低くし、その場にいる全員が主体となる空間を作りたい。そしてこの精神を、僕たちはROGから学んだ。

 場所を残すことは重要だ。しかしそれ以上に重要なのは精神を残すことだ。ROGもメテルコヴァもTKA4もいつか必ず無くなってしまう。なんならTKA4のメンバーもMJも僕も読者同志諸君もいつか必ず死ぬ。灰は灰、塵は塵。ああめでたいありがたい。しかし、残念ながら精神は死なない。場所から場所へ、人から人へ。人類がなんとか生き延びる以上、この無駄を希求する反逆の精神は誰かのハラワタで燦然と燃え上がり続けるだろう。僕たちにできることと言えば、僕たちよりちょっとだけ器用な人間から受け取った火炎瓶に火をつけて、僕たちよりちょっとだけ肩が強い人間に渡すだけだ。

 ........いっけねいっけね!また意義と目的をタカダカと振り掲げようとしてしまった。もっとどうしようもないこと書かないと。はい、軌道修正に以下どうしようもないこと書きまーす。
 最近晩酌をビールからウィスキーに切り替えた。理由は簡単、金がないからだ。オマワリさんの次くらいに嫌いな人種、フドウサン屋さんから住み処の更新料をムシリ取られてしまったのだ。じゃあ晩酌なんぞするなと言う人は薔薇のないテーブルでバターもつけていないパンをむさぼっている可哀想な人と勝手に思うことにする。ビールだと一晩で500ml缶を最低でも3缶は空けてしまう。多い日は6缶を超す。発泡酒を織り交ぜてなんとか安く済まそうとしていたものの、それでも一晩で1000円前後。これはちょっと痛い。
 ウィスキーでも僕はスコッチが好きで、中でも地獄のようにピート臭いアイラウィスキーが大好きだ。ハクライ品でもあるため確かに初期費用(?)としては高い。グレードを下げても700mlのビンで4000円前後。しかしちょっとばかし電卓を叩いてみると、一晩でダブルをチビチビ飲めば十分酔っぱらえるし2週間近くはもつ計算になる。ちょっと贅沢をして10日で飲み干しても1日400円前後。ビールのおよそ半額だ。
 さらに言えば、ウィスキーは嫌に腹もふくれないし翌日にも残りづらい。チビチビ少しずつ時間をかけて飲んでいるのもあるのかもしれない。アテが欲しくてコンビニまでポテトチップスを買いに走ることもない。いいこと尽くしだ。浮気でもしているような謎の罪悪感はあるが、ビールは週末TKA4で飲むか、たまのゼイタクということにする。

 ざまあみろ、最後にどうしようもない文章を書いてやったぜ。いやはやそれにしても、遠い昔遠足や誕生日やクリスマスや正月や給食に揚げパンが出る日や好きなテレビ番組が放映される曜日を待ち望んでいた感覚。年齢的には立派なオトナになった僕はもはや楽しみにするものは特になくても”何か”を待ち望むコドモの感覚に長年囚われていた。本当に、本当に久しぶりに僕はハッキリとした何か、毎週の日曜日、が来るのを首を上の階まで伸ばしやたら深夜にドカドカ歩く足音のうるさいおばちゃんとその飼い犬を驚かせながら待ち望んでいる。そんなわけで読者同志諸君、日曜日(か気マグレに開けた土曜日か祝日)はTKA4で一緒に遊ぼう。思い立ったら突然フラッと遊びに来てくれて構わない。事前連絡もいらない。もちろん手ぶらで、財布すら持たずに遊びに来てくれて大丈夫。ただ、もしほんの少しばかり懐具合に余裕があるなら、僕に週末TKA4限定、たまのゼイタクをさせてくれると嬉しいなあ。

"Ideas are bulletproof." V


終わり

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