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エッチに至る100の情景_008「アダルト・コミック・ホーム・ステイ」

 アメリカから同い年の女の子がホームステイに来る。矢作 亮介はそう聞いて、よからぬ妄想をした。現実にそんなことは起きないだろうと思いつつ、ラッキーなスケベが起きるのではないかと。それに両親はこうも言ったのだ。「その子、日本の漫画が好きらしくて。大人向けの」。いよいよ彼は「そういうこと」を期待した。「JapanのHentai Comicに憧れてました」的な、そういう設定から始まる流れだ。
 しかし、
 「日本の男、思ってたのと全然違いマース」
 来日してから数日、亮介の前で堂々とジェシカは溜息をついていた。
 ジェシカは、あらゆる面で開放的だ。タンクトップとホットパンツで町中を堂々と歩く。それが絵になるほどのスタイルもよく、まさにアメリカンなダイナマイトな肉体を持つ美女だった。さらに性に関しては、亮介の想像以上に旺盛で……。来日した初日の夜、彼女は亮介に言った。
 「日本の男と、セックスをしに来たのデース!」。
 亮介は歓喜した。妄想が事実になったと。しかし――。
 「ジェシカさん、残念だけど、あなたの求める男は現実にいないよ」
 溜息をつくジェシカに、亮介は事実を告げる。
 「でも、マンガで読んだのデス。日本の男はセックスをするとき、たった一言『あんたを抱く』って、バッとシャツを脱いで、そして私は『!』とビックリして……」
 ジェシカは確かに大人向けの漫画を愛していた。が、ちょっと意味が亮介の思っていたやつと違ったのである。
 「その口説き方と『!』って反応は、池上遼一先生の世界だけだよ」
 「そして、『ギンッ!』ってエレクチオンするのデース!」
 「『エレクチオン』で『ギンッ!』は、もうそれは完全に池上遼一先生だよ。ジェシカさん、古いよ。いや、池上遼一先生は今も『トリリオンゲーム』でバリバリ現役だけども」
 「日本には、そういうクールでタフな男がいると思ってやってきたのデース。でも、どこにもいまセーン」
 「そりゃそうだよ」
 「こうなったら、やむをえないデスね……。リョースケ! あなたに、なってもらいます! 今日から、あなたを鍛えマース! 理想の男になって、私を抱いてくだサーイ!」
 「……は?」
 それから数か月、地獄の日々が始まった。亮介は運動が苦手だ。身長は175㎝、体重は51キロ。自他ともに認めるヒョロガリだ。しかしジェシカは、そんな彼に躊躇ない訓練の日々を課した。1日2時間の筋トレ、1時間の有酸素運動、高たんぱくの食事。本来なら耐えられない過酷な日々だったが、そこはNoと言えない日本人。彼は血反吐を吐きながら己を鍛えた。それに、ある頃から変わっていく自分に快感を覚え始め――。
 そして、半年の月日が経ち、ジェシカが帰国する日がやってきた。
 「遂にサヨナラですね。この半年間、あなたの成長を見届けられて、満足デース」
 「なんのためにホームステイに来たんですか、ジェシカさん」
 亮介はそう言いつつ、しかし、半年前より三倍は太くなった上腕二頭筋を見ると――。
 「でも、ありがとうございます。あなたのおかげで僕は変われました。昔の自分より、今の自分の方が好きです」
 「それはよかったデース。ところで、ワタシを抱く件デスが……」
 「今ならNoと言えますよ。そういうことは恋愛をしてからやるべきだ」
 「フッ、真面目な人デスね。ま、リョースケのそういうところ嫌いじゃないデス。では、これからも良いお友達でいまショー」
 「だけど、お礼はしたいです。僕を変えてくれたあなたに。あなたの夢を叶えたい。だから……」
 亮介は、バッと服を脱ぎ捨てた。そして――。
 「今からオレは、あんたを抱く」
 「!」

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