金玉から血が出た話

3年くらい前の夏、いつものようにおちんちんを弄っていると、己が今まさに賢者と化したその瞬間、脚の付け根とキンタマの間に痛みを伴う違和感が走った。
あまりに強い不快感を感じたので、普段は見ない己の弱者男性遺伝子情報原液をふと見てみると、なんと、原液が赤錆色をし……!?!?!?

ハァ!!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?

童貞なのにキンタマ壊れた!!!!!!!!!!!!!!

ふぇ……なんか、赤錆色の出ちゃった……

え、ちんちん壊れた?
でもおしっこは普通の色だったはず……

じゃあもう金玉じゃん。さすがにビビる。
えこれ、さすがに病院行かなきゃヤバい奴じゃん!!!
なんか赤いおしっこでちゃうよぉ!!!!

さて困った。実家暮らしで親の扶養健康保険証持ちである僕が、
病院に行く際に家族に何も言わずに行くのは、ぶっちゃけかなり不自然だ。
かといって「精子がどう見てもめっちゃ血だったから病院行くわ」
と言うわけにもいかない。
我が家は基本的に家庭内で性的な話は一切しないのだ。

それに、さすがに血混じりのモノが出たなんて言ったら、エグい心配をかけてしまう。
ただでさえお先真っ暗な息子の、さらにその息子まで心配させるわけにはいかない。ここは"真"と"偽"を巧みに取り入れた嘘を尽くしかない。
ろくに親に嘘なんかついてこなかった人生なのに……こんなところで……

「なんか?キンタマ寄りの足の付根?どちらかというとキンタマあたりが痛くて?まあ大丈夫だと思うんだけど?なんかおしっこする時ちょっと痛いから?一応ちょっと見てもらってくるわ」
と伝えた。嘘である。おちんちんからブピュブピュと血が出たのだ。

「き、キンタマ……wプッwキンタマが痛い?……wおもしろ……一応内蔵だし早く行った方がいいよ、気を付けていってらっしゃ~い」

母親にはかなり笑われてしまったが、なんとかごまかすことができた。
まさか血が出ていると言ったらさすがにビビるだろう。

親たるもの、子供のことなんてある程度はお見通しとはいえ、さすがに息子の息子がお赤飯炊いてることまでは気づいちゃいない。

そして翌日、泌尿器科に行った。
受付けでお姉さんに軽く問診をされて質問に答えた時は、羞恥プレイとはこのようなものか。
と、新しい世界の扉の鍵を知らないうちにゲットしかけたレベル。
なにもOKじゃない。次に進もうぜ。

羞恥プレイを終えて、待合室で待機していると、僕とキンタマとの思い出が走馬灯のように蘇る……

小学生の頃に一輪車で強打した思い出。
ブランコからカッコよくジャンプしようとした時に柵に強打した思い出。
初めて履いたジーパンでチャックに挟まって……

ろくな思い出ねえじゃねえか。

ロクに働きもしないくせに、やれオカズだオカズをよこせ等と時間ばかり食いやがって、挙げ句出血だと?盲腸以下の無職臓器め。
主従似た者同士である。我は汝、汝は我……

待合室にてしばらく待っていると案内がかかり、先生の下へ通された。
「本日はどうされましたか?」
ロマンスグレーの白髪が良く似合う、シャキっと背筋が伸びた50代後半くらいのイケオジ先生だ。
渋く、ハツラツとした大きな声が狭い泌尿器科内によく響いていた。

「あー、すみません、おちんちんから血が……
というか、精液からたぶん血が出るんです、赤錆色の」
「最近、数ヶ月以内に性的接触はありましたか?」
もちろん僕は正直に答える。
「覚えている限りでは25年間はないです……」
「ンフッ、じゃあ絶対安心だね。たぶん細菌の感染とか炎症を起こしているんだと思うので、尿検査をして触診とエコーを行います。そちらのベッドでおかけしてお待ち下さい」
今ンフッっつったろお前。

ベッドを囲うカーテンが閉じられると、外の影からから渋い声が聞こえる。
「ズボンとパンツを脱いでベッドに横たわってください」
言われるがままにおパンツを脱いで横になると、妙にイケナイことをしている気分になった。

「触診とエコーの撮影をしていきますね」
と声がかけられ、慣れた手つきで優しく持ち上げるようにキンタマを持ち上げられ、全体を軽くふにふに触られる。

「んン゛ッ……♥」

その後、やや強めに股間の筋をなぞるように指でサワサワされると、思わず人前でチンチンがビクンと跳ねてしまう。

女の子にも触られたことないのにッ……‼!おじさんの手なんかでッ……!!!親の金でおじさんにローションを塗られて金玉を触られている……!!!

キンタマを執拗にひたすら撫でられたあと
(※医療行為です)
「エコーを撮るので上を向いて寝ください」
と体位の変更を迫られる。

エコーを撮りやすくするための措置なのか、
ローションのようなヌルヌルしたものが、
おへその下辺りからキンタマにかけてゆっくり丁寧に塗り込められる。

濡れて縮れた己の生々しいムダ毛が、最悪の背徳感を伴う謎の後ろめたさを感じさせた。

その後、血液検査や尿検査も行った。
結果として「尿道から細菌が入って精巣の通路で炎症を起こしている」という症状で、一過性のものらしかった。

「おそらく尿道から入った細菌の感染ですね、たまにあることなのであまり心配することはないです」
「出血は再発することもあるので、菌を排出する薬を飲んで、経過を見て適宜確認してください」
と先生は言った。

ん……?
"経過を見て適宜確認……?"

「先生、その"適宜確認"っていつからしてもいいんですか……?w」
僕がうっかり少しニヤニヤしながら聞くと、先生もニヤニヤしながら答えた。

「そりゃ……"確認"したい時にいつでも……まぁほどほどに、ね…….w」

「「へへへへへへへwwww」」

思わず2人でオードリーになってしまった。
地位や立場や年齢を越えた男の子のしょうもなさがそこにはあった。

少しホッとしながら受付に戻ると、受付のお姉さんがシラっとした目でこちらを見ていた。

ま、まぁ狭い泌尿器科だもんな……聞こえてたか……先生もあとでシラっとした目で見られるんだろうな……

診察後、薬を飲んで3日に一度くらい"確認"をして過ごしたが、2週間が過ぎた頃には血は出なくなっていた。

それ以降、血が出ることはなかったので、本当に一時的な感染症による炎症だったらしい。
本当に良かった…………

金玉よ、別にお前に出番は求めてないからせめて健康でいてくれ。

主と同様、活躍する機会なんてなくてもいいから、せめて俺と一緒に末永く健康に暮らそう。

あれから3年、僕も金玉も今日も元気に無職をしています!

男性の方は、もし"確認"の際に血が混じっていたら恐れずにすぐ病院に行きましょう!見た目の派手さの割には大したことのない感染症かもしれません!健康第一!

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